熱海の土石流に関して

まず最初に、今回の災害によってお亡くなられた方々のご冥福をお祈りしますと同時に、被害を受けられた方々の一日も早い復興をお祈りするものです。

私は当該地域を訪れたこともなく、又地盤に関する情報を持っているものではありません。
報道されるニュースや写真から判断しているのですが、どのマスメディアも、宅地造成法のような規則に則ってなされた「盛土」と単に谷筋を埋めるために使われた「捨土」とを混同されているのではないかと思っています。

一般に、急峻な谷筋を正規の安全性を確認した造成工事で行う「盛土」は地すべりに対する安全性を高める非常に有効な工法です。この工法では、水が流れていた元の谷筋に、有孔の埋設管が血管の如く配置され、盛土前と同等の水量が下流側に安全に流れるように工夫されています。また、造成すると雨水の流出比が増加するので、一定の表面水を一時的に貯めておく調整池が設置され、安全に水を下流に流すよう計画されます。上記の埋設管や調整池の大きさや配置の位置は現地の地形や流域の大きさ、降雨強度や降雨量から決定されます。
更に下流側の斜面は十分な勾配を取り、表面を十分保護できる対策を立てておけば非常に安全な斜面が形成されると考えられます。

このように、十分な管理のもとで「盛土」が作られていたならば、たとえ今回のような異常な降雨時においても、盛土が根こそぎ押し流されるような災害は起きない、と考えています。

今回放映されている写真などを見ますと、上述しました埋設管などや調整池のようなものは全く見当たりません。災害の原因は、異常な長雨で、全く管理されないで行われた「捨土」の含水量が限度以上に増加し、土の強度が減少して、液状化している土と同じような状態となり、捨土全体が根こそぎ滑っていったのではないかと考えています。

また、報道によりますと、この谷筋が森林法で単に届け出だけで、全く工法も安全性も確認されることなく行われた、となっています。工事の管理も埋め立てた業者任せで実施されてのではないかと危惧します。この報道が正しいのであれば、大変な問題です。このような、届け出だけで行われたものは、早急に調査されるべきだと思います。

しばらくの間、種々の事情でブログを休止していましたが、今回の災害によって、開発の規則に従って埋め立てられた土地が、全く安全性の確認されていない捨土と混同されて報道され、必要以上の規制を受けるのではないかと危惧し、ブログを再開しました。

盛土された土地を見直されるのであれば、専門家による全般的な意見も大切ですが、開発地は各々土地の状況や自然条件が異なりますので、開発地ごとのきめ細かい評価が実施され、今回のような悲惨な土砂災害がなくなることを切に希望するものです。

以上

福岡陥没事故について思うこと

平成29年3月30日に事故原因究明の最終委員会が開かれ道路陥没事故の原因などが示されました。これから工事再開に向けてより安全な方法で行われることを期待するものです。

ここで、私は長年地盤と構造物の相互作用の数値解析に携わってきた技術者として、事故の原因究明の一助になればと考え、円形トンネル掘削後の地中の応力や塑性域の広がり等の技術的な問題と最近の公共事業で良く採用されている専門家による委員会の責任体制等について述べることにします。

1.トンネル周辺の地盤の応力

  • 図-1はトンネル掘削直後から塑性域の形成されていく様相を示している。トンネルの掘削面近傍では、青線(線1)で示した様に、円形に沿った方向と直角方向の応力差から降伏が始まり、塑性域が次第に広がって最終応力(線7、これ以上塑性域が広がらない応力)のところまで広がっていく。塑性域での二つの応力の差は降伏荷重にリンクするものであり、この応力差は弾性域では降伏荷重より小さな値となっている。

20140412_fig_1

図-1

  • トンネルのNATMの原理は不安定な降伏域と弾性域をボルトで結合し、全体として安定した断面を形成するものと考えている。したがって、トンネル上面の硬い層の長さが掘削によって形成される塑性域に比べ十分大きいことがNATMの適応する基本的な条件と考えている。また、ボルトがない都市NATMの場合、支保工のアーチアクションで塑性域を支える。

2.地盤の強度やトンネル断面の大きさと塑性域

  • 図-2は地盤の強度と塑性域の大きさの関係を示している。当然のことながら強度が大きければ塑性域は小さくなり、小さければ塑性域が広がる。

20140412_fig_2

図-2

  • また、トンネル断面が大きくなればそれに従って塑性域も大きくなる。
  • 以上のことから、地盤の強度やトンネル断面の大きさはトンネル掘削の安定性は勿論のことNATM利用の可否を決定する重要な要素である。
  • 以上の解析例は相当昔に行ったもので、今回の問題に対して解析したものではないが、定性的には陥没事故の原因解明には役立つのではないかと考えている。
  • 都市NATMでは高度な数値解析と的確な補助工法をもって、比較的軟弱な地盤に対するリスクに対応していると考えられる。

3.事故原因解明や今後のトンネル掘削の方法を決定に当たり重要と考えられる項目

  • 上述したように、トンネル掘削地盤の強度は最も重要な項目である。特に、非常に交通量の多い市街地での工事であるので、より正確に地盤の強度を求めねばならない。
  • 事故調査委員会が出された強度の値はあまりにもバラツキが多いのではないか?
  • もしこの様なバラツキの多い値しか提供できないなら、強度は平均値ではなく、最も低い値を用いて安全性を論ずるべきと考える。
  • 掘削されるトンネルの頂部から硬い岩盤層がどの程度存在するかも非常に重要である。現地の地盤は上部の柔らかい層から硬い層に変化しているのであるが、ある深さで急激に硬くなる箇所もあれば、柔らかい層から硬い層に徐々に変化していく箇所もあると考えられる。
  • 十分な追加調査を行って、この岩盤層の厚さを決定されるべきと考える。
  • 今回のトンネルで、トンネル頂部からの岩盤の厚さを増やすために部分的にトンネル頂部の高さを下げられているが、これは上記の塑性域を増やすだけで、全く意味のないことである。またアーチアクションも効きにくくなる。
  • 数値解析については報告者案には万能ではないので頼るべきではないと記述されている。しかし、この業務では、全応力に基づいたFEMで解析がおこなわれており、現在の解析レベルから判断すると、解析はpoorである。地盤の解析には有効応力でしっかりした構成式を使用する解析を行うべきである。また、地下水位等自然条件や施工条件も施工時期により異なるので、設計時とは別にリアルタイムで高度な解析を行うシステムを準備して施工を行うべきであったと思う。
  • 薬液注入は障害物があり、止めたとみられるが、これは致命的ではないかと思われる。水みちを塞ぐのにしっかりした薬液注入が必要でなかったか。障害物の位置等は事前に試掘調査等で把握できるので対応可能と思われる。駅前の道路で地下に障害物がない方がおかしい。

4.責任体制

このトンネル掘削のプロジェクトの責任体制について考える。

  • 今回の様に、行政側の行う土木の工事では、設計監理の作業に含まれる企画・計画、設計、施工管理等の作業の大部分が外注されているにも拘わらず、形の上では、作業は全て行政府側で行われたことになっている。設計図書の著作権の問題も含め、土木コンサルタントは部分的な補助作業を行っているに過ぎない。
  • 行政側の技術者は設計の責任は行政側で取るものであるという認識があるのかどうか?
    土木コンサルタントも行政側や専門委員会の先生方の意見に対し、指示を待つのではなく、しっかりと担当技術者としての意見を述べられたのかどうか?
  • 施工業者はトンネル工事に関しては最も経験があると考えられるので、今回の様な市街地の掘削に対してどのような意見をもっておられたのか?
  • 設計施工分離型の発注であっても施工経験を生かした意見を述べられたのか?
  • リスクを承知で受託した経験豊富で技術力あるとされる施工会社に施工を一任されたように見える。本来なら、行政側技術者、専門委員会のメンバーは毎日の施工記録を点検検討し、日々の施工計画の可否を判断する必要と責任があったと思う。
  • 数値解析等の理論的なサポートもなく、補助工法の適用も制限された施工業者はちっと掘っては落ちなかったら先に進む、という方法では危機管理に非常に問題があったのではないかと思う。このトンネルのような力のつり合いでの安定の場合は、予兆はほとんどなく、崩壊の進行は急激であるのはある意味常識であろう。

