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建設工事におけるオーナーズコンサルタントの必要性

1. オーナーズコンサルタントの必要性

近年、建築土木工事に関して、国内において他の分野と共同で行う巨大なプロジェクトも増加し、また、我が国の技術者が外国のプロジェクトに参画する機会も多くなってきている。一方、最近国内では、施設の建設プロジェクトで種々問題が発生し、世間を騒がせていることが多くなってきている。この原因として、最近のプロジェクトは技術分野が多岐にわたり、単一の技術では解決できないにも拘わらず、建設の重要事項の決定に他の技術との連携を十分取らずに解決しようとした為ではないかと考えている。
この解決法の一つとして、プロジェクトの最初から最後まで建設期間を通して、経験豊かな技術者または技術集団が種々の問題を解決していく、オーナーズコンサルタント制度の採用が必要ではないかと考えている。諸外国では非常に一般的なものであるが、日本においては十分活用がされていない。しかし、この制度が日本においても採用されることが望ましいと考えており、また、この為、オーナーズコンサルタントになり得る人材の育成が必要ではないかと考えている。
幸、私はアメリカの恩師のご指導のお陰もあって、ニュージーランド、インドネシア、マレーシア、台湾等のプロジェクトに参画し、外国におけるオーナーズコンサルタントの業務内容やプロジェクトの進め方を学んできた。また、国内の建設プロジェクトにおいても、計画・企画の段階から設計、施工管理や工事後維持管理に至るまで、関係することが出来るプロジェクトに数多く参画してきた。そこで、今回は日本の事情も考慮したオーナーズコンサルタント制度について述べることにした。

なお、最初に断わっておくが、ここで述べるオーナーズコンサルタント制度は施設の実際の建設工事を伴うプロジェクトに関するもので、国土の企画・計画等、実際の建設工事を伴わないプロジェクトについては論じるに十分な経験もないので、含んでいない。

2. 工業製品と土木建築工事の生産方法の違い

土木建築工事においてオーナーズコンサルタントの必要性を説明するために、初めに工業製品と土木建築工事の生産方法の違いについて述べる。

(1) 設計の進め方

  • 工業製品では、設計と製造の関係は前工程と後工程という直線的な関係で、設計図と仕様書は設計段階で綿密に検討され、製造段階で疑義の余地のないものになっている。
  • 土木建築工事では、設計過程は直線的でなく、行きつ戻りつ、試行錯誤を繰り返しながら進められる。また、建設の過程に入っても設計方針や条件が変わることもある。

(2) 製造工程

  • 工業製品では、設計と並行して準備が整えられ、用意された製造方法によって一気に生産されていく。
  • 土木建築工事では、一品生産に対応し、その都度異なる生産設備が運び込まれ、生産組織も常設組織でなく一回限りのものである。また、生産設備や生産組織は予め用意することはできず、生産に着手してから必要な組織や設備を整え、生産が進められる。

(3) 品質管理

  • 工業製品では、予め製造ラインに組み込まれた品質管理の手法によって製品の品質が管理され、品質は一定幅の中にあることが保証される。
  • 土木建築工事では、製造工程に品質管理の仕組みを組み込むことは可能であるが、作りだされたものが一定の品質を備えているかどうかは工業製品の様には期待できない。従って、工程の区切りごとに品質を確認し次の工程に進む、ということが積み重ねられる。

(4) 品質保証

  • 工業製品では、発注者は製品を動かして、要求に合致していることを確認でき、万一不良品があった場合は、修理または交換が要求でき、場合によっては返品も出来る。
  • 土木建築工事では、発注者は設計者や施工会社に対する信頼だけを頼りに工事請負契約を結び、巨額の工事金の支払いを約束する。製品に不都合があった場合、瑕疵担保責任により修理や保障は求められるが、受け取りを拒否することは出来ない仕組みになっている。

(5) オーナーズコンサルタント的役割の必要性

以上の様に、土木建築工事が工業製品の製造とは異なることを説明したので、土木建築工事においてオーナーコンサルタントの必要性が理解して頂いたと思う。
オーナーコンサルタントの主な役割を示すと次の様なものである。

