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建設工事におけるオーナーズコンサルタントの必要性

1. オーナーズコンサルタントの必要性

近年、建築土木工事に関して、国内において他の分野と共同で行う巨大なプロジェクトも増加し、また、我が国の技術者が外国のプロジェクトに参画する機会も多くなってきている。一方、最近国内では、施設の建設プロジェクトで種々問題が発生し、世間を騒がせていることが多くなってきている。この原因として、最近のプロジェクトは技術分野が多岐にわたり、単一の技術では解決できないにも拘わらず、建設の重要事項の決定に他の技術との連携を十分取らずに解決しようとした為ではないかと考えている。
この解決法の一つとして、プロジェクトの最初から最後まで建設期間を通して、経験豊かな技術者または技術集団が種々の問題を解決していく、オーナーズコンサルタント制度の採用が必要ではないかと考えている。諸外国では非常に一般的なものであるが、日本においては十分活用がされていない。しかし、この制度が日本においても採用されることが望ましいと考えており、また、この為、オーナーズコンサルタントになり得る人材の育成が必要ではないかと考えている。
幸、私はアメリカの恩師のご指導のお陰もあって、ニュージーランド、インドネシア、マレーシア、台湾等のプロジェクトに参画し、外国におけるオーナーズコンサルタントの業務内容やプロジェクトの進め方を学んできた。また、国内の建設プロジェクトにおいても、計画・企画の段階から設計、施工管理や工事後維持管理に至るまで、関係することが出来るプロジェクトに数多く参画してきた。そこで、今回は日本の事情も考慮したオーナーズコンサルタント制度について述べることにした。

なお、最初に断わっておくが、ここで述べるオーナーズコンサルタント制度は施設の実際の建設工事を伴うプロジェクトに関するもので、国土の企画・計画等、実際の建設工事を伴わないプロジェクトについては論じるに十分な経験もないので、含んでいない。

2. 工業製品と土木建築工事の生産方法の違い

土木建築工事においてオーナーズコンサルタントの必要性を説明するために、初めに工業製品と土木建築工事の生産方法の違いについて述べる。

(1) 設計の進め方

  • 工業製品では、設計と製造の関係は前工程と後工程という直線的な関係で、設計図と仕様書は設計段階で綿密に検討され、製造段階で疑義の余地のないものになっている。
  • 土木建築工事では、設計過程は直線的でなく、行きつ戻りつ、試行錯誤を繰り返しながら進められる。また、建設の過程に入っても設計方針や条件が変わることもある。

(2) 製造工程

  • 工業製品では、設計と並行して準備が整えられ、用意された製造方法によって一気に生産されていく。
  • 土木建築工事では、一品生産に対応し、その都度異なる生産設備が運び込まれ、生産組織も常設組織でなく一回限りのものである。また、生産設備や生産組織は予め用意することはできず、生産に着手してから必要な組織や設備を整え、生産が進められる。

(3) 品質管理

  • 工業製品では、予め製造ラインに組み込まれた品質管理の手法によって製品の品質が管理され、品質は一定幅の中にあることが保証される。
  • 土木建築工事では、製造工程に品質管理の仕組みを組み込むことは可能であるが、作りだされたものが一定の品質を備えているかどうかは工業製品の様には期待できない。従って、工程の区切りごとに品質を確認し次の工程に進む、ということが積み重ねられる。

(4) 品質保証

  • 工業製品では、発注者は製品を動かして、要求に合致していることを確認でき、万一不良品があった場合は、修理または交換が要求でき、場合によっては返品も出来る。
  • 土木建築工事では、発注者は設計者や施工会社に対する信頼だけを頼りに工事請負契約を結び、巨額の工事金の支払いを約束する。製品に不都合があった場合、瑕疵担保責任により修理や保障は求められるが、受け取りを拒否することは出来ない仕組みになっている。

(5) オーナーズコンサルタント的役割の必要性

以上の様に、土木建築工事が工業製品の製造とは異なることを説明したので、土木建築工事においてオーナーコンサルタントの必要性が理解して頂いたと思う。
オーナーコンサルタントの主な役割を示すと次の様なものである。

  • 何を作るかを決める。
  • どのように作るかを決める。
  • 決められたものが決められた方法で作られたことを確かめる。
  • 工事中は事業主、設計監理者、施工業者間の会議を主催し、工事の安全、工程、施工方法など、工事中に起る種々の問題の解決に努める。
  • 工事中、関係官庁や近隣の方々に対し必要な技術情報を説明し、理解を得る。
  • 工事中に建設工事の諸条件が変わることがあるので、工事の方法や数量が変化することがある。この場合、最も公平に最終工事費の調整などを行う。
  • 施設の完成後、将来に必要となるメインテナンスの時期や方法を提案する。

3. オーナーズコンサルタントになるための要件

オーナーズコンサルタントのなるためには次の様な資質が求められる。

(1) 技術的資質

  • 経験をすることが大事で、自ら幾つかのプロジェクトの設計・施工管理を経験していること。
  • 関係法規なども良く理解し、関係官庁の承認取得方法などを理解し、取得の折衝等行った経験を有していること。
  • 大きなプロジェクトの総括責任者として、種々の分野の異なる技術者を指導し、プロジェクトを纏める経験をしていること。
  • 必要な領域に対し、新しい技術革新に適応した最新の技術を研鑽し、どのような要求にも応じられる技術集団を組織できること。
  • さらに進んだ専門的知識が必要な場合、種々の分野の専門家から意見を聴取し、これを集約してプロジェクトに生かせる能力を有すること。

(2) 倫理的資質

  • 施工業者からは勿論、関係するメーカーや関係業界から完全に独立していて、中立性と自主性を保つこと。
  • 施設の設計は、作る側の便宜からでなく、まず使う側の利便性を考えること。
  • 工事管理では、外部からの影響を受けることなく、厳正中立の立場でおこなうこと。
  • 最終的な建設工事費の調整においては、厳正中立な立場で査定ができること。

