1月14日9回目の汚染地下水のモニタリング結果が発表され、多くの方々が驚くような数値となりました。何か対策を立てる必要があるとは思いますが、マスコミの方々の報道は、結果の内容を十分理解されずに報道合戦を繰り広げていられる様に思います。
ここで理解して頂きたいのは、東京都の取られた汚染土対策はこの種の対策としては最高のものであり、少なくとも地表面から4.5m(2.5m+2.0m)までの汚染土はすべて取り除かれ存在していません。さらに、地表面から4.5m(A.P.+2.0m)以深の土も出来る限り土壌汚染基準以下に処理されています。市場の安全性を考え十分な対策が取られてきたと考えます。
しかし、残念ながら1月14日に示された値は基準をオーバーしていました。この原因として、地下水位の検査結果に疑問を持っていられる方もおられ、再検査などが提案されておりますが、豊洲市場の土壌汚染対策で、最も重要なのは地下水の管理システムであると考えています。そこで、前回のブログにも書きましたが、土壌汚染対策に対する問題点をもう一度述べ、対策を考えたいと思います。
1. 専門家会議で決定され、実施された土壌汚染対策
(1) 専門家会議で決定された土壌汚染対策案を再掲すると図-1の通りである。
(2) A.P.+2.0m以下は汚染物質を除去するか、土壌処理基準をクリアーする地盤になる様処理する。
(3) A.P.+4.0m以下A.P.+2.0mまでの土は土壌処理基準以下の処理土で置き換える。
(4) A.P.+4.0mからA.P.+6.5mまでは新たにきれいな良質土で盛土する。
(5) この方法は汚染土対策の一つの有力な方法で、例え汚染土が地中深い所に残留していても、移動させないで地下に閉じ込める案であると考えている。
図-1
2. 技術会議で決定された地下水管理システム
(1) 技術会議で提案された地下水管理システムの概要は図-2に示すとおりである。
(2) 集中豪雨や台風時においても、A.P.+2.0mで地下水の管理が出来るよう、日常的に維持水位をA.P.+1.8mとし、地中に貯水機能を確保する。
(3) 水位上昇時に自動的に揚水ポンプが稼働する総合的な自動監視システムである。
(4) このシステムを可能にするためには、周辺並びに下面からの地下水の流入を防ぎ、完全に外部から遮断された独立空間を作らねばならない。
(5) この為、道路側には鋼管矢板遮水壁を、護岸側には三層構造遮水壁を地盤下部に存在する不透水層まで打ち込まれた。
図-2(*1)
3. 地下水管理システムに対する疑問点について
(1) 地下水管理システムは土壌汚染対策の基本となるもので、最も重要なものである。
(2) このシステムを成立させるために必要な条件が一つでも満たされなければ、土壌汚染対策の基本が成り立たなくなる。
(3) このシステムに対して疑問を抱いた理由は、発表されている地下水位の測定結果である。(地下水の揚水が10月初めに開始され、10月3日より測定結果が公表されている。)
(4) 当初の地下水位は東京湾の標準水位から推定される地下水位(A.P.+1.0mからA.P.+3.0m程度)に比べ非常に高く、A.P.+5.0mを超えているものもある。これは真の地下水位ではなく、盛土施工中生じた遊水の水位と考えられる。
(5) 地下水位が非常に高かった時期から実際の地下水位として妥当と考えられるA.P.+3.0m程度になるまでは比較的早く、10月末ごろには全ての観測点でA.P.+4.0を下回っている。
(6) この時点から地下水位の低下が鈍くなっている地点もあり、一様でない。特に、護岸側の測定地点で水位低下が鈍くなっている地点が見受けられる。
(7) もし完全に外部から遮断された空間が成立していれば、揚水により地下水は表面から水平に流れ地下水位は低下していくが、もし外部から水が供給されると、地中に水平及び鉛直方向の水流が起ることになり、揚水の一部は外部からの地下水で供給されることになる。
4. 地下水管理システムに対する問題点
(1) この管理システムで最も問題になるのは外部から完全に遮断された空間が、非常に長期間(50年とか100年といった期間)保てるかどうか、である。
(2) 各空間の平面積は100,000m2 以上、空間の体積は1,000,000m3 にも達する大空間である。
(3) 各街区で、外部と遮断するための遮水壁は2,000個程度の継ぎ手を持っており、その総延長は20,000m以上になる。地中まで完全に充填剤を挿入出来たのかどうか、どのように検査されたのか?