  • 何を作るかを決める。
  • どのように作るかを決める。
  • 決められたものが決められた方法で作られたことを確かめる。
  • 工事中は事業主、設計監理者、施工業者間の会議を主催し、工事の安全、工程、施工方法など、工事中に起る種々の問題の解決に努める。
  • 工事中、関係官庁や近隣の方々に対し必要な技術情報を説明し、理解を得る。
  • 工事中に建設工事の諸条件が変わることがあるので、工事の方法や数量が変化することがある。この場合、最も公平に最終工事費の調整などを行う。
  • 施設の完成後、将来に必要となるメインテナンスの時期や方法を提案する。

3. オーナーズコンサルタントになるための要件

オーナーズコンサルタントのなるためには次の様な資質が求められる。

(1) 技術的資質

  • 経験をすることが大事で、自ら幾つかのプロジェクトの設計・施工管理を経験していること。
  • 関係法規なども良く理解し、関係官庁の承認取得方法などを理解し、取得の折衝等行った経験を有していること。
  • 大きなプロジェクトの総括責任者として、種々の分野の異なる技術者を指導し、プロジェクトを纏める経験をしていること。
  • 必要な領域に対し、新しい技術革新に適応した最新の技術を研鑽し、どのような要求にも応じられる技術集団を組織できること。
  • さらに進んだ専門的知識が必要な場合、種々の分野の専門家から意見を聴取し、これを集約してプロジェクトに生かせる能力を有すること。

(2) 倫理的資質

  • 施工業者からは勿論、関係するメーカーや関係業界から完全に独立していて、中立性と自主性を保つこと。
  • 施設の設計は、作る側の便宜からでなく、まず使う側の利便性を考えること。
  • 工事管理では、外部からの影響を受けることなく、厳正中立の立場でおこなうこと。
  • 最終的な建設工事費の調整においては、厳正中立な立場で査定ができること。

4. 建設工事の進め方

施設の建設工事の進め方として、計画・設計と施工を分離して発注する場合と設計と施工を分離せず一括して発注するケースがある。この二つのケースの利害得失について述べる。

(1)  設計と施工を分離した場合

  • 設計が完全に独立して実施され、用意された設計図書(設計図や仕様書等)を用いて数社の施工業者が参加して競争入札が行われ、最も適した業者が選ばれ、事業主が最適額で契約してから発注されるケースである。
  • 発注額の内容も明らかで、将来工事中に発生するかもしれない変更に対して、発注設計図書に従って発注額の変更が行われるので、疑問の入る余地がない。
  • 施工中の施工管理は事業主、設計者と管理者が協力して行われるので、必要な時期に必要な場所でチェックすることが可能である。
  • 工事中の運営は発注者と設計者が中心となって運営されるので、協議内容や工事の進捗度等がオープンで理解しやすい。

(2) 設計施工で行われる場合

  • 設計と施工を一括して発注する方法である。
  • 宣伝文句として、設計の手間が省けるとか設計料が安くなる(極端にはただである)と言われるが、見かけ上はともかく実際には全くあり得ないことである。
  • 最も問題になるのは、事業主の利益が守られにくいことである。下記の様な問題に対して対処方法を考えておく必要がある。
    □ 巨額の投資にも拘わらず、契約金と内訳の査定はどのようにするのか?
    □ 品質はどの様に管理するのか?
    □ 約束通りのものが出来ているのか?
    □ 工事進行の運営や判断し難い事項の処理はどうするか?

5. オーナーズコンサルタント制度の現状、必要性と育成

オーナーズコンサルタント制度の現状、必要性と育成について述べる。

(1) オーナーズコンサルタントの制度の日本における現状

  • 40年以上前になると思うが、土木学会誌でこれからのコンサルタントの役割という論説で、コンサルタントは行政の技術者のサポートから、本稿で述べたようなオーナーズコンサルタントの役割になっていく、ということが書かれていたと記憶する。
  •  しかし、現在の土木コンサルタントの技術力は上がったとはいえ、オーナーズコンサルタントができる域に達していない。
  • 建築の工事では、施主側に専門技術者がほとんどいなく、建築工事を全面的に任される素晴らしいオーナーズコンサルタントのグループが存在すると考えている。事業主からも信頼され、社会的な地位も高く、パートナーとしての地位を獲得している。
  • 一方、土木の工事では、行政の施主が多く、設計図書の著作権の問題も含め、土木では部分的は補助作業になっている。行政の技術者は専門的なところは学識経験者で構成する委員会等を活用する場合が多い。問題は行政の技術者が本稿でのオーナーズコンサルタントになり得るかという問題である。
  • 行政の技術者の数が少ないうえに、分野ごとの行政組織の壁があり、分野を超えた経験ができにくいということがあると考えられる。これが今日多くの分野に関係するプロジェクトに問題が発生する原因の一つであるかと思われる。