5.専門委員会のあり方とオーナーズコンサルタント

  • 行政の技術者は専門的なところは学識経験者で構成する委員会等を活用する場合が多い。問題はこの学識経験者の皆様が自分の責任、すなわち、先生方の意見は絶対的に正しいと世間も行政側も受けとめられていることを十分認識して委員なっていられるかどうか?
  • 委員会の先生方の述べられる意見が現場で完全に実現できるかどうか、も大きな問題である。行政の技術者が学識経験者の意見を十分認識し工事に生かしていくことが出来るかどうかということも考慮されねばならない。
  • 行政の技術者の数が少ないうえに、分野ごとの行政組織の壁があり、分野を超えた経験ができにくいということがあると考えられる。これが今日多くの分野に関係するプロジェクトに問題が発生する原因の一つであるかと思われる。
  • 日本の学識経験者も欧米の先生方の様に、プロジェクトの早い段階から参画され、担当技術者と十分議論され、また自らも設計や解析の作業を担当されて、先生方が持っていられる学者レベルの高い技術力を実際のプロジェクトに生かしていくことが日本全体の技術力の向上に役立つものと考えている。
  • この様な制度を確立するためには、日本においても学者レベルの技術内容が理解でき、且つ、実際の工事についても理解できるオーナーズコンサルタントの制度を育成することだと考えている。
    以上

建設工事におけるオーナーズコンサルタントの必要性

1. オーナーズコンサルタントの必要性

近年、建築土木工事に関して、国内において他の分野と共同で行う巨大なプロジェクトも増加し、また、我が国の技術者が外国のプロジェクトに参画する機会も多くなってきている。一方、最近国内では、施設の建設プロジェクトで種々問題が発生し、世間を騒がせていることが多くなってきている。この原因として、最近のプロジェクトは技術分野が多岐にわたり、単一の技術では解決できないにも拘わらず、建設の重要事項の決定に他の技術との連携を十分取らずに解決しようとした為ではないかと考えている。
この解決法の一つとして、プロジェクトの最初から最後まで建設期間を通して、経験豊かな技術者または技術集団が種々の問題を解決していく、オーナーズコンサルタント制度の採用が必要ではないかと考えている。諸外国では非常に一般的なものであるが、日本においては十分活用がされていない。しかし、この制度が日本においても採用されることが望ましいと考えており、また、この為、オーナーズコンサルタントになり得る人材の育成が必要ではないかと考えている。
幸、私はアメリカの恩師のご指導のお陰もあって、ニュージーランド、インドネシア、マレーシア、台湾等のプロジェクトに参画し、外国におけるオーナーズコンサルタントの業務内容やプロジェクトの進め方を学んできた。また、国内の建設プロジェクトにおいても、計画・企画の段階から設計、施工管理や工事後維持管理に至るまで、関係することが出来るプロジェクトに数多く参画してきた。そこで、今回は日本の事情も考慮したオーナーズコンサルタント制度について述べることにした。

なお、最初に断わっておくが、ここで述べるオーナーズコンサルタント制度は施設の実際の建設工事を伴うプロジェクトに関するもので、国土の企画・計画等、実際の建設工事を伴わないプロジェクトについては論じるに十分な経験もないので、含んでいない。

2. 工業製品と土木建築工事の生産方法の違い

土木建築工事においてオーナーズコンサルタントの必要性を説明するために、初めに工業製品と土木建築工事の生産方法の違いについて述べる。

(1) 設計の進め方

  • 工業製品では、設計と製造の関係は前工程と後工程という直線的な関係で、設計図と仕様書は設計段階で綿密に検討され、製造段階で疑義の余地のないものになっている。
  • 土木建築工事では、設計過程は直線的でなく、行きつ戻りつ、試行錯誤を繰り返しながら進められる。また、建設の過程に入っても設計方針や条件が変わることもある。

(2) 製造工程

  • 工業製品では、設計と並行して準備が整えられ、用意された製造方法によって一気に生産されていく。
  • 土木建築工事では、一品生産に対応し、その都度異なる生産設備が運び込まれ、生産組織も常設組織でなく一回限りのものである。また、生産設備や生産組織は予め用意することはできず、生産に着手してから必要な組織や設備を整え、生産が進められる。

(3) 品質管理

  • 工業製品では、予め製造ラインに組み込まれた品質管理の手法によって製品の品質が管理され、品質は一定幅の中にあることが保証される。
  • 土木建築工事では、製造工程に品質管理の仕組みを組み込むことは可能であるが、作りだされたものが一定の品質を備えているかどうかは工業製品の様には期待できない。従って、工程の区切りごとに品質を確認し次の工程に進む、ということが積み重ねられる。

(4) 品質保証

  • 工業製品では、発注者は製品を動かして、要求に合致していることを確認でき、万一不良品があった場合は、修理または交換が要求でき、場合によっては返品も出来る。
  • 土木建築工事では、発注者は設計者や施工会社に対する信頼だけを頼りに工事請負契約を結び、巨額の工事金の支払いを約束する。製品に不都合があった場合、瑕疵担保責任により修理や保障は求められるが、受け取りを拒否することは出来ない仕組みになっている。

(5) オーナーズコンサルタント的役割の必要性

以上の様に、土木建築工事が工業製品の製造とは異なることを説明したので、土木建築工事においてオーナーコンサルタントの必要性が理解して頂いたと思う。
オーナーコンサルタントの主な役割を示すと次の様なものである。

  • 何を作るかを決める。
  • どのように作るかを決める。
  • 決められたものが決められた方法で作られたことを確かめる。
  • 工事中は事業主、設計監理者、施工業者間の会議を主催し、工事の安全、工程、施工方法など、工事中に起る種々の問題の解決に努める。
  • 工事中、関係官庁や近隣の方々に対し必要な技術情報を説明し、理解を得る。
  • 工事中に建設工事の諸条件が変わることがあるので、工事の方法や数量が変化することがある。この場合、最も公平に最終工事費の調整などを行う。
  • 施設の完成後、将来に必要となるメインテナンスの時期や方法を提案する。

3. オーナーズコンサルタントになるための要件

オーナーズコンサルタントのなるためには次の様な資質が求められる。

(1) 技術的資質

  • 経験をすることが大事で、自ら幾つかのプロジェクトの設計・施工管理を経験していること。
  • 関係法規なども良く理解し、関係官庁の承認取得方法などを理解し、取得の折衝等行った経験を有していること。
  • 大きなプロジェクトの総括責任者として、種々の分野の異なる技術者を指導し、プロジェクトを纏める経験をしていること。
  • 必要な領域に対し、新しい技術革新に適応した最新の技術を研鑽し、どのような要求にも応じられる技術集団を組織できること。
  • さらに進んだ専門的知識が必要な場合、種々の分野の専門家から意見を聴取し、これを集約してプロジェクトに生かせる能力を有すること。

(2) 倫理的資質

  • 施工業者からは勿論、関係するメーカーや関係業界から完全に独立していて、中立性と自主性を保つこと。
  • 施設の設計は、作る側の便宜からでなく、まず使う側の利便性を考えること。
  • 工事管理では、外部からの影響を受けることなく、厳正中立の立場でおこなうこと。
  • 最終的な建設工事費の調整においては、厳正中立な立場で査定ができること。

4. 建設工事の進め方

施設の建設工事の進め方として、計画・設計と施工を分離して発注する場合と設計と施工を分離せず一括して発注するケースがある。この二つのケースの利害得失について述べる。

(1)  設計と施工を分離した場合

  • 設計が完全に独立して実施され、用意された設計図書(設計図や仕様書等)を用いて数社の施工業者が参加して競争入札が行われ、最も適した業者が選ばれ、事業主が最適額で契約してから発注されるケースである。
  • 発注額の内容も明らかで、将来工事中に発生するかもしれない変更に対して、発注設計図書に従って発注額の変更が行われるので、疑問の入る余地がない。
  • 施工中の施工管理は事業主、設計者と管理者が協力して行われるので、必要な時期に必要な場所でチェックすることが可能である。
  • 工事中の運営は発注者と設計者が中心となって運営されるので、協議内容や工事の進捗度等がオープンで理解しやすい。

(2) 設計施工で行われる場合

  • 設計と施工を一括して発注する方法である。
  • 宣伝文句として、設計の手間が省けるとか設計料が安くなる(極端にはただである)と言われるが、見かけ上はともかく実際には全くあり得ないことである。
  • 最も問題になるのは、事業主の利益が守られにくいことである。下記の様な問題に対して対処方法を考えておく必要がある。
    □ 巨額の投資にも拘わらず、契約金と内訳の査定はどのようにするのか?
    □ 品質はどの様に管理するのか?
    □ 約束通りのものが出来ているのか?
    □ 工事進行の運営や判断し難い事項の処理はどうするか?

