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豊洲市場の土壌汚染対策

小職は、日本で土の汚染が大きな環境問題になり始めたころ、この問題でアメリカの最大手のコンサルタント会社と共同で環境ビジネスを始めた経験を持っています。この経験を通じて、土の汚染に関する調査方法、修復方法、また必要な費用の負担方法、これに関連したスーパーファンド法、などを学びました。
今回は汚染された地盤上に建物を建設する場合、必要な注意事項について述べたいと思います。また、汚染された地盤の修復方法や必要な費用の負担等について私見を述べてみたいと思います。

1.   汚染源の特定と対策
①.  既に周知のように、豊洲市場の土地は、元々東京ガスが都市ガス生産のために使用していた土地で、汚染の歴史や原因、汚染された土の平面的な場所や深さ、汚染物の種類と濃度等はある程度分かっており、例えば、汚染された土が運び込まれた土地に対する汚染対策に比べ汚染対策が取りやすいものと考えられます。
②.  汚染土の調査としては、次の様な事項は必須のものと考えられます。
・ 東京ガスが行なってきた都市ガス生産工場の歴史と生産工程の把握
・ガス生産設備の平面的な位置と深さの調査
・土の汚染物質や汚染濃度の平面的且つ深さ方向の分布状況の調査
・上記の汚染土の調査と関連付けて敷地の地盤調査を実施し、地盤と汚染土の関係を敷地全体で把握し、汚染対策の必要個所を限定する。
③.  これらの調査を通じて、汚染された土の場所や深さ出来るだけ限定し、汚染土を拡散することなく局所的に土を入れ替え、または、閉じ込めてしまうことが汚染対策として最も効果的な方法であり、汚染が拡散すればするほど対策が難しくなり、また対策の効果も限定的になると考えています。
④.  以上述べた地盤調査や汚染土対策は既に検討されたことと思いますが、これらの結果が当該プロジェクトにどのように生かされたのでしょうか?

2.   豊洲市場での汚染対策
①.  豊洲市場では、汚染土の対策と同時に安全な市場の建物を建設することが求められています。この為、上部の建築の専門家、基礎構造や地盤の沈下や強化に関する専門家、地盤の汚染対策の専門家、地下水や水質汚染の専門家等の方々が一堂に会して総合的に議論されるべきと考えますが、このようや専門委員会は設置されたのでしょうか?
②.  例えば、液状化対策として上部の軟弱砂質土層に対して締め固めた砂杭が打設されていますが、これは確実に鉛直方向の透水性を増し、汚染された地下水はより容易に鉛直方向に移動してきます。
③.  また、敷地全体に毛細管現象を防ぐ対策として、砕石層が設けられていますが、これは水平方向の透水係数が増し、平面的に汚染水が拡散することにもなります。
④.  このように、汚染された土に対する対策と建物の安全性とは相反することがあり、総合的に考える必要があります。
⑤.  現在問題になっているA.P.+2.0m(ほぼ地下水位に等しい標高)に設けられた砕石層上の空間に汚染水が出てくることは容易に想定されることであり、この状態は砕石層を伝って敷地全体に広がっているものと考えられます。
⑥.  今問題にすべきことは地表面から4.5m(A.P.+2.0m)の空間に滲み出てきた地下水の汚染の状態を議論するのではなく、如何にして地表面に影響の無いような対策を講じるか、であると考えます。
⑦.  東京都の専門委員会で提案されたように、市場の建物の無いところでは、地下水位面(A.P.+2.0m)から上に4.5m(2.0m+2.0m)の盛土することで汚染の影響を防ぐことができることになっています。
⑧.  今議論すべきことは、市場の建物がある部分の実現可能な対策です。
・追加工事は必要ですが、例えば、現在の基礎面(A.P.+2.0m)に数十センチの鉄筋コンクリートを打設した場合、4.5mの盛土部分と同じ安全性があるのかどうか?
・この方法より更に追加工事は必要であるが、旧地盤面(A.P.+4.0m)まで盛土して基礎面を上げ、ここに鉄筋コンクリートを打設した場合はどうか?
・これらの他に可能な対策案があるかどうか?
⑨.  小職は十分可能な対策工はあると考えていますが、もし満足が得られる対策工が無ければ、豊洲市場全体に重大な影響を及ぼすことになると考えます。

3.   汚染対策に必要な費用の負担方法
豊洲市場の土地は広大であり、土壌浄化の費用の非常に大きなものになっている。この土地の浄化は最初に東京ガスが行い、その後更に東京都によって実施された。しかし、両者が使った費用は大きな差があり、費用の負担分担に疑問を感じ、その内容を日本の土壌汚染対策法と照らし合わせて考えてみることにしました。小職は、法律については素人でありますので、お教え頂ければ幸いです。
①.  豊洲市場の土地について
・前述したように、豊洲市場の土地は東京ガスの工場跡地であり、土や地下水の汚染は東京ガスの都市ガス生産により生じたことは明白である。
・東京ガスは東京都に土地を譲渡する際に、汚染した土壌や地下水の浄化を行い、豊洲市場の環境基準を満たしているとして売買契約を結んでいる。
・東京都が土地を買い取った後、念のため、土地の汚染に対する環境調査を実施したところ、環境基準をはるかに超える数値が検出された。
・従って、この土地は環境的には瑕疵のあった土地である、と言える。
②.  汚染浄化の負担と土壌汚染対策法
・日本における土壌汚染対策法では、汚染原因者(土壌汚染の原因を作ったもの)が浄化を実施し、その費用を負担するのが原則である。
・豊洲市場の場合、東京都が浄化の対策を行ったが、東京ガスは日本を代表する会社で、財務的な負担能力も十分あると考えられるので、東京ガスが土壌浄化の費用を負担するのが原則ではないだろうか?
・東京都と東京ガスとの売買契約で、東京都が浄化費用を負担するということになっていても、元々瑕疵のあった土地であり、また、両者が今までに浄化に使った費用はあまりにも差があることから、東京ガスが浄化の費用の全額もしくは一部を負担すべきではないだろうか?
以上