(2) 公共工事の遂行体制とオーナーズコンサルタントの必要性

  • 行政が直轄工事を行っていた時と違って、建設工事に含まれる企画・計画、設計、施工管理等の作業の大部分が外注されているにも拘わらず、形の上では、作業は全て行政府側で行われたことになっている。この為、工事は一応設計施工を分離した方法を取って、中立性が保たれている形になっているが、実際は施工業者が提出するプロポーザルを正確に検討し、評価する技術力が不足してきたように考えている。
  • 最近では、施工業者が次第に力を持ってきて、JV (ジョイントベンチャー) 工事と称して、工事費の入札時の競争力をなくし、かなり高価な公共工事が行われている様に考えている。
  • 国内工事で、現在の様に外国の建設業者が工事に参画しないことが何時までも続くとは考えられない。外国の建設業者が参入してきた場合、公平を期するためプロポーザル方式が取られると考えるが、建設業者から出てきた技術提案書を的確に評価し、公表しなければならない。現在の様に、敗者に対して「貴方の提案より優れた提案があった。」という一行程度の理由書では通用しない。
  • 一方、日本の設計業者や建設業者が経済成長を続けている外国で、準国内的なプロジェクトと考えられるJICAのプロジェクト以外の仕事で活躍するためにも、オーナーズコンサルタントを中心としたプロジェクトの進め方を熟知する必要があると考える。

(3) オーナーズコンサルタントの育成

  • これからの土木工事においてオーナーズコンサルタント制度を育成するには、現状の土木コンサルタントに権限を委譲し、役所情報の守秘義務等の制度を整えて、時間をかけて現状の土木コンサルタントを育成してゆくか、オーナーズコンサルタントという職種を作り、その資格ある技術者を集めた会社に役所が業務発注する仕組みを創設することが考えられる。
  • この組織は公共だけでなく、民間土木でも活用され、海外で多い、オーナーズコンサルタント+設計(+)施工体制でのプロジェクトの進め方も日本で採用できる。
  • 既得権益を守るのは人間本来の姿であるかもしれないが、現在の日本でも既得権益を守って生きようとする守りの姿勢の人が多い。上述の変更は行政の技術者の既得権益を捨てるということ、すなわち、管理技術者の役割を少なくすることであり、時間がかかるだろう。 何十年経っても、土木コンサルタントの地位が十分向上しない大きな要因かと思っている。
  • 一方、土木コンサルタント側もオーナーズコンサルタントの制度を十分研究し、行政からの指示を待つという姿勢から、常に厳正中立な立場で積極的に議論に加わり、事業主への助言が出来るよう努めねばならない。

以上

豊洲市場の汚染水の問題について(追加)

前回のブログで書き忘れたことを追加します。

最近の報道を見ていますと、地下水の測定結果だけが報道されていますが、地下水の採取深度についてはほとんど報道されていません。そこで、当初専門家会議で議論され、決定された汚染土対策と地下水の採取深さを正確に述べたいと思います。

1.専門家会議で決定された汚染土対策案と地中に汚染土が残留している可能性

(1)専門家会議で決定された汚染土対策案は、何回も繰り返すことになるが、図-1に示されている通りである。旧地盤面(A.P.+4.0m)から2mの深さ(A.P.+2m)までは土壌を全て掘削し、土壌汚染基準以下に処理された土で埋め戻す。

fig-1

図-1

(2)さらに、A.P.+4mから上部に2.5mを新たに良質土で盛土し地盤高をA.P.+6.5mとする。
(3)問題はA.P.+2.0m以深の土であるが、詳細調査及び引き続き行われた絞込み調査により出来る限りの処理がなされ、ほとんどの土壌が土壌基準以下に処理されている。
(4)残念ながら、このA.P.+2.0m以深の部分は全て掘削して調べたものでなく、ある間隔のメッシュ状に上から調べたものであるので、若干ではあるが、汚染土が残されている可能性がある。