5. オーナーズコンサルタント制度の現状、必要性と育成

オーナーズコンサルタント制度の現状、必要性と育成について述べる。

(1) オーナーズコンサルタントの制度の日本における現状

  • 40年以上前になると思うが、土木学会誌でこれからのコンサルタントの役割という論説で、コンサルタントは行政の技術者のサポートから、本稿で述べたようなオーナーズコンサルタントの役割になっていく、ということが書かれていたと記憶する。
  •  しかし、現在の土木コンサルタントの技術力は上がったとはいえ、オーナーズコンサルタントができる域に達していない。
  • 建築の工事では、施主側に専門技術者がほとんどいなく、建築工事を全面的に任される素晴らしいオーナーズコンサルタントのグループが存在すると考えている。事業主からも信頼され、社会的な地位も高く、パートナーとしての地位を獲得している。
  • 一方、土木の工事では、行政の施主が多く、設計図書の著作権の問題も含め、土木では部分的は補助作業になっている。行政の技術者は専門的なところは学識経験者で構成する委員会等を活用する場合が多い。問題は行政の技術者が本稿でのオーナーズコンサルタントになり得るかという問題である。
  • 行政の技術者の数が少ないうえに、分野ごとの行政組織の壁があり、分野を超えた経験ができにくいということがあると考えられる。これが今日多くの分野に関係するプロジェクトに問題が発生する原因の一つであるかと思われる。

(2) 公共工事の遂行体制とオーナーズコンサルタントの必要性

  • 行政が直轄工事を行っていた時と違って、建設工事に含まれる企画・計画、設計、施工管理等の作業の大部分が外注されているにも拘わらず、形の上では、作業は全て行政府側で行われたことになっている。この為、工事は一応設計施工を分離した方法を取って、中立性が保たれている形になっているが、実際は施工業者が提出するプロポーザルを正確に検討し、評価する技術力が不足してきたように考えている。
  • 最近では、施工業者が次第に力を持ってきて、JV (ジョイントベンチャー) 工事と称して、工事費の入札時の競争力をなくし、かなり高価な公共工事が行われている様に考えている。
  • 国内工事で、現在の様に外国の建設業者が工事に参画しないことが何時までも続くとは考えられない。外国の建設業者が参入してきた場合、公平を期するためプロポーザル方式が取られると考えるが、建設業者から出てきた技術提案書を的確に評価し、公表しなければならない。現在の様に、敗者に対して「貴方の提案より優れた提案があった。」という一行程度の理由書では通用しない。
  • 一方、日本の設計業者や建設業者が経済成長を続けている外国で、準国内的なプロジェクトと考えられるJICAのプロジェクト以外の仕事で活躍するためにも、オーナーズコンサルタントを中心としたプロジェクトの進め方を熟知する必要があると考える。

(3) オーナーズコンサルタントの育成

  • これからの土木工事においてオーナーズコンサルタント制度を育成するには、現状の土木コンサルタントに権限を委譲し、役所情報の守秘義務等の制度を整えて、時間をかけて現状の土木コンサルタントを育成してゆくか、オーナーズコンサルタントという職種を作り、その資格ある技術者を集めた会社に役所が業務発注する仕組みを創設することが考えられる。
  • この組織は公共だけでなく、民間土木でも活用され、海外で多い、オーナーズコンサルタント+設計(+)施工体制でのプロジェクトの進め方も日本で採用できる。
  • 既得権益を守るのは人間本来の姿であるかもしれないが、現在の日本でも既得権益を守って生きようとする守りの姿勢の人が多い。上述の変更は行政の技術者の既得権益を捨てるということ、すなわち、管理技術者の役割を少なくすることであり、時間がかかるだろう。 何十年経っても、土木コンサルタントの地位が十分向上しない大きな要因かと思っている。
  • 一方、土木コンサルタント側もオーナーズコンサルタントの制度を十分研究し、行政からの指示を待つという姿勢から、常に厳正中立な立場で積極的に議論に加わり、事業主への助言が出来るよう努めねばならない。

以上

豊洲市場の汚染水の問題について(追加)

前回のブログで書き忘れたことを追加します。

最近の報道を見ていますと、地下水の測定結果だけが報道されていますが、地下水の採取深度についてはほとんど報道されていません。そこで、当初専門家会議で議論され、決定された汚染土対策と地下水の採取深さを正確に述べたいと思います。

1.専門家会議で決定された汚染土対策案と地中に汚染土が残留している可能性

(1)専門家会議で決定された汚染土対策案は、何回も繰り返すことになるが、図-1に示されている通りである。旧地盤面(A.P.+4.0m)から2mの深さ(A.P.+2m)までは土壌を全て掘削し、土壌汚染基準以下に処理された土で埋め戻す。

fig-1

図-1

(2)さらに、A.P.+4mから上部に2.5mを新たに良質土で盛土し地盤高をA.P.+6.5mとする。
(3)問題はA.P.+2.0m以深の土であるが、詳細調査及び引き続き行われた絞込み調査により出来る限りの処理がなされ、ほとんどの土壌が土壌基準以下に処理されている。
(4)残念ながら、このA.P.+2.0m以深の部分は全て掘削して調べたものでなく、ある間隔のメッシュ状に上から調べたものであるので、若干ではあるが、汚染土が残されている可能性がある。

2.地下水の採取深度

(1)地下水のモリタリングようの観測井の構造はA.P.+2.0m以下にストレーナーが切られていて(有孔管となっていて)、採取された地下水はA.P.+2.0m以下のものである。
(2)上述したように、この部分に汚染土が含まれている可能性は零(0)ではない。
(3)今、「水質基準の79倍」ということだけが報道されているが、この値は広い市場の1点にすぎず、また、この値は地表面から4.5m下の深さの値である。
(4)専門家会議で決められた対策案の原案では、A.P.+2.0mより上に4.5m(2.5m+2.0m)が良質土で盛土されていて、例えA.P.+2.0mの深さで汚染源が発見されても、地表面に影響を与えるものではないと考えられる。

3.市場建屋部の考え方

(1)残念ながら、市場の建屋部(建築物の下部)は空間となっていて、盛土部分がないため、A.P.+2.0mの深さで測定された汚染は直接地下空間に影響を及ぼすことになる。従って、何らかの対策が必要である。
(2)技術会議で提案された地下水管理システムで汚染水対策を行うことは次の理由により問題があると考える。
市場は非常に長期に使用されるので、地下水管理システムが全く故障もなく稼働するとは考えにくい。
現在排水に使われている砕石層も長年の間に目詰まりし、排水が有効でなくなる恐れがある。
前にも指摘したが、周辺の擁壁や下部の不透水層で遮水性の空間を作ることになっているが、これには種々の問題がある。
さらに、長期の間には、巨大な地震の発生も考慮しなければならない。どのような自然現象にも耐えうるものでなければならないが、これをギャランティすることは難しいと考える。
地下水管理システムを働かせるために、長期にわたってランニングコストがかかる。

4.現実的な解決案

(1)これも繰り返しになるが、解決策を再掲すると図-2に示すとおりである。

fig-5
図-2

(2)解決策の前提条件は「専門家会議で提案された解決策(図-1)が有効である。」ということである。
(3)建家部は盛土がないので、4.5mの盛土と同じ効果を持つよう、建家に必要な設備空間を残してコンクリートと良質土で埋め立てる。
(4)コンクリートと良質土の厚さは2.0m程度と考えられるので、コンクリートの厚さは4.5mの土の持つ遮塀性と同じになるように決める。
(5)地下水は出来るだけ動かさないことが重要だと考えるので、水管理システムによる揚水は休止する。
(6)現場で存在する観測井、揚水井、旧ボーリング孔等、A.P.+2.0m以深から地表面まで貫通している孔は全てコンクリートモルタル等を詰めて閉鎖する。
(7)新たに地表面近くで、汚染土に起因する変化を観測する。
(8)建家周りの排水方法を再度調べ、どの様な豪雨に対しても地表面付近で処理できるよう検討する。

