埼玉県八潮市の道路陥没事故について

■はしがき

2025年1月28日午前10時頃、埼玉県八潮市中央一丁目交差点内で道路が陥没し、走行中のトラックが転落する事故が発生しました。この事故では、運転手の方が車内に閉じ込められ、いまだ救出されておらず、心を痛めるばかりです。一日も早い救出を願っています。
報道によると、今回の陥没は「中川流域下水道の下水管の破損が原因」とされています。私は、八潮市の下水道流下方式が分流式であることを知り、この原因について疑問を抱きました。通常、下水管のひび割れ程度では、これほど大量の土砂が流出するとは考えにくいからです。
国土交通省は2月14日に緊急点検の結果を公表しました。その結果によると、約420kmの下水道管路と約1,700か所のマンホールを調査したところ、3か所で管路の腐食などの異常が確認されました。これらの箇所については、速やかに対策を実施するよう要請されています。一方、路面下の空洞調査(約320km)では、下水道管路に起因する空洞の可能性は確認されなかったと報告されています。

■事故発生当初から考えていたこと

私は事故発生直後から、以下の点について考えていました。

1.救助方法について
砂地盤で陥没部分の周囲が鉛直になっていたため、崩壊しやすく、通常の方法での接近は困難だと考えました。したがって、斜路を作る必要があると感じました。

2.原因究明の必要性
事故の本当の原因を解明するためには、まず空洞ができたメカニズムを明らかにする必要があります。しかし、事故が発生すると、「下水管の老朽化が原因である」といった一般論に話が流れがちです。そのため、事故の原因究明に必要な具体的な資料が十分に報告されていないと感じました。

このような議論の流れに対して、私は「なぜこの場所で、この規模の陥没が発生したのか」を、設計・施工・地盤の観点から冷静に分析することが最も重要だと考えています。

■陥没の原因を考察するためのポイント

1.周辺環境や地盤条件の整理
直径10m、深さ5mにも及ぶ陥没は、土砂の流出によって発生したものです。したがって、地下水の流れや水の移動状況を調べることが重要です。水は最も流れやすい方向に移動するため、水の通り道(水道・みずみち)を特定する必要があります。そのためには、道路の地盤状況や地下埋設施設の相互関係を詳細に調査することが求められます。
特に気になるのは、過去に廃止された農業用水路の影響です。廃止時にどのような処置が施されたのかを調査することが不可欠です。

2.下水道管の寿命と実態
一般的に、下水道管の寿命は50年程度と言われます。そのため、今回の事故も老朽化が原因であるとの見方が広まっています。しかし、50年というのはあくまで一般的なコンクリートの耐用年数であり、現場ごとの実態を検証する必要があります。
1975年以降、日本は高度経済成長期を迎え、品質の良い下水道管が製造・敷設されました。しかし、それらの下水管が系統的に50年経過した状態を詳細に検査した例は少なく、現状を把握することが先決です。
また、下水管は地下に埋設されており、地上に比べて温度や湿度の変化が少なく、また地中の構造物は地震の影響を受けにくいとされていますので、比較的安定した環境にあるといえます。さらに、円形の管は円周方向に圧縮力(フープコンプレッション)が働き、四辺形の管も各辺に均等に力がかかるため、ひび割れやクラックが発生しにくい構造になっています。
もちろん、下水管内では硫化水素(H₂S)が発生し、これが空気に触れることで硫酸(H₂SO₄)に変化し、コンクリートを腐食させる可能性があります。しかし、この要因を考慮しても、下水道管の寿命は一般的に考えられているよりも長い可能性があります。
短期的な強度や最終強度を考慮すると、現在の下水管が寿命を迎えるのは、20~30年先、あるいは50年後という可能性もあります。現状をしっかりと調査し、科学的な根拠に基づいた結論を出すことが重要です。

3.まとめ
今回の事故は、単なる下水管の老朽化問題として片付けるのではなく、「なぜこの場所でこの規模の陥没が発生したのか」を多角的な視点から検証する必要があります。設計・施工・地盤環境の観点から慎重に分析し、適切な対策を講じることが求められます。今後も、事故原因の徹底的な解明を期待するとともに、類似の事故を防ぐための取り組みが進むことを願います。