2.地下水の採取深度

(1)地下水のモリタリングようの観測井の構造はA.P.+2.0m以下にストレーナーが切られていて(有孔管となっていて)、採取された地下水はA.P.+2.0m以下のものである。
(2)上述したように、この部分に汚染土が含まれている可能性は零(0)ではない。
(3)今、「水質基準の79倍」ということだけが報道されているが、この値は広い市場の1点にすぎず、また、この値は地表面から4.5m下の深さの値である。
(4)専門家会議で決められた対策案の原案では、A.P.+2.0mより上に4.5m(2.5m+2.0m)が良質土で盛土されていて、例えA.P.+2.0mの深さで汚染源が発見されても、地表面に影響を与えるものではないと考えられる。

3.市場建屋部の考え方

(1)残念ながら、市場の建屋部(建築物の下部)は空間となっていて、盛土部分がないため、A.P.+2.0mの深さで測定された汚染は直接地下空間に影響を及ぼすことになる。従って、何らかの対策が必要である。
(2)技術会議で提案された地下水管理システムで汚染水対策を行うことは次の理由により問題があると考える。
市場は非常に長期に使用されるので、地下水管理システムが全く故障もなく稼働するとは考えにくい。
現在排水に使われている砕石層も長年の間に目詰まりし、排水が有効でなくなる恐れがある。
前にも指摘したが、周辺の擁壁や下部の不透水層で遮水性の空間を作ることになっているが、これには種々の問題がある。
さらに、長期の間には、巨大な地震の発生も考慮しなければならない。どのような自然現象にも耐えうるものでなければならないが、これをギャランティすることは難しいと考える。
地下水管理システムを働かせるために、長期にわたってランニングコストがかかる。

4.現実的な解決案

(1)これも繰り返しになるが、解決策を再掲すると図-2に示すとおりである。

fig-5
図-2

(2)解決策の前提条件は「専門家会議で提案された解決策(図-1)が有効である。」ということである。
(3)建家部は盛土がないので、4.5mの盛土と同じ効果を持つよう、建家に必要な設備空間を残してコンクリートと良質土で埋め立てる。
(4)コンクリートと良質土の厚さは2.0m程度と考えられるので、コンクリートの厚さは4.5mの土の持つ遮塀性と同じになるように決める。
(5)地下水は出来るだけ動かさないことが重要だと考えるので、水管理システムによる揚水は休止する。
(6)現場で存在する観測井、揚水井、旧ボーリング孔等、A.P.+2.0m以深から地表面まで貫通している孔は全てコンクリートモルタル等を詰めて閉鎖する。
(7)新たに地表面近くで、汚染土に起因する変化を観測する。
(8)建家周りの排水方法を再度調べ、どの様な豪雨に対しても地表面付近で処理できるよう検討する。

以上ですが、ご批判を頂ければ幸いです。

豊洲市場の汚染水の問題について

1月14日9回目の汚染地下水のモニタリング結果が発表され、多くの方々が驚くような数値となりました。何か対策を立てる必要があるとは思いますが、マスコミの方々の報道は、結果の内容を十分理解されずに報道合戦を繰り広げていられる様に思います。
ここで理解して頂きたいのは、東京都の取られた汚染土対策はこの種の対策としては最高のものであり、少なくとも地表面から4.5m(2.5m+2.0m)までの汚染土はすべて取り除かれ存在していません。さらに、地表面から4.5m(A.P.+2.0m)以深の土も出来る限り土壌汚染基準以下に処理されています。市場の安全性を考え十分な対策が取られてきたと考えます。
しかし、残念ながら1月14日に示された値は基準をオーバーしていました。この原因として、地下水位の検査結果に疑問を持っていられる方もおられ、再検査などが提案されておりますが、豊洲市場の土壌汚染対策で、最も重要なのは地下水の管理システムであると考えています。そこで、前回のブログにも書きましたが、土壌汚染対策に対する問題点をもう一度述べ、対策を考えたいと思います。