以上ですが、ご批判を頂ければ幸いです。

豊洲市場の汚染水の問題について

1月14日9回目の汚染地下水のモニタリング結果が発表され、多くの方々が驚くような数値となりました。何か対策を立てる必要があるとは思いますが、マスコミの方々の報道は、結果の内容を十分理解されずに報道合戦を繰り広げていられる様に思います。
ここで理解して頂きたいのは、東京都の取られた汚染土対策はこの種の対策としては最高のものであり、少なくとも地表面から4.5m(2.5m+2.0m)までの汚染土はすべて取り除かれ存在していません。さらに、地表面から4.5m(A.P.+2.0m)以深の土も出来る限り土壌汚染基準以下に処理されています。市場の安全性を考え十分な対策が取られてきたと考えます。
しかし、残念ながら1月14日に示された値は基準をオーバーしていました。この原因として、地下水位の検査結果に疑問を持っていられる方もおられ、再検査などが提案されておりますが、豊洲市場の土壌汚染対策で、最も重要なのは地下水の管理システムであると考えています。そこで、前回のブログにも書きましたが、土壌汚染対策に対する問題点をもう一度述べ、対策を考えたいと思います。

1. 専門家会議で決定され、実施された土壌汚染対策

(1) 専門家会議で決定された土壌汚染対策案を再掲すると図-1の通りである。
(2) A.P.+2.0m以下は汚染物質を除去するか、土壌処理基準をクリアーする地盤になる様処理する。
(3) A.P.+4.0m以下A.P.+2.0mまでの土は土壌処理基準以下の処理土で置き換える。
(4) A.P.+4.0mからA.P.+6.5mまでは新たにきれいな良質土で盛土する。
(5) この方法は汚染土対策の一つの有力な方法で、例え汚染土が地中深い所に残留していても、移動させないで地下に閉じ込める案であると考えている。

fig-1
図-1

2. 技術会議で決定された地下水管理システム

(1) 技術会議で提案された地下水管理システムの概要は図-2に示すとおりである。
(2) 集中豪雨や台風時においても、A.P.+2.0mで地下水の管理が出来るよう、日常的に維持水位をA.P.+1.8mとし、地中に貯水機能を確保する。
(3) 水位上昇時に自動的に揚水ポンプが稼働する総合的な自動監視システムである。
(4) このシステムを可能にするためには、周辺並びに下面からの地下水の流入を防ぎ、完全に外部から遮断された独立空間を作らねばならない。
(5) この為、道路側には鋼管矢板遮水壁を、護岸側には三層構造遮水壁を地盤下部に存在する不透水層まで打ち込まれた。

20170121_fig.2
図-2(*1)

3. 地下水管理システムに対する疑問点について

(1) 地下水管理システムは土壌汚染対策の基本となるもので、最も重要なものである。
(2) このシステムを成立させるために必要な条件が一つでも満たされなければ、土壌汚染対策の基本が成り立たなくなる。
(3) このシステムに対して疑問を抱いた理由は、発表されている地下水位の測定結果である。(地下水の揚水が10月初めに開始され、10月3日より測定結果が公表されている。)
(4) 当初の地下水位は東京湾の標準水位から推定される地下水位(A.P.+1.0mからA.P.+3.0m程度)に比べ非常に高く、A.P.+5.0mを超えているものもある。これは真の地下水位ではなく、盛土施工中生じた遊水の水位と考えられる。
(5) 地下水位が非常に高かった時期から実際の地下水位として妥当と考えられるA.P.+3.0m程度になるまでは比較的早く、10月末ごろには全ての観測点でA.P.+4.0を下回っている。
(6) この時点から地下水位の低下が鈍くなっている地点もあり、一様でない。特に、護岸側の測定地点で水位低下が鈍くなっている地点が見受けられる。
(7) もし完全に外部から遮断された空間が成立していれば、揚水により地下水は表面から水平に流れ地下水位は低下していくが、もし外部から水が供給されると、地中に水平及び鉛直方向の水流が起ることになり、揚水の一部は外部からの地下水で供給されることになる。

4. 地下水管理システムに対する問題点

(1) この管理システムで最も問題になるのは外部から完全に遮断された空間が、非常に長期間(50年とか100年といった期間)保てるかどうか、である。
(2) 各空間の平面積は100,000m2 以上、空間の体積は1,000,000m3 にも達する大空間である。
(3) 各街区で、外部と遮断するための遮水壁は2,000個程度の継ぎ手を持っており、その総延長は20,000m以上になる。地中まで完全に充填剤を挿入出来たのかどうか、どのように検査されたのか?
(4) 遮水壁の内、鋼管矢板はスパイラル鋼管に継ぎ手を溶接したものであり、非常に高価で普通矢板の数倍はする遮水壁であるが、鋼管と継ぎ手部の鋼材の特性の違いもあって、遮水壁としては扱いにくいものと考えられる。また、三層構造遮水壁はソイルセメントの中に鋼製の遮水材を挿入していく、と説明されているが、施工方法や施工検査方法など十分説明される必要があると考えられる。
(5) 外部と遮断するためにさらに重要なのは地下に存在する不透水層である。広大な面積(各街区 100,000m2 以上)に全く切れ目なく存在するかどうか、どの様な調査をされて遮水壁の深さを決められたのか?
(6) A.P.+2.0m付近に設置された砕石層、もし排水層として設置されたのであれば、将来間隙が詰まらない対策として、有孔ヒューム管を挿入する必要があると考えるが、どの様な対策を立てられたのか?
(7) 液状化対策として締め固め杭が施工されているが、各街区の中に施工されたのかどうか? もし施工されたのであれば、締め固め砂杭は鉛直方向の透水係数を確実に増加させるので砂杭の先端深さと不透水層の関係等を明確にする必要がある。
(8) 以上の様に、非常に重要な空間で、且つ施工が難しい工事と考えられるが、施工を担当された業者の方々は長期にわたって完全に遮断された空間をギャランティされたのか?

5. 今後考えられる原因究明に必要な調査

(1) 1月14日に開かれた専門家会議では、地下水の検査結果に疑問を抱かれ、地下水採取孔の増加や地下水の再検査などの緊急対策が提案されました。
(2) 以上の対策の他に、地下水管理システムを維持するために最も重要な事項―外部から遮断された空間形成の条件の再検査が必要と考える。
(3) 先ず、地盤の連続した不透水層の存在の確認。各街区の平面積は非常に大きく、100,000m2 を超えている。遮水壁近くだけでなく、建家の中央部の地盤調査結果を検討され、連続した不透水層の確認が必要。
(4) 建家は杭基礎で杭の先端は下部の強固な支持層まで届いている。これら数多くの杭は不透水層を抜いていると考えられるので、建築工事の施工記録を調査する。
(5) 地盤改良工事で多くの砂杭やコンクリート杭が使用されているが全ての杭について施工記録の再検査をする。
(6) 各街区内には数多くの地盤調査ボーリング孔、地下水モニタリング孔、地下水管理システム観測井戸、揚水井戸等々、全てについて深度について再調査する。
(7) 遮水壁の施工結果の再検査。各壁の先端の深度と地盤の不透水層の関係、継ぎ手部の充填材の施工記録、三層構造遮水壁の継ぎ手部の施工記録など。
(8) 残念ながら汚染地下水のモニタリング結果が想定外であったので、遮断された空間の外からの地下水の供給の有無を調べるため、着色材を使った調査が可能かどうか検討する。

6. 地下水管理システムに頼らない汚染土対策

(1) 種々の調査の結果、もし外部から遮断された空間の形成に問題が発見された場合には、地下水の移動を起こさせる作業は中止する。すなわち、地下水管理システムの揚水を休止し、出来るだけ地下水の移動を起こさせない。
(2) 最初に専門家会議で考えられた対策案、すなわち図-1に示されたように上部の4.5mは盛土か完全に処理された土で覆い、この下の層も可能な限り土壌処理基準以下の土にする。この案を元に対策案を考える。
(3) 現在の状態から出来るだけ原案に近い改造案として、既に前回のブログで提案したものを図-3に再掲する。この案では、建家の下は設備用の空間が必要なので、2.5m程度の空間を設けそれ以下の空間は良質土と鉄筋コンクリートで埋め戻す。
(4) 専門家会議で、この案について議論して頂き、4.5mをすべて土で覆った原案と同等に、地表面に汚染土や汚染水の影響が及ばないかどうか判断して頂く。
(5) もし、何かを追加すれば合格するのであれば、指摘して頂く。

fig-5
図-3
以上、豊洲の汚染土対策で第三者が意見を申し上げるのは良くないかもしれないが、もし長年の経験がお役に立てばと考えブログに書きました。
汚染土対策としては非常に広範囲で困難な工事について、担当の方々は非常によく研究され、もうあと一歩のところまで来ていると考えております。種々の問題が解決し一日も早く豊洲市場が開場することを願っています。