今回の原稿をまとめるにあたり、生成AIの助けを借りて、下水道についていろいろと調べました。この内容を参考に原稿を作成しましたので、最後にこれらを掲載しておきます。参考にして頂ければ幸です。

■わたしたちの暮らしを支える下水道

1.下水道ってどんなもの?
わたしたちが毎日使うトイレや台所、お風呂の水は、そのままでは環境に悪影響を及ぼしてしまいます。そこで活躍するのが下水道です。下水道は、生活排水をきれいに処理し、自然に戻すための重要なインフラです。

(1)下水道の流れ方
下水道には、大きく分けて 「分流式」 と 「合流式」 があります。
•分流式:雨水と汚水を別々の管で流す方式(現在の主流)
•合流式:雨水と汚水を同じ管で流す方式(古い市街地などに多い)
現在の日本では、新しく整備される下水道の多くが分流式になっています。

(1-1)分流式下水道
【概要】
汚水(家庭・工場などの排水)と雨水(降雨による水)を別々の管で流す方式。
【メリット】
•雨水が下水処理場に流れ込まないため、処理場の負担が減る。
•雨水はそのまま川や海に放流できるため、処理コストが低い。
•大雨時でも下水があふれにくい(浸水リスクが低い)。
【デメリット】
•下水管を2系統(汚水管・雨水管)整備するため、建設コストが高くなる。
•既存の都市では改修が難しい(特に道路下に埋設する場合)。

(1-2)合流式下水道
【概要】
汚水と雨水を同じ管に流す方式。
【メリット】
•管を1つにまとめるため、建設コストが抑えられる。
•既存の都市で整備しやすい(古い街では多く採用されている)。
【デメリット】
•大雨時に処理しきれない水が未処理のまま河川や海に放流されることがある(環境負荷が高い)。
•大雨による下水道の溢れ(都市型洪水)のリスクがある。
•下水処理場の負担が大きい(雨水も処理対象になる)。

(2)採用割合と主な地域
現在、日本の下水道は 分流式が主流 です。
ただし、古くから発展した都市部では 合流式も一定数存在 します。
•分流式の採用割合: 約80~90%
•合流式の採用割合: 約10~20%

(2-1)合流式が多い地域(主に古い都市部)
•東京23区の一部
•大阪市の中心部
•横浜市の一部
•神戸市の一部 など

(2-2)分流式が多い地域(新しく整備された地域)
•地方都市のほとんど
•新興住宅地
•戦後に発展した都市部の郊外

特に、環境問題や水質保全の観点から、現在は 合流式を分流式に転換する改修が進められています。

2.下水道の形と素材
下水道の管には、さまざまな形や素材がありますが、最も一般的なのは 円形のコンクリート管 です。円形は、外からの圧力に強く、水の流れもスムーズになるため、広く採用されています。
また、大きな水路や地下放水路では 四角形(ボックスカルバート) の構造も見られます。

3.下水管の製造・敷設方法とその歴史
(1)下水管の役割と種類
下水管は、生活排水や雨水を安全に運ぶための重要なインフラです。主に使用される下水管には、ヒューム管(鉄筋コンクリート管)、推進管、PRC管(プレストレスト鉄筋コンクリート管)などがあります。

(2)下水管の製造方法
(2-1)ヒューム管
・鉄筋を型枠内に配置し、コンクリートを流し込み、遠心力を利用して高密度の管を製造します。
・強度が高く、耐久性に優れています。
(2-2)PRC管(プレストレスコンクリート管)
・円周方向にプレストレスを導入し、内部圧力に強い構造。
・主に大口径の下水道や高圧水道管に使用されます。

(3)下水管の敷設方法
•開削工法:道路を掘削し、管を敷設後に埋め戻す方法。比較的施工が容易。
•推進工法:地面を掘削せず、地下で管を押し進める工法。都市部や交通量の多い場所で有効。

(4)日本の下水道の歴史と普及
•戦前:下水道の整備は限定的で、一部の都市でしか利用されていませんでした。
•1950年代~70年代:戦後復興期に入り、都市部を中心に下水道の整備が本格化。
•1970年代以降:高度経済成長に伴い、全国的に普及が進む。
•現在:2021年時点での下水道処理人口普及率は約79%、浄化槽を含めると約92.6%に達しています。