1. 専門家会議で決定され、実施された土壌汚染対策

(1) 専門家会議で決定された土壌汚染対策案を再掲すると図-1の通りである。
(2) A.P.+2.0m以下は汚染物質を除去するか、土壌処理基準をクリアーする地盤になる様処理する。
(3) A.P.+4.0m以下A.P.+2.0mまでの土は土壌処理基準以下の処理土で置き換える。
(4) A.P.+4.0mからA.P.+6.5mまでは新たにきれいな良質土で盛土する。
(5) この方法は汚染土対策の一つの有力な方法で、例え汚染土が地中深い所に残留していても、移動させないで地下に閉じ込める案であると考えている。

fig-1
図-1

2. 技術会議で決定された地下水管理システム

(1) 技術会議で提案された地下水管理システムの概要は図-2に示すとおりである。
(2) 集中豪雨や台風時においても、A.P.+2.0mで地下水の管理が出来るよう、日常的に維持水位をA.P.+1.8mとし、地中に貯水機能を確保する。
(3) 水位上昇時に自動的に揚水ポンプが稼働する総合的な自動監視システムである。
(4) このシステムを可能にするためには、周辺並びに下面からの地下水の流入を防ぎ、完全に外部から遮断された独立空間を作らねばならない。
(5) この為、道路側には鋼管矢板遮水壁を、護岸側には三層構造遮水壁を地盤下部に存在する不透水層まで打ち込まれた。

20170121_fig.2
図-2(*1)

3. 地下水管理システムに対する疑問点について

(1) 地下水管理システムは土壌汚染対策の基本となるもので、最も重要なものである。
(2) このシステムを成立させるために必要な条件が一つでも満たされなければ、土壌汚染対策の基本が成り立たなくなる。
(3) このシステムに対して疑問を抱いた理由は、発表されている地下水位の測定結果である。(地下水の揚水が10月初めに開始され、10月3日より測定結果が公表されている。)
(4) 当初の地下水位は東京湾の標準水位から推定される地下水位(A.P.+1.0mからA.P.+3.0m程度)に比べ非常に高く、A.P.+5.0mを超えているものもある。これは真の地下水位ではなく、盛土施工中生じた遊水の水位と考えられる。
(5) 地下水位が非常に高かった時期から実際の地下水位として妥当と考えられるA.P.+3.0m程度になるまでは比較的早く、10月末ごろには全ての観測点でA.P.+4.0を下回っている。
(6) この時点から地下水位の低下が鈍くなっている地点もあり、一様でない。特に、護岸側の測定地点で水位低下が鈍くなっている地点が見受けられる。
(7) もし完全に外部から遮断された空間が成立していれば、揚水により地下水は表面から水平に流れ地下水位は低下していくが、もし外部から水が供給されると、地中に水平及び鉛直方向の水流が起ることになり、揚水の一部は外部からの地下水で供給されることになる。

4. 地下水管理システムに対する問題点

(1) この管理システムで最も問題になるのは外部から完全に遮断された空間が、非常に長期間(50年とか100年といった期間)保てるかどうか、である。
(2) 各空間の平面積は100,000m2 以上、空間の体積は1,000,000m3 にも達する大空間である。
(3) 各街区で、外部と遮断するための遮水壁は2,000個程度の継ぎ手を持っており、その総延長は20,000m以上になる。地中まで完全に充填剤を挿入出来たのかどうか、どのように検査されたのか?
(4) 遮水壁の内、鋼管矢板はスパイラル鋼管に継ぎ手を溶接したものであり、非常に高価で普通矢板の数倍はする遮水壁であるが、鋼管と継ぎ手部の鋼材の特性の違いもあって、遮水壁としては扱いにくいものと考えられる。また、三層構造遮水壁はソイルセメントの中に鋼製の遮水材を挿入していく、と説明されているが、施工方法や施工検査方法など十分説明される必要があると考えられる。
(5) 外部と遮断するためにさらに重要なのは地下に存在する不透水層である。広大な面積(各街区 100,000m2 以上)に全く切れ目なく存在するかどうか、どの様な調査をされて遮水壁の深さを決められたのか?
(6) A.P.+2.0m付近に設置された砕石層、もし排水層として設置されたのであれば、将来間隙が詰まらない対策として、有孔ヒューム管を挿入する必要があると考えるが、どの様な対策を立てられたのか?
(7) 液状化対策として締め固め杭が施工されているが、各街区の中に施工されたのかどうか? もし施工されたのであれば、締め固め砂杭は鉛直方向の透水係数を確実に増加させるので砂杭の先端深さと不透水層の関係等を明確にする必要がある。
(8) 以上の様に、非常に重要な空間で、且つ施工が難しい工事と考えられるが、施工を担当された業者の方々は長期にわたって完全に遮断された空間をギャランティされたのか?