参考文献)

*1)『豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要』パンフレット,東京都中央卸売市場 新市場整備部,p.14

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/siryo1.pdf

豊洲市場の地下構造が市場として認められる為の改造計画

2016年11月25日、東京都小池知事は豊洲市場の開場を少なくとも1年程度延期する、と表明されました。各方面から種々の意見が寄せられていますが、豊洲市場をより良い条件で開場するために絶好のチャンスと考え、行動を起こすべきではないかと考えます。

そこで、専門委員会で考えられた案からスタートし、現在の状況の問題点を述べ、現状をどのように改良したら専門委員会の案と同等の案になるか、を考えました。

1.専門家委員会で決定された汚染土対策案(図-1参照)

(1) 専門家委員会で決定された案は図-1の通りである。

(2) A.P.+2.0m以下は汚染物質を除去するか、土壌処理基準をクリアーする地盤になる様処理する。

(3) A.P.+4.0m以下A.P.+2.0mまでの土は土壌処理基準以下の処理土で置き換える。

(4) A.P.+4.0mからA.P.+6.5mまでは新たにきれいな良質土で盛土する。

(5) この方法は汚染土対策の一つの有力な方法である「汚染土を地下に閉じ込める」案であると考えている。

fig-1

図-1(*1)

 

2.市場であるので建屋が必要、という条件からを考慮した一般的な対策案(図-2参照)

(1) 豊洲市場は市場であるので建屋が必要である。一般に、この種の大規模な建物では配管スペースが必要であり、地下空間に配管が設置されることが多い。

(2) 普通の建築では、図-2に示された様に、鉄筋コンクリート製の底版を設けて、地下空間を形成している。

(3) 汚染土壌を地下に封じ込める対策として、専門家委員会で決定された汚染土対策案(図-1)と同等の効果があると考えている。

(4) もしこの案で良ければ、旧地盤面(A.P.+4.00m)まで埋め戻された時点で、市場の地下部分を構築し、完成後A.P.+6.5mまで埋め戻すことは普通の方法である。

(5) 盛土がなされていなかったかどうか、という議論は汚染土対策に対しては別に議論されるべき問題で、汚染土対策には関係のない事項である。

fig-2

図-2

 

3.既に建設された市場建屋の地下構造と汚染土対策(図-3参照)

(1) 既に建設された市場建屋の地下構造と汚染土対策は図-3に示されている。

(2) 地下の基礎底面は砕石層上面のA.P.+2.00mまで下げられ、汚染土のモニタリングスペースとして、地下底版は設けられていない。

(3) 地下水位と水質は地下水管理システムによって管理されることになっていた。

(4) 必要に応じて揚水ポンプが稼働し、常時の地下水位は管理水位(A.P.+2.00m)より0.2m低い地下水位を保ち、大雨や集中豪雨時の雨水貯留機能を備えている方法と考えられていた。

(5) しかし、このシステムの前提条件には非常に大きな問題点がある。

(6) この前提条件は、敷地の周辺は遮水壁で、底辺は不透水層でクローズされた空間を形成しなければならないことである。これは次節4.(2)のクローズ空間で述べる様に非常に困難であると考える。

fig-3

図-3(*2)

 

4.東京都豊洲市場技術委員会で議論され決定された地下水管理システム(図-4参照)

(1) 東京都豊洲市場技術委員会で議論され決定された地下水管理システムの内、周辺遮水壁と地下の不透水層は図-4に示されている。

(2) 用いられた遮水壁は鋼管杭遮水壁と三層構造遮水壁であり、これら遮水壁は下部の不透水層まで打ちこまれて、クローズされた空間を形成することになっている。

(3) この不透水空間には次の様な疑問点がある。

  • 鋼管杭遮水壁は何れの街区(5、6、及び7街区)も延長が1,000mで、遮水壁の構造は継ぎ手付きの直径80cmの鋼管杭であり、各街区で約1,000本が下部の不透水層まで打設されている。このことは各街区1,000個の継ぎ手があり、各継ぎ手の総延長は少なくとも10,000m以上と推定される。また、継ぎ手には充填剤が流し込まれて、遮水性が確保されることになっている。
  • このことは、相当延長が長い継ぎ手部の全ての箇所で完全な施工がなされていることを前提としているが、地中へ打ち込む工事で、総延長完全な遮水性を確保した工事は不可能であり、また、施工の精度を検査する方法もないと考える。
  • 更に、遮水壁に鋼管矢板が使われていることにも少々疑問が残る。一般に鋼管矢板は非常に深い掘削時に使われる剛性の大きな鋼材であるが、ほとんど力のかからない遮水壁に利用するのが良いのかどうか問題である。鋼管矢板は一般の矢板に比べ非常に高価であるばかりでなく、施工が難しいと考える。
  • 海岸線に沿って設置された三層構造遮水壁は、現場の土とセメントを混ぜ合わせてソイルセメントと呼ばれる強化された土壌を深さ方向に造成し、この中心に鋼製の遮水材を挿入して、「ソイルセメント、遮水材、ソイルセメント」の三層構造の遮水壁を設置し、遮水性が確保されることになっている。遮水壁の延長は5街区400m、6街区と7街区は共に600mである。しかし、この遮水壁にも、種々の問題点がある。
  • まず、ソイルセメントは施工の性質上、均質で同じ厚みを持つ土壌を深さ方向全てに造成するは不可能である。また、この遮水壁の中心に挿入される鋼材は、鋼管矢板と同様に継ぎ手が必要で、その間隔は50cm程度であると考えられる。従って、延長も相当長くなると考えられ、完全不透水の遮水壁を建設することはほとんど不可能と考える。
  • さらに下部の地盤の不透水層であるが、都の説明図では水平な地盤となっている。しかし、豊洲市場の地盤は均質で水平な地層ではなく、不透水層の深さも変化している。また、不透水層までの地盤も種々変化している。
  • 以上の様な条件を考慮すると、クローズされた完全に遮水性の空間を形成することは非常に困難であると考える。

fig-4

図-4(*3)

 

5.豊洲市場の地下構造が市場として認められるための改造方法の提案(図-5参照)

(1) 現在の豊洲市場の建屋礎の底面はA.P.+2.0mに敷設された砕石層上に設置され、地下水が溜まっている状態で、汚染水や汚染された気体が検出されている。

(2) この事実は、揚水ポンプで常時維持する水位をA.P.+1.8m以下に維持するという計画が破綻していることを意味しており、この原因は前述したように、鋼管矢板遮水壁と三層構造遮水壁及び地下の不透水層による完全にクローズされた不透水空間が実現出来ていないことになる。

(3) このクローズされた空間は非常に大きく、将来においても完全不透水空間を形成することは困難であると判断できる。

(4) そこで、現在の地下構造が土壌汚染に対して十分な対策となるよう改造する計画を立てた。その内容は図-5に示されている。

(5) 立案の基本は、土壌汚染対策に対して有力な方法に一つであり、豊洲市場の専門委員会でも考えられた、「汚染土壌を地下に封じ込める」方法である。

(6) すなわち、現状の砕石層の上に良く締め固められた良質土(ソイルセメント、貧配合のコンクリートやアスファルトコンクリート等)を用いて旧地盤のA.P.+4.0mまで盛土する。その上に30cm程度の鉄筋コンクリート版を打設し、既設の地下の壁と共に密閉された地下空間を形成する。

(7) なお、この盛土部分や底版の鉄筋コンクリートの荷重が現在の建屋構造に影響しない埋め立て方法が存在するので、現在の建屋構造への補強は不必要である。

(8) もし何処かのモニタリングポストで基準以上の汚染度が検出された場合は、前に工場のあった東京ガスの操業過程を考慮し、当初予定されたものと同じ様な構造で、小規模な不透水空間を建設し、内部の水位を20cm程度下げて汚染度を内部に閉じ込める。不透水空間の大きさが限定されるので、不透水空間が形成されやすくまた、内部の水位が20cm低いので、応力は常に外側からかかり、内部から汚染水が漏れることはない。

fig-5

図-5

 