豊洲市場の問題点-基礎工学的な常識から

① 地盤の浄化の真の目的
地盤浄化の真の目的は浄化された地盤を作成することでなく、地盤上に建設される市場が安全で安心な建物になるということだと思います。都が設置された専門委員会で汚染対策のほかに建家の基礎構造について議論されなかったのでしょうか?

② 建物の基礎について
ほとんど全ての建物の基礎は地中に埋まっている部分(根入れ部分)があって、地下空間のない建物では少なくとも1メートル程度、設備配管等のための地下空間が必要な建物では少なくとも2メートル程度は根入れされ、鉄筋コンクリート製の底版が設けられ地下水の侵入を防ぐ構造が一般的だと思っていました。

③ 汚染土対策の観点から安全性の比較
専門委員会で提案された旧地盤面(A.P.+4.0m)から2.0mの土は掘削・入れ替えし、更に2.5mの盛土をする案と、例えば2.0mの土の掘削・入れ替えを行った後、建家の基礎構造として、数十センチの鉄筋コンクリート製底版を設けた場合を比較して、汚染土対策の観点から、どちらが安全なのでしょうか?
もし、鉄筋コンクリート製底版を設ける案で問題が無いのであれば、建設工事では
一度計画地盤面まで盛土した後再び基礎面まで掘削する方法は取らずに、汚染した土2.0mの掘削・入れ替え後、直接基礎構造を構築することが一般的だと思います。

④ 盛土荷重による地盤沈下の問題
現在、世間の目は地下水に集中していますが、旧地盤面から2.5mの盛土を軟弱地盤
上に行う、ということは基礎工学上大変な問題で、地盤沈下が長期にわたり生じます。なぜなら、旧地盤を基準にして考えると、2.0mの掘削・入れ替えた土による応力の変動はありませんが、2.5mの盛土は載荷重(約50kN)として働きます。この荷重により、地下水面(A.P.+2.0m)以下の粘土層には50kNの過剰間隙水圧が盛土された地区全体に発生することになります。
(注)50kNという水圧は大変なもので、5mの深さの水圧に相当します。この大きな
荷重が広大な敷地全面にかかり、敷地全体の地下に存在する粘性土層に過剰
間隙水圧を発生させることになります。

⑤ 圧密現象と地盤沈下、特に不同沈下の可能性
過剰間隙水圧をもった下部粘性土層の間隙から間隙水が粘性土層上部の透水層に向かって流れ出て、地盤の沈下が起る結果となります(圧密現象)。沈下量やこれに要する時間は下部粘性土層の性状や層厚によって異なるため、将来不同沈下起る可能性もあります。

⑥ 新しく盛土された地盤上に建設される建物の基礎工学的な問題点
建物の基礎が杭基礎であっても、新しく盛土された地盤上に建設される建物には解決しなければならない種々の問題が起ります。前述した沈下や不同沈下の問題の他に、沈下によって杭にかかる負の摩擦力が生じること、杭によって支えられた基礎版と基礎下の地盤の間に隙間が生じ、この隙間に杭を伝って地下水が溜まること等々があります。従って、計画地盤面を変更するときは上記の種々の問題、高潮の水位、建物の床面の高さなどを十分考慮して決定することが望まれます。

⑦ 基礎工学的な見地も考慮した汚染土対策
最近報道される内容を見ますと、「盛土することが絶対的に正しく、盛土内に基礎を設けることが間違っている」、との意見が多いように思います。この意見は汚染対策のことだけを考える場合は正しいかもしれません。しかし、実際は、「敷地内に非常に大きな市場の施設が建設される」、という基礎工学的な問題が忘れられているように思います。汚染対策も十分行い、且つ、基礎工学的にも十分安全な解決策は存在すると確信しています。

⑧ 複雑な技術問題の対処方法について
最近のプロジェクトでは、単一の技術分野では対処できない問題が多く含まれることから、出来るだけ異なった分野で豊かな経験を持った専門家が集まって、広範な技術を活用して最善の解決策を出すことが望まれています。
東京都には非常に優秀な土木・建築の技術者がおられると思いますし、また必要なら
建設コンサルタントや建設業にも非常に多くの専門家がおられます。これらの方々が専門委員会の委員になられて、環境や水・汚染水問題の専門の先生方に協力されて、
現場の条件を十分取り入れた解決策を講じられることを願うところです。

以上

新しいブログの開設にあたって

私たちは土木と建築を専門とするグループですが、最近この分野でいろいろな問題が起り世間を騒がせております。ところが、テレビや新聞で報道される議論の内容は必ずしも的をえているものばかりとは、我々には思えません。そこで、自分たちが考えていることを自由に、且つ、気楽に発信できる場を設け、皆様と意見を交換できる場があれば、と考え、このブログを立ち上げました。

なお、我々は実際のプロジェクトを担当してきた技術者であり、専門的な高度な知識を持たれた学者ではありません。従って、一般的な常識で考えて意見を述べますが、皆様から種々の御意見を頂ければ幸いです。