5. 今後考えられる原因究明に必要な調査

(1) 1月14日に開かれた専門家会議では、地下水の検査結果に疑問を抱かれ、地下水採取孔の増加や地下水の再検査などの緊急対策が提案されました。
(2) 以上の対策の他に、地下水管理システムを維持するために最も重要な事項―外部から遮断された空間形成の条件の再検査が必要と考える。
(3) 先ず、地盤の連続した不透水層の存在の確認。各街区の平面積は非常に大きく、100,000m2 を超えている。遮水壁近くだけでなく、建家の中央部の地盤調査結果を検討され、連続した不透水層の確認が必要。
(4) 建家は杭基礎で杭の先端は下部の強固な支持層まで届いている。これら数多くの杭は不透水層を抜いていると考えられるので、建築工事の施工記録を調査する。
(5) 地盤改良工事で多くの砂杭やコンクリート杭が使用されているが全ての杭について施工記録の再検査をする。
(6) 各街区内には数多くの地盤調査ボーリング孔、地下水モニタリング孔、地下水管理システム観測井戸、揚水井戸等々、全てについて深度について再調査する。
(7) 遮水壁の施工結果の再検査。各壁の先端の深度と地盤の不透水層の関係、継ぎ手部の充填材の施工記録、三層構造遮水壁の継ぎ手部の施工記録など。
(8) 残念ながら汚染地下水のモニタリング結果が想定外であったので、遮断された空間の外からの地下水の供給の有無を調べるため、着色材を使った調査が可能かどうか検討する。

6. 地下水管理システムに頼らない汚染土対策

(1) 種々の調査の結果、もし外部から遮断された空間の形成に問題が発見された場合には、地下水の移動を起こさせる作業は中止する。すなわち、地下水管理システムの揚水を休止し、出来るだけ地下水の移動を起こさせない。
(2) 最初に専門家会議で考えられた対策案、すなわち図-1に示されたように上部の4.5mは盛土か完全に処理された土で覆い、この下の層も可能な限り土壌処理基準以下の土にする。この案を元に対策案を考える。
(3) 現在の状態から出来るだけ原案に近い改造案として、既に前回のブログで提案したものを図-3に再掲する。この案では、建家の下は設備用の空間が必要なので、2.5m程度の空間を設けそれ以下の空間は良質土と鉄筋コンクリートで埋め戻す。
(4) 専門家会議で、この案について議論して頂き、4.5mをすべて土で覆った原案と同等に、地表面に汚染土や汚染水の影響が及ばないかどうか判断して頂く。
(5) もし、何かを追加すれば合格するのであれば、指摘して頂く。

fig-5
図-3
以上、豊洲の汚染土対策で第三者が意見を申し上げるのは良くないかもしれないが、もし長年の経験がお役に立てばと考えブログに書きました。
汚染土対策としては非常に広範囲で困難な工事について、担当の方々は非常によく研究され、もうあと一歩のところまで来ていると考えております。種々の問題が解決し一日も早く豊洲市場が開場することを願っています。

参考文献)

*1)『豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要』パンフレット,東京都中央卸売市場 新市場整備部,p.14

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/siryo1.pdf

豊洲市場の地下構造が市場として認められる為の改造計画

2016年11月25日、東京都小池知事は豊洲市場の開場を少なくとも1年程度延期する、と表明されました。各方面から種々の意見が寄せられていますが、豊洲市場をより良い条件で開場するために絶好のチャンスと考え、行動を起こすべきではないかと考えます。