4. 建設工事の進め方

施設の建設工事の進め方として、計画・設計と施工を分離して発注する場合と設計と施工を分離せず一括して発注するケースがある。この二つのケースの利害得失について述べる。

(1)  設計と施工を分離した場合

  • 設計が完全に独立して実施され、用意された設計図書(設計図や仕様書等)を用いて数社の施工業者が参加して競争入札が行われ、最も適した業者が選ばれ、事業主が最適額で契約してから発注されるケースである。
  • 発注額の内容も明らかで、将来工事中に発生するかもしれない変更に対して、発注設計図書に従って発注額の変更が行われるので、疑問の入る余地がない。
  • 施工中の施工管理は事業主、設計者と管理者が協力して行われるので、必要な時期に必要な場所でチェックすることが可能である。
  • 工事中の運営は発注者と設計者が中心となって運営されるので、協議内容や工事の進捗度等がオープンで理解しやすい。

(2) 設計施工で行われる場合

  • 設計と施工を一括して発注する方法である。
  • 宣伝文句として、設計の手間が省けるとか設計料が安くなる(極端にはただである)と言われるが、見かけ上はともかく実際には全くあり得ないことである。
  • 最も問題になるのは、事業主の利益が守られにくいことである。下記の様な問題に対して対処方法を考えておく必要がある。
    □ 巨額の投資にも拘わらず、契約金と内訳の査定はどのようにするのか?
    □ 品質はどの様に管理するのか?
    □ 約束通りのものが出来ているのか?
    □ 工事進行の運営や判断し難い事項の処理はどうするか?

5. オーナーズコンサルタント制度の現状、必要性と育成

オーナーズコンサルタント制度の現状、必要性と育成について述べる。

(1) オーナーズコンサルタントの制度の日本における現状

  • 40年以上前になると思うが、土木学会誌でこれからのコンサルタントの役割という論説で、コンサルタントは行政の技術者のサポートから、本稿で述べたようなオーナーズコンサルタントの役割になっていく、ということが書かれていたと記憶する。
  •  しかし、現在の土木コンサルタントの技術力は上がったとはいえ、オーナーズコンサルタントができる域に達していない。
  • 建築の工事では、施主側に専門技術者がほとんどいなく、建築工事を全面的に任される素晴らしいオーナーズコンサルタントのグループが存在すると考えている。事業主からも信頼され、社会的な地位も高く、パートナーとしての地位を獲得している。
  • 一方、土木の工事では、行政の施主が多く、設計図書の著作権の問題も含め、土木では部分的は補助作業になっている。行政の技術者は専門的なところは学識経験者で構成する委員会等を活用する場合が多い。問題は行政の技術者が本稿でのオーナーズコンサルタントになり得るかという問題である。
  • 行政の技術者の数が少ないうえに、分野ごとの行政組織の壁があり、分野を超えた経験ができにくいということがあると考えられる。これが今日多くの分野に関係するプロジェクトに問題が発生する原因の一つであるかと思われる。

(2) 公共工事の遂行体制とオーナーズコンサルタントの必要性

  • 行政が直轄工事を行っていた時と違って、建設工事に含まれる企画・計画、設計、施工管理等の作業の大部分が外注されているにも拘わらず、形の上では、作業は全て行政府側で行われたことになっている。この為、工事は一応設計施工を分離した方法を取って、中立性が保たれている形になっているが、実際は施工業者が提出するプロポーザルを正確に検討し、評価する技術力が不足してきたように考えている。
  • 最近では、施工業者が次第に力を持ってきて、JV (ジョイントベンチャー) 工事と称して、工事費の入札時の競争力をなくし、かなり高価な公共工事が行われている様に考えている。
  • 国内工事で、現在の様に外国の建設業者が工事に参画しないことが何時までも続くとは考えられない。外国の建設業者が参入してきた場合、公平を期するためプロポーザル方式が取られると考えるが、建設業者から出てきた技術提案書を的確に評価し、公表しなければならない。現在の様に、敗者に対して「貴方の提案より優れた提案があった。」という一行程度の理由書では通用しない。
  • 一方、日本の設計業者や建設業者が経済成長を続けている外国で、準国内的なプロジェクトと考えられるJICAのプロジェクト以外の仕事で活躍するためにも、オーナーズコンサルタントを中心としたプロジェクトの進め方を熟知する必要があると考える。

(3) オーナーズコンサルタントの育成

  • これからの土木工事においてオーナーズコンサルタント制度を育成するには、現状の土木コンサルタントに権限を委譲し、役所情報の守秘義務等の制度を整えて、時間をかけて現状の土木コンサルタントを育成してゆくか、オーナーズコンサルタントという職種を作り、その資格ある技術者を集めた会社に役所が業務発注する仕組みを創設することが考えられる。
  • この組織は公共だけでなく、民間土木でも活用され、海外で多い、オーナーズコンサルタント+設計(+)施工体制でのプロジェクトの進め方も日本で採用できる。
  • 既得権益を守るのは人間本来の姿であるかもしれないが、現在の日本でも既得権益を守って生きようとする守りの姿勢の人が多い。上述の変更は行政の技術者の既得権益を捨てるということ、すなわち、管理技術者の役割を少なくすることであり、時間がかかるだろう。 何十年経っても、土木コンサルタントの地位が十分向上しない大きな要因かと思っている。
  • 一方、土木コンサルタント側もオーナーズコンサルタントの制度を十分研究し、行政からの指示を待つという姿勢から、常に厳正中立な立場で積極的に議論に加わり、事業主への助言が出来るよう努めねばならない。

以上