(4) 遮水壁の内、鋼管矢板はスパイラル鋼管に継ぎ手を溶接したものであり、非常に高価で普通矢板の数倍はする遮水壁であるが、鋼管と継ぎ手部の鋼材の特性の違いもあって、遮水壁としては扱いにくいものと考えられる。また、三層構造遮水壁はソイルセメントの中に鋼製の遮水材を挿入していく、と説明されているが、施工方法や施工検査方法など十分説明される必要があると考えられる。
(5) 外部と遮断するためにさらに重要なのは地下に存在する不透水層である。広大な面積(各街区 100,000m2 以上)に全く切れ目なく存在するかどうか、どの様な調査をされて遮水壁の深さを決められたのか?
(6) A.P.+2.0m付近に設置された砕石層、もし排水層として設置されたのであれば、将来間隙が詰まらない対策として、有孔ヒューム管を挿入する必要があると考えるが、どの様な対策を立てられたのか?
(7) 液状化対策として締め固め杭が施工されているが、各街区の中に施工されたのかどうか? もし施工されたのであれば、締め固め砂杭は鉛直方向の透水係数を確実に増加させるので砂杭の先端深さと不透水層の関係等を明確にする必要がある。
(8) 以上の様に、非常に重要な空間で、且つ施工が難しい工事と考えられるが、施工を担当された業者の方々は長期にわたって完全に遮断された空間をギャランティされたのか?
5. 今後考えられる原因究明に必要な調査
(1) 1月14日に開かれた専門家会議では、地下水の検査結果に疑問を抱かれ、地下水採取孔の増加や地下水の再検査などの緊急対策が提案されました。
(2) 以上の対策の他に、地下水管理システムを維持するために最も重要な事項―外部から遮断された空間形成の条件の再検査が必要と考える。
(3) 先ず、地盤の連続した不透水層の存在の確認。各街区の平面積は非常に大きく、100,000m2 を超えている。遮水壁近くだけでなく、建家の中央部の地盤調査結果を検討され、連続した不透水層の確認が必要。
(4) 建家は杭基礎で杭の先端は下部の強固な支持層まで届いている。これら数多くの杭は不透水層を抜いていると考えられるので、建築工事の施工記録を調査する。
(5) 地盤改良工事で多くの砂杭やコンクリート杭が使用されているが全ての杭について施工記録の再検査をする。
(6) 各街区内には数多くの地盤調査ボーリング孔、地下水モニタリング孔、地下水管理システム観測井戸、揚水井戸等々、全てについて深度について再調査する。
(7) 遮水壁の施工結果の再検査。各壁の先端の深度と地盤の不透水層の関係、継ぎ手部の充填材の施工記録、三層構造遮水壁の継ぎ手部の施工記録など。
(8) 残念ながら汚染地下水のモニタリング結果が想定外であったので、遮断された空間の外からの地下水の供給の有無を調べるため、着色材を使った調査が可能かどうか検討する。
6. 地下水管理システムに頼らない汚染土対策
(1) 種々の調査の結果、もし外部から遮断された空間の形成に問題が発見された場合には、地下水の移動を起こさせる作業は中止する。すなわち、地下水管理システムの揚水を休止し、出来るだけ地下水の移動を起こさせない。
(2) 最初に専門家会議で考えられた対策案、すなわち図-1に示されたように上部の4.5mは盛土か完全に処理された土で覆い、この下の層も可能な限り土壌処理基準以下の土にする。この案を元に対策案を考える。
(3) 現在の状態から出来るだけ原案に近い改造案として、既に前回のブログで提案したものを図-3に再掲する。この案では、建家の下は設備用の空間が必要なので、2.5m程度の空間を設けそれ以下の空間は良質土と鉄筋コンクリートで埋め戻す。
(4) 専門家会議で、この案について議論して頂き、4.5mをすべて土で覆った原案と同等に、地表面に汚染土や汚染水の影響が及ばないかどうか判断して頂く。
(5) もし、何かを追加すれば合格するのであれば、指摘して頂く。
図-3
以上、豊洲の汚染土対策で第三者が意見を申し上げるのは良くないかもしれないが、もし長年の経験がお役に立てばと考えブログに書きました。
汚染土対策としては非常に広範囲で困難な工事について、担当の方々は非常によく研究され、もうあと一歩のところまで来ていると考えております。種々の問題が解決し一日も早く豊洲市場が開場することを願っています。
参考文献)
*1)『豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要』パンフレット,東京都中央卸売市場 新市場整備部,p.14
http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/siryo1.pdf