そこで、専門委員会で考えられた案からスタートし、現在の状況の問題点を述べ、現状をどのように改良したら専門委員会の案と同等の案になるか、を考えました。

1.専門家委員会で決定された汚染土対策案(図-1参照)

(1) 専門家委員会で決定された案は図-1の通りである。

(2) A.P.+2.0m以下は汚染物質を除去するか、土壌処理基準をクリアーする地盤になる様処理する。

(3) A.P.+4.0m以下A.P.+2.0mまでの土は土壌処理基準以下の処理土で置き換える。

(4) A.P.+4.0mからA.P.+6.5mまでは新たにきれいな良質土で盛土する。

(5) この方法は汚染土対策の一つの有力な方法である「汚染土を地下に閉じ込める」案であると考えている。

fig-1

図-1(*1)

 

2.市場であるので建屋が必要、という条件からを考慮した一般的な対策案(図-2参照)

(1) 豊洲市場は市場であるので建屋が必要である。一般に、この種の大規模な建物では配管スペースが必要であり、地下空間に配管が設置されることが多い。

(2) 普通の建築では、図-2に示された様に、鉄筋コンクリート製の底版を設けて、地下空間を形成している。

(3) 汚染土壌を地下に封じ込める対策として、専門家委員会で決定された汚染土対策案(図-1)と同等の効果があると考えている。

(4) もしこの案で良ければ、旧地盤面(A.P.+4.00m)まで埋め戻された時点で、市場の地下部分を構築し、完成後A.P.+6.5mまで埋め戻すことは普通の方法である。

(5) 盛土がなされていなかったかどうか、という議論は汚染土対策に対しては別に議論されるべき問題で、汚染土対策には関係のない事項である。

fig-2

図-2

 

3.既に建設された市場建屋の地下構造と汚染土対策(図-3参照)

(1) 既に建設された市場建屋の地下構造と汚染土対策は図-3に示されている。

(2) 地下の基礎底面は砕石層上面のA.P.+2.00mまで下げられ、汚染土のモニタリングスペースとして、地下底版は設けられていない。

(3) 地下水位と水質は地下水管理システムによって管理されることになっていた。

(4) 必要に応じて揚水ポンプが稼働し、常時の地下水位は管理水位(A.P.+2.00m)より0.2m低い地下水位を保ち、大雨や集中豪雨時の雨水貯留機能を備えている方法と考えられていた。

(5) しかし、このシステムの前提条件には非常に大きな問題点がある。

(6) この前提条件は、敷地の周辺は遮水壁で、底辺は不透水層でクローズされた空間を形成しなければならないことである。これは次節4.(2)のクローズ空間で述べる様に非常に困難であると考える。

fig-3

図-3(*2)

 

4.東京都豊洲市場技術委員会で議論され決定された地下水管理システム(図-4参照)