以上が当方の考えた対策である。種々のお考えをお聞かせいただければ幸いである。

対策工事が出来るだけ早く実施され、一日も早く豊洲市場が開場されることを望みます。

 

参考文献)

*1)『豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議報告書』平成20年7月,豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議,p.9-7

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/houkokusho/houkokusho_09.pdf

*2)『地下水管理システムに関する説明資料』(第18回 豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議 資料3)における『②「地下水管理システム」の概要』,

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/18-3.pdf

*3)『豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要』パンフレット,東京都中央卸売市場 新市場整備部,p.6

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/siryo1.pdf

 

福岡陥没事故に関する11月26日の沈下報道に関して思うこと

11月26日福岡駅前の陥没事故現場で再び沈下が発生したと報道された。沈下の最大値は7cmであって、福岡市の担当者の報告では、想定内であったと報告されている。

このような沈下は、前のブログで述べた様に、危惧していた通りのものであり、また沈下の起る様相に少し疑問があるので、この件に関し再び意見を述べる。

1.11月26日の沈下に関する報道

① 県警や市によると、8日に陥没事故が起きた市道「はかた駅前通り」の現場で計12カ所、沈下が発生しないか計測していた。今回、沈下が発生したのは陥没現場とほぼ同じ範囲で、路面が最大7センチ沈下している計測結果が出た。けが人はなく、ガス漏れや停電、断水などの情報は入っていないという。

② 午前1時半ごろ、通行止めの基準となる2.4cmの沈下を計測したため、県警に通報し、交通規制を実施。午前3時ごろまで徐々に沈下が続いたが、その後、沈下は確認されず、地割れなどの危険性がないとして通行を再開した。

③ 再開後に記者会見した施工業者の大成建設JV(共同企業体)は、沈下の原因について「埋め戻した部分の下の土砂の緩んだ部分が重みで圧縮された可能性がある」と説明。「これ以上の大幅な沈下についてはないと考えている」と述べた。ただ、大成JVと市ともに「再度の通行止めは想定していなかった」という。引き続き、24時間態勢で沈下の計測を続ける。

2.沈下の原因の究明

① 福岡市や施工業者の説明によると「埋め戻した部分の下の土砂の緩んだ部分が重みで圧縮された可能性がある」と説明。また、「これ以上の大幅な沈下についてはないと考えている」と説明されている。これはどの様な根拠に基づいているのか?

② 11月8日の陥没現場の写真によると、現場は泥水が溜まっており、その下に、所謂、「ヘドロ」と呼ばれる非常に弱い土が堆積していたと想定される。この上に流動土が流し込まれたのであるが、ヘドロの性質や堆積している量が分からないと沈下の推定は出来ない。どの様な地盤を想定されて沈下の予測をされたのか?

また、報告された沈下量の増加の様相が少しおかしいのではないか?

③ 堆積しているヘドロはある程度粘性土の性質をもっていると考えられるが、沈下は復旧から15日程度では発生しないで、かなり時間をかけて発生してくるものと考えられる。

④ この他にも、流動土の上で、埋め立てに使われた土砂の性質も非常に重要である。また、締め固め土砂の最適含水比と施工時の含水比等は非常に重要なデータであり、今後起るかもしれない沈下量の推定に必要である。

⑤ 既に事故究明のために必要な十分なデータを収集されていれば良いのだが、この件に関しあまり報道されないので、念の為、これから必要なことを書きとめる。

3.これから復旧工事に向けて必要と考えること。

駅前の陥没事故に対し、あまりにも見事に、速やかに復旧工事が行われ、事故の大きさに比べ、犠牲者や付随した事故がなかったものであるから、見落とされがちだが、今回の事故は、平面的に30mx30m、深さ15m、流出土量10,000mという、市街地ではあってはならない大事故です。予測出来ない不可抗力ということでは済まされません。

更に、事故の後に計画通りの地下鉄を構築するという難しい大工事を完成しなければならない訳だから、原因究明や付近の調査など今やらねばならないことが数多く有ると思っている。そこで、自分なら、今やっておきたい事項を記しておく。

① 事故前の付近の種々のデータの収集と分析

  • 崩落事故前の岩盤表面コンター図の作成と岩盤層強度や地下水位の調査
  • 陥落現場付近には幾つかのビルが建設されており、各ビルの建設には地盤調査がなされていたと思う。これらのデータと地下鉄の地盤調査結果を合わせれば、所謂、岩盤と言われている層の崩落事故前の表面コンター図は得られると思う。
  • 岩盤と言われている層の性質と強度
  • これと岩盤層の強度や地下水の位置が分かれば、崩落事故前の地下鉄の掘削に必要なデータが得られる。

② 十分な地盤調査の実施

  • 崩落事故後、現場で地盤調査が実施されているようには見えない。
  • 事故現場の原因の究明のためにも、これからの地下鉄工事を安全に進めるためにも、現場で十分な地盤調査を実施する必要がある。

③ ビルを含む現場の変形図の作成と計測の継続

  • 崩落現場とビルの間には、ビルの建設時に使われたと思われる地中壁が存在していて、ビル側の崩落を防いでいた。しかしこの壁はビルの地下部分を掘削するために使われたもので、この壁にかかる力の方向は今回の崩落事故時に発生した力の方向と全く逆と考えられる。すなわち、ビルからの土圧が支保工の存在しない方向へ働き、幾分水平変形を起こしたかもしれない。
  • 10m以上直立した地中壁がビル側から崩落側に押された場合を考えると、壁が倒壊しなかったことは非常に幸運なことであったとも考えられる。
  • 以上のことから、ビルやインフラ等が事故前に比べると水平変形をしていないか、地下鉄工事再開前に調べておく必要がある。

④ ビルの地下内部調査

  • 前述した地下壁は全面同じ強度を持ったものではないと思う。水平的に強いところと弱いところがあって、全体として建設時に支保工の力を借りて、ビルの内部掘削に耐えた壁である。今回の崩落現場で、ビル側から若干土砂や水が流れ出ているところがみられた。
  • 10,000m3もの土砂が流れ出た時、ビル側からは全く出ていないというのも不自然のように思えるので、部分的に流出したかどうか、調査が必要である。

4.これからのトンネル工事の調査、設計、施工、設計監理について

① 今回の様な市街密集地の事故は絶対再び起こしてはならない。今回の事故で以前にも増して難工事になった地下鉄工事の為に、各方面の技術を結集して当たられることが望まれる。

② 10,000mに及ぶ土砂がトンネル内にどのように流れ込んだのか、現在地下水の流入が有るのか調査し、必要なら調査を継続する必要がある。

③ 土は一度破壊されると以前とは全く異なった弱い物質に変化する。従って、必要な地盤調査は全て一からやり直す覚悟が必要である。

④ 以上の様な十分な現場のデータを反映し、解析によってトンネル掘削時の地盤の応力変化を求める。最近の解析技術の発展を考慮すれば現実的な結果は得られるものと考える。

⑤ いろいろなトンネルの施工方法も考えられるが、十分に安全な施工方法を用いることが肝要である。この際、費用や施工時間より安全性が最も重要である。

⑥ 更に安全を期するために、計測施工法の導入も必要である。

⑦ 独立した施工管理のチーム作り、計測や施工に携わる技術者と良く相談しながら安全性を確認してトンネルが無事完成することを望む。

⑧ トンネルの施工中に、専門委員会の先生方にも適宜相談して頂くよう、お願いしておく必要がある。

以上

福岡博多駅陥没事故に思うこと

2016年11月8日に発生した福岡博多駅前陥没事故では、福岡地方の建設関係の方々が総力を結集されて復旧工事が行われ、埋め戻しやインフラを復旧させて13日に地表面まで埋め戻され、14日にはほぼ復旧の運びとなりました。工事関係者が力を結集されて、こんなに早く工事を完成されたことは本当に日本の建設業の実力を示され、素晴らしいことだったと思っています。しかし、今、道路が陥没していく映像や陥没した地盤が非常に早く復旧していくことに目を奪われているが、これからが問題で、非常に重要なことが残されています。

