日別アーカイブ: 2016年10月3日

豊洲市場の問題点-基礎工学的な常識から

① 地盤の浄化の真の目的
地盤浄化の真の目的は浄化された地盤を作成することでなく、地盤上に建設される市場が安全で安心な建物になるということだと思います。都が設置された専門委員会で汚染対策のほかに建家の基礎構造について議論されなかったのでしょうか?

② 建物の基礎について
ほとんど全ての建物の基礎は地中に埋まっている部分(根入れ部分)があって、地下空間のない建物では少なくとも1メートル程度、設備配管等のための地下空間が必要な建物では少なくとも2メートル程度は根入れされ、鉄筋コンクリート製の底版が設けられ地下水の侵入を防ぐ構造が一般的だと思っていました。

③ 汚染土対策の観点から安全性の比較
専門委員会で提案された旧地盤面(A.P.+4.0m)から2.0mの土は掘削・入れ替えし、更に2.5mの盛土をする案と、例えば2.0mの土の掘削・入れ替えを行った後、建家の基礎構造として、数十センチの鉄筋コンクリート製底版を設けた場合を比較して、汚染土対策の観点から、どちらが安全なのでしょうか?
もし、鉄筋コンクリート製底版を設ける案で問題が無いのであれば、建設工事では
一度計画地盤面まで盛土した後再び基礎面まで掘削する方法は取らずに、汚染した土2.0mの掘削・入れ替え後、直接基礎構造を構築することが一般的だと思います。

④ 盛土荷重による地盤沈下の問題
現在、世間の目は地下水に集中していますが、旧地盤面から2.5mの盛土を軟弱地盤
上に行う、ということは基礎工学上大変な問題で、地盤沈下が長期にわたり生じます。なぜなら、旧地盤を基準にして考えると、2.0mの掘削・入れ替えた土による応力の変動はありませんが、2.5mの盛土は載荷重(約50kN)として働きます。この荷重により、地下水面(A.P.+2.0m)以下の粘土層には50kNの過剰間隙水圧が盛土された地区全体に発生することになります。
(注)50kNという水圧は大変なもので、5mの深さの水圧に相当します。この大きな
荷重が広大な敷地全面にかかり、敷地全体の地下に存在する粘性土層に過剰
間隙水圧を発生させることになります。

⑤ 圧密現象と地盤沈下、特に不同沈下の可能性
過剰間隙水圧をもった下部粘性土層の間隙から間隙水が粘性土層上部の透水層に向かって流れ出て、地盤の沈下が起る結果となります(圧密現象)。沈下量やこれに要する時間は下部粘性土層の性状や層厚によって異なるため、将来不同沈下起る可能性もあります。

⑥ 新しく盛土された地盤上に建設される建物の基礎工学的な問題点
建物の基礎が杭基礎であっても、新しく盛土された地盤上に建設される建物には解決しなければならない種々の問題が起ります。前述した沈下や不同沈下の問題の他に、沈下によって杭にかかる負の摩擦力が生じること、杭によって支えられた基礎版と基礎下の地盤の間に隙間が生じ、この隙間に杭を伝って地下水が溜まること等々があります。従って、計画地盤面を変更するときは上記の種々の問題、高潮の水位、建物の床面の高さなどを十分考慮して決定することが望まれます。

⑦ 基礎工学的な見地も考慮した汚染土対策
最近報道される内容を見ますと、「盛土することが絶対的に正しく、盛土内に基礎を設けることが間違っている」、との意見が多いように思います。この意見は汚染対策のことだけを考える場合は正しいかもしれません。しかし、実際は、「敷地内に非常に大きな市場の施設が建設される」、という基礎工学的な問題が忘れられているように思います。汚染対策も十分行い、且つ、基礎工学的にも十分安全な解決策は存在すると確信しています。

⑧ 複雑な技術問題の対処方法について
最近のプロジェクトでは、単一の技術分野では対処できない問題が多く含まれることから、出来るだけ異なった分野で豊かな経験を持った専門家が集まって、広範な技術を活用して最善の解決策を出すことが望まれています。
東京都には非常に優秀な土木・建築の技術者がおられると思いますし、また必要なら
建設コンサルタントや建設業にも非常に多くの専門家がおられます。これらの方々が専門委員会の委員になられて、環境や水・汚染水問題の専門の先生方に協力されて、
現場の条件を十分取り入れた解決策を講じられることを願うところです。

以上

新しいブログの開設にあたって

私たちは土木と建築を専門とするグループですが、最近この分野でいろいろな問題が起り世間を騒がせております。ところが、テレビや新聞で報道される議論の内容は必ずしも的をえているものばかりとは、我々には思えません。そこで、自分たちが考えていることを自由に、且つ、気楽に発信できる場を設け、皆様と意見を交換できる場があれば、と考え、このブログを立ち上げました。

なお、我々は実際のプロジェクトを担当してきた技術者であり、専門的な高度な知識を持たれた学者ではありません。従って、一般的な常識で考えて意見を述べますが、皆様から種々の御意見を頂ければ幸いです。