(1) 東京都豊洲市場技術委員会で議論され決定された地下水管理システムの内、周辺遮水壁と地下の不透水層は図-4に示されている。

(2) 用いられた遮水壁は鋼管杭遮水壁と三層構造遮水壁であり、これら遮水壁は下部の不透水層まで打ちこまれて、クローズされた空間を形成することになっている。

(3) この不透水空間には次の様な疑問点がある。

  • 鋼管杭遮水壁は何れの街区(5、6、及び7街区)も延長が1,000mで、遮水壁の構造は継ぎ手付きの直径80cmの鋼管杭であり、各街区で約1,000本が下部の不透水層まで打設されている。このことは各街区1,000個の継ぎ手があり、各継ぎ手の総延長は少なくとも10,000m以上と推定される。また、継ぎ手には充填剤が流し込まれて、遮水性が確保されることになっている。
  • このことは、相当延長が長い継ぎ手部の全ての箇所で完全な施工がなされていることを前提としているが、地中へ打ち込む工事で、総延長完全な遮水性を確保した工事は不可能であり、また、施工の精度を検査する方法もないと考える。
  • 更に、遮水壁に鋼管矢板が使われていることにも少々疑問が残る。一般に鋼管矢板は非常に深い掘削時に使われる剛性の大きな鋼材であるが、ほとんど力のかからない遮水壁に利用するのが良いのかどうか問題である。鋼管矢板は一般の矢板に比べ非常に高価であるばかりでなく、施工が難しいと考える。
  • 海岸線に沿って設置された三層構造遮水壁は、現場の土とセメントを混ぜ合わせてソイルセメントと呼ばれる強化された土壌を深さ方向に造成し、この中心に鋼製の遮水材を挿入して、「ソイルセメント、遮水材、ソイルセメント」の三層構造の遮水壁を設置し、遮水性が確保されることになっている。遮水壁の延長は5街区400m、6街区と7街区は共に600mである。しかし、この遮水壁にも、種々の問題点がある。
  • まず、ソイルセメントは施工の性質上、均質で同じ厚みを持つ土壌を深さ方向全てに造成するは不可能である。また、この遮水壁の中心に挿入される鋼材は、鋼管矢板と同様に継ぎ手が必要で、その間隔は50cm程度であると考えられる。従って、延長も相当長くなると考えられ、完全不透水の遮水壁を建設することはほとんど不可能と考える。
  • さらに下部の地盤の不透水層であるが、都の説明図では水平な地盤となっている。しかし、豊洲市場の地盤は均質で水平な地層ではなく、不透水層の深さも変化している。また、不透水層までの地盤も種々変化している。
  • 以上の様な条件を考慮すると、クローズされた完全に遮水性の空間を形成することは非常に困難であると考える。

fig-4

図-4(*3)

 

5.豊洲市場の地下構造が市場として認められるための改造方法の提案(図-5参照)

(1) 現在の豊洲市場の建屋礎の底面はA.P.+2.0mに敷設された砕石層上に設置され、地下水が溜まっている状態で、汚染水や汚染された気体が検出されている。

(2) この事実は、揚水ポンプで常時維持する水位をA.P.+1.8m以下に維持するという計画が破綻していることを意味しており、この原因は前述したように、鋼管矢板遮水壁と三層構造遮水壁及び地下の不透水層による完全にクローズされた不透水空間が実現出来ていないことになる。

(3) このクローズされた空間は非常に大きく、将来においても完全不透水空間を形成することは困難であると判断できる。

(4) そこで、現在の地下構造が土壌汚染に対して十分な対策となるよう改造する計画を立てた。その内容は図-5に示されている。

(5) 立案の基本は、土壌汚染対策に対して有力な方法に一つであり、豊洲市場の専門委員会でも考えられた、「汚染土壌を地下に封じ込める」方法である。

(6) すなわち、現状の砕石層の上に良く締め固められた良質土(ソイルセメント、貧配合のコンクリートやアスファルトコンクリート等)を用いて旧地盤のA.P.+4.0mまで盛土する。その上に30cm程度の鉄筋コンクリート版を打設し、既設の地下の壁と共に密閉された地下空間を形成する。

(7) なお、この盛土部分や底版の鉄筋コンクリートの荷重が現在の建屋構造に影響しない埋め立て方法が存在するので、現在の建屋構造への補強は不必要である。

(8) もし何処かのモニタリングポストで基準以上の汚染度が検出された場合は、前に工場のあった東京ガスの操業過程を考慮し、当初予定されたものと同じ様な構造で、小規模な不透水空間を建設し、内部の水位を20cm程度下げて汚染度を内部に閉じ込める。不透水空間の大きさが限定されるので、不透水空間が形成されやすくまた、内部の水位が20cm低いので、応力は常に外側からかかり、内部から汚染水が漏れることはない。

fig-5

図-5

 

以上が当方の考えた対策である。種々のお考えをお聞かせいただければ幸いである。

対策工事が出来るだけ早く実施され、一日も早く豊洲市場が開場されることを望みます。

 

参考文献)

*1)『豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議報告書』平成20年7月,豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議,p.9-7

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/houkokusho/houkokusho_09.pdf

*2)『地下水管理システムに関する説明資料』(第18回 豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議 資料3)における『②「地下水管理システム」の概要』,

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/18-3.pdf

*3)『豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要』パンフレット,東京都中央卸売市場 新市場整備部,p.6

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/siryo1.pdf