小職は、個人としては十分な資料を集めることはできませんが、マスコミで報道されていることに少し疑問があり、この様な事故が起きた時に一般的に問題となる事項を記しておきたいと思います。

 

1.地盤内にトンネルを構築した場合、地中の応力とトンネル外側に生じる塑性域

① 応力を持つ地盤内に円形状の断面を持つトンネルを掘削すると、円周方向と円周直角方向の応力差から掘削の内面から塑性域(簡単には地盤が軟らかくなり、変形が進行する領域)が生じる。この塑性域の厚みは地盤の強度によって異なり、強度が大きければ塑性域が小さく、強度が小さければ大きくなる。

② 強度にバラツキが有れば塑性域の厚みもバラツキ、時間依存性のある弾塑性体では時間と共に塑性域が広がっていくこともある。

③ この為、トンネルを構築する周辺地盤の強度や変形特性は非常に重要である。また、地盤内の応力が決定されるトンネルの深さ、硬い地盤の表面の深さやトンネル上面までの厚さも非常に重要である。

2.陥没事故現場の地盤

① 新聞やテレビ等のマスコミの報道によりますと、トンネルを掘削している地盤は岩盤となっているが、土丹と呼ばれるものではないでしょうか?

② 岩盤層の表面はトンネル掘削方向に対して同じ深さが続いているのでしょうか?

③ 以上の点はトンネル構築上非常に重要である。

3.土丹層の性質

① 土丹は粘土が非常に長い年月で固結され、非常に硬い岩盤状になったものだと考えている。土丹層の深いところでは非常に強固なもので、周辺のビルのような基礎杭を支持するに十分な強度を持っていると考えられる。

② しかし、土丹層の表面近くでは、長年の間に地下水や応力の変化等の影響で性質が変化して強度が弱くなり、また、弱くなる程度は土丹の性質によって変化する、と考えられる。従って、強固な土丹層の表面は微妙に変化するものと考えられる。

③ 更に、土丹層で、今までかかっていた応力が解放される場合や掘削表面が空気に晒されると土丹層の強度が弱くなることも考えられる。

4.地盤調査について

① 地盤調査法で最もポプラーな方法は標準貫入試験と言われるもので、質量63.5kgの重りを76cmの高さから自由落下させてサンプラーを30cm貫入するに要する打撃回数(N値)を求めるものである。

② この試験では、砂の性質を比較的正確に求めることが出来るが、粘土の強度や沈下性状は正確に求めることは出来ない。しかし、非常に早く、安価に実施できることから一般的に良く使われている。

③ このように非常に早く安価な試験にも拘わらず、一般的にプロジェクトの全体の費用に比べ、調査に使われる費用は非常に小さい傾向がある。

④ 特に、道路やトンネルのように延長が長いプロジェクトではボーリングの数が限られてくることが多い。

⑤ 一方、陥没現場付近は多くのビルが建設されており、地盤調査結果も多数存在していると考えられるので、これらの調査結果を収集すれば地盤の概要は十分得られるものとかんがえられる。

⑥ 以上、新しく得られたデータと既往のデータからかなり正確に付近の地盤の概要が把握できると考えられる。

⑦ 当該の工事は都市部の地下鉄工事で、特に、硬い地盤の上部でトンネルとの厚みが少ない場合であり、出来るだけ多くの資料の収集や精密な調査が必要と思われるが、十分なされたのでしょうか?

5.NATM工法の原理と当該のトンネルへの適用性

① 掘削した部分を素早く吹き付けコンクリートで固め、ロックボルトを内部の安定した岩盤層まで打ち込むことにより、すなわち、幾分不安定になるトンネル内面付近と安定している地山とを結びつけて全体として安定した地山を構築し、地山自体の保持力を利用してトンネルを安全に掘削する工法と考えている。

② 今回の報道によると、トンネルの上面からわずか2メートルのところに岩盤と言われる層の上面があり、トンネルの上半分を掘削中で、半径は数メーター、また、掘削工法はNATMが使われていたと報道されている。

③ この場合、先ず疑問に思うことは、トンネル上部の硬い層の層厚が2メートルで、数メートルの幅のトンネルを掘削する時、NATMの掘削理論が使えるのだろうか?

④ NATMでは、単にロックボルトを内部に打ちこむだけでなく、真の目的は安定した地山自体の保持力が発揮できる状態にすることである。

⑤ NATM工法は経済的な(安い)工法である。トンネルは基本的には完成時は施工法によらず安定であり、安全であればコストをかけず施工するのがよいが、この場合費用は主に市民国民の税金であろう。担当者は予算に縛られたかもしれないが、正しい施工や力学理論の適用により、コストを削減しながらも適正な調査や施工にコストをかける必要があると思う。発注担当者、施工者が前もって分かっている陥没のリスクの程度をどこまでとるかの判断の妥当性も問題であろう。

6.陥没部の復旧前後の現場の状態

① 報道された映像から判断すると、陥没現場のビル側は10m程度直立している。

② 土、特に砂質土は直立することが出来ないので、ビルの工事中に残されたものか?土留め壁が存在していたと考えられる。

③ この様な状態であれば、この壁はビル側から陥没現場側に一時的ではあるが土圧受けることになる。

④ 陥没現場の道路に面したビルで、基礎形式は不明であるが、鉛直方向は杭で支持されているはずなので、沈下などの影響は少ないと考えられるが、水平方向は土中の応力が減少して土の強度も弱くなり、また、地下水圧も変化するので、何らかの影響が出ると考えられる。

⑤ このような事故が起った時、事故発生後復旧工事が終わるまで、例えば、土留め壁、ビルや地盤等の変形を測定すれば原因究明に役立つものである。

⑥ 今回の復旧工事で、陥没の底面には濁水で満たされていて底面の状況が分からないまま、流動土を流し込まれ復旧を急がれました。現場が主要な道路上であった事を考えると、一つの立派な対策であったと考えられる。

⑦ しかし、濁水の底面に溜まっていたであろうと推定されるヘドロの厚さ、流動土が入っていかない空間の存在、上部の土砂の締め固め方法など、これから長期にわたる変形等が生じる可能性もある。

⑧ 今後は、「降雨や地下水の回復が長期的に付近のビルや地盤にどのように影響を及ぼすか」について、付近の十分な計測がなされ、事故原因の究明に役立たせることが望まれる。

豊洲市場の土壌汚染対策

小職は、日本で土の汚染が大きな環境問題になり始めたころ、この問題でアメリカの最大手のコンサルタント会社と共同で環境ビジネスを始めた経験を持っています。この経験を通じて、土の汚染に関する調査方法、修復方法、また必要な費用の負担方法、これに関連したスーパーファンド法、などを学びました。
今回は汚染された地盤上に建物を建設する場合、必要な注意事項について述べたいと思います。また、汚染された地盤の修復方法や必要な費用の負担等について私見を述べてみたいと思います。

1.   汚染源の特定と対策
①.  既に周知のように、豊洲市場の土地は、元々東京ガスが都市ガス生産のために使用していた土地で、汚染の歴史や原因、汚染された土の平面的な場所や深さ、汚染物の種類と濃度等はある程度分かっており、例えば、汚染された土が運び込まれた土地に対する汚染対策に比べ汚染対策が取りやすいものと考えられます。
②.  汚染土の調査としては、次の様な事項は必須のものと考えられます。
・ 東京ガスが行なってきた都市ガス生産工場の歴史と生産工程の把握
・ガス生産設備の平面的な位置と深さの調査
・土の汚染物質や汚染濃度の平面的且つ深さ方向の分布状況の調査
・上記の汚染土の調査と関連付けて敷地の地盤調査を実施し、地盤と汚染土の関係を敷地全体で把握し、汚染対策の必要個所を限定する。
③.  これらの調査を通じて、汚染された土の場所や深さ出来るだけ限定し、汚染土を拡散することなく局所的に土を入れ替え、または、閉じ込めてしまうことが汚染対策として最も効果的な方法であり、汚染が拡散すればするほど対策が難しくなり、また対策の効果も限定的になると考えています。
④.  以上述べた地盤調査や汚染土対策は既に検討されたことと思いますが、これらの結果が当該プロジェクトにどのように生かされたのでしょうか?

2.   豊洲市場での汚染対策
①.  豊洲市場では、汚染土の対策と同時に安全な市場の建物を建設することが求められています。この為、上部の建築の専門家、基礎構造や地盤の沈下や強化に関する専門家、地盤の汚染対策の専門家、地下水や水質汚染の専門家等の方々が一堂に会して総合的に議論されるべきと考えますが、このようや専門委員会は設置されたのでしょうか?
②.  例えば、液状化対策として上部の軟弱砂質土層に対して締め固めた砂杭が打設されていますが、これは確実に鉛直方向の透水性を増し、汚染された地下水はより容易に鉛直方向に移動してきます。
③.  また、敷地全体に毛細管現象を防ぐ対策として、砕石層が設けられていますが、これは水平方向の透水係数が増し、平面的に汚染水が拡散することにもなります。
④.  このように、汚染された土に対する対策と建物の安全性とは相反することがあり、総合的に考える必要があります。
⑤.  現在問題になっているA.P.+2.0m(ほぼ地下水位に等しい標高)に設けられた砕石層上の空間に汚染水が出てくることは容易に想定されることであり、この状態は砕石層を伝って敷地全体に広がっているものと考えられます。
⑥.  今問題にすべきことは地表面から4.5m(A.P.+2.0m)の空間に滲み出てきた地下水の汚染の状態を議論するのではなく、如何にして地表面に影響の無いような対策を講じるか、であると考えます。
⑦.  東京都の専門委員会で提案されたように、市場の建物の無いところでは、地下水位面(A.P.+2.0m)から上に4.5m(2.0m+2.0m)の盛土することで汚染の影響を防ぐことができることになっています。
⑧.  今議論すべきことは、市場の建物がある部分の実現可能な対策です。
・追加工事は必要ですが、例えば、現在の基礎面(A.P.+2.0m)に数十センチの鉄筋コンクリートを打設した場合、4.5mの盛土部分と同じ安全性があるのかどうか?
・この方法より更に追加工事は必要であるが、旧地盤面(A.P.+4.0m)まで盛土して基礎面を上げ、ここに鉄筋コンクリートを打設した場合はどうか?
・これらの他に可能な対策案があるかどうか?
⑨.  小職は十分可能な対策工はあると考えていますが、もし満足が得られる対策工が無ければ、豊洲市場全体に重大な影響を及ぼすことになると考えます。

3.   汚染対策に必要な費用の負担方法
豊洲市場の土地は広大であり、土壌浄化の費用の非常に大きなものになっている。この土地の浄化は最初に東京ガスが行い、その後更に東京都によって実施された。しかし、両者が使った費用は大きな差があり、費用の負担分担に疑問を感じ、その内容を日本の土壌汚染対策法と照らし合わせて考えてみることにしました。小職は、法律については素人でありますので、お教え頂ければ幸いです。
①.  豊洲市場の土地について
・前述したように、豊洲市場の土地は東京ガスの工場跡地であり、土や地下水の汚染は東京ガスの都市ガス生産により生じたことは明白である。
・東京ガスは東京都に土地を譲渡する際に、汚染した土壌や地下水の浄化を行い、豊洲市場の環境基準を満たしているとして売買契約を結んでいる。
・東京都が土地を買い取った後、念のため、土地の汚染に対する環境調査を実施したところ、環境基準をはるかに超える数値が検出された。
・従って、この土地は環境的には瑕疵のあった土地である、と言える。
②.  汚染浄化の負担と土壌汚染対策法
・日本における土壌汚染対策法では、汚染原因者(土壌汚染の原因を作ったもの)が浄化を実施し、その費用を負担するのが原則である。
・豊洲市場の場合、東京都が浄化の対策を行ったが、東京ガスは日本を代表する会社で、財務的な負担能力も十分あると考えられるので、東京ガスが土壌浄化の費用を負担するのが原則ではないだろうか?
・東京都と東京ガスとの売買契約で、東京都が浄化費用を負担するということになっていても、元々瑕疵のあった土地であり、また、両者が今までに浄化に使った費用はあまりにも差があることから、東京ガスが浄化の費用の全額もしくは一部を負担すべきではないだろうか?
以上

豊洲市場の問題点-基礎工学的な常識から

① 地盤の浄化の真の目的
地盤浄化の真の目的は浄化された地盤を作成することでなく、地盤上に建設される市場が安全で安心な建物になるということだと思います。都が設置された専門委員会で汚染対策のほかに建家の基礎構造について議論されなかったのでしょうか?

② 建物の基礎について
ほとんど全ての建物の基礎は地中に埋まっている部分(根入れ部分)があって、地下空間のない建物では少なくとも1メートル程度、設備配管等のための地下空間が必要な建物では少なくとも2メートル程度は根入れされ、鉄筋コンクリート製の底版が設けられ地下水の侵入を防ぐ構造が一般的だと思っていました。

③ 汚染土対策の観点から安全性の比較
専門委員会で提案された旧地盤面(A.P.+4.0m)から2.0mの土は掘削・入れ替えし、更に2.5mの盛土をする案と、例えば2.0mの土の掘削・入れ替えを行った後、建家の基礎構造として、数十センチの鉄筋コンクリート製底版を設けた場合を比較して、汚染土対策の観点から、どちらが安全なのでしょうか?
もし、鉄筋コンクリート製底版を設ける案で問題が無いのであれば、建設工事では
一度計画地盤面まで盛土した後再び基礎面まで掘削する方法は取らずに、汚染した土2.0mの掘削・入れ替え後、直接基礎構造を構築することが一般的だと思います。

④ 盛土荷重による地盤沈下の問題
現在、世間の目は地下水に集中していますが、旧地盤面から2.5mの盛土を軟弱地盤
上に行う、ということは基礎工学上大変な問題で、地盤沈下が長期にわたり生じます。なぜなら、旧地盤を基準にして考えると、2.0mの掘削・入れ替えた土による応力の変動はありませんが、2.5mの盛土は載荷重(約50kN)として働きます。この荷重により、地下水面(A.P.+2.0m)以下の粘土層には50kNの過剰間隙水圧が盛土された地区全体に発生することになります。
(注)50kNという水圧は大変なもので、5mの深さの水圧に相当します。この大きな
荷重が広大な敷地全面にかかり、敷地全体の地下に存在する粘性土層に過剰
間隙水圧を発生させることになります。

⑤ 圧密現象と地盤沈下、特に不同沈下の可能性
過剰間隙水圧をもった下部粘性土層の間隙から間隙水が粘性土層上部の透水層に向かって流れ出て、地盤の沈下が起る結果となります(圧密現象)。沈下量やこれに要する時間は下部粘性土層の性状や層厚によって異なるため、将来不同沈下起る可能性もあります。

⑥ 新しく盛土された地盤上に建設される建物の基礎工学的な問題点
建物の基礎が杭基礎であっても、新しく盛土された地盤上に建設される建物には解決しなければならない種々の問題が起ります。前述した沈下や不同沈下の問題の他に、沈下によって杭にかかる負の摩擦力が生じること、杭によって支えられた基礎版と基礎下の地盤の間に隙間が生じ、この隙間に杭を伝って地下水が溜まること等々があります。従って、計画地盤面を変更するときは上記の種々の問題、高潮の水位、建物の床面の高さなどを十分考慮して決定することが望まれます。

⑦ 基礎工学的な見地も考慮した汚染土対策
最近報道される内容を見ますと、「盛土することが絶対的に正しく、盛土内に基礎を設けることが間違っている」、との意見が多いように思います。この意見は汚染対策のことだけを考える場合は正しいかもしれません。しかし、実際は、「敷地内に非常に大きな市場の施設が建設される」、という基礎工学的な問題が忘れられているように思います。汚染対策も十分行い、且つ、基礎工学的にも十分安全な解決策は存在すると確信しています。

⑧ 複雑な技術問題の対処方法について
最近のプロジェクトでは、単一の技術分野では対処できない問題が多く含まれることから、出来るだけ異なった分野で豊かな経験を持った専門家が集まって、広範な技術を活用して最善の解決策を出すことが望まれています。
東京都には非常に優秀な土木・建築の技術者がおられると思いますし、また必要なら
建設コンサルタントや建設業にも非常に多くの専門家がおられます。これらの方々が専門委員会の委員になられて、環境や水・汚染水問題の専門の先生方に協力されて、
現場の条件を十分取り入れた解決策を講じられることを願うところです。

以上