4.下水道内の有毒ガスと耐用年数への影響
(1)下水道で発生する有毒ガスとは?
下水道内は 酸素が少なく、微生物が有機物を分解することで いくつかのガスが発生します。主に次のようなものがあります。

表1

この中でも 硫化水素(H₂S) は 下水管の劣化を引き起こす最大の原因 です。

(2)硫化水素(H₂S)による下水管の劣化メカニズム
硫化水素は 酸素の少ない環境で硫酸還元菌によって発生 し、空気に触れると酸化して 硫酸(H₂SO₄) になります。この硫酸が コンクリートを溶かし、鉄を腐食させる ため、下水管の寿命を縮める原因となります。

【劣化のプロセス】
①汚水中の有機物が微生物によって分解され、硫化水素(H₂S)が発生
②ガスが下水管の内壁に付着し、空気と反応して硫酸(H₂SO₄)に変化
③コンクリートや鉄が酸で腐食され、下水管がもろくなる
④最悪の場合、穴が開いたり崩壊したりする

(3)硫化水素による寿命の短縮
通常、コンクリート製の下水管の寿命は 50~60年 ですが、硫化水素の影響が強いと 30~40年で著しく劣化することも あります。
一方、 塩化ビニル管(PVC管)やポリエチレン管(PE管) は硫化水素の影響を受けにくいため、劣化の心配が少なくなります。

(4)劣化を防ぐ対策
硫化水素による腐食を防ぐため、以下の対策が取られています。
(4-1)ライニング工法(内面コーティング)
・下水管の内側に 樹脂や炭素繊維の保護層を追加 し、硫酸による腐食を防ぐ
・近年は ポリエチレンライニング や 炭素繊維シート補強 も増加
(4-2)通気・換気設備の設置
・硫化水素が溜まらないように 下水道管内の換気を強化
・ポンプ場やマンホールに 脱臭装置を設置 し、ガスの影響を減らす
(4-3)化学薬品の添加
・硝酸塩や鉄塩を投入 し、硫化水素の発生を抑制
(4-4)定期的な清掃と点検
・高圧洗浄やロボット点検 により、堆積物の除去と腐食チェックを実施

(5)まとめ
・下水道内では硫化水素(H₂S)が発生し、管の劣化を加速させる
・定期的な点検と腐食対策が重要

5.下水道のメンテナンス
下水道が長持ちするためには、定期的な清掃や補修が欠かせません。現在、下水道のメンテナンスには以下のような方法が使われています。
(1)高圧洗浄
強い水流を使って管内の汚れを洗い流す方法。

(2)ロボットによる点検
人が入れない細い管でも、ロボットを使って映像を撮影し、内部の状態を確認することができます。

(3)ライニング工法
腐食が進んだ下水道管の内側に、新しい素材を貼り付けて補強する方法。

6.これからの下水道
(1)現在、日本の下水道は老朽化が進んでおり、耐震化や維持管理の技術が求められています。新たな材料や工法の導入により、安全で持続可能なインフラを維持することが課題となっています。

(2)現在に下水管は、古いものでは敷設後40~50年経過している。よく耐用年数が50年程度と言われているが、実際の現場における下水管の状況はこれから観察されるものであり、機会があるごとに実際の状況をよく観察し、実際の耐用年数の決定に役立てることが重要である。

■まとめ

今から約50年前、新しい空間の利用として、地下空間の利用が非常に活発となりました。筆者も地下鉄、地下通路、地下街、地下駐車場、新しい開発地の上下水道、ガス管の測量設計など、数多くの地下空間の開発に関係してきました。

(1)地下空間が系統的に整然と開発されてきたか、と言うと、どちらかというと系統的ではなく、早いもの勝ちの感があり、一つの系統の元に整理されたとはいえないと考えています。これからは、国土強靱化の観点から、一つの系統の元に整理され、今回のような地下空間の事故に対しては、各企業体が関係する地下埋設管の相互関係など,データが整備されることが重要です。

(2)日本の道路や河川のうな重要なインフラに対して、あまりにも地盤調査結果が不足しているように思います。今回のような事故の他に、地震時や降雨による災害時に地盤の基本的な情報なしに、対策を立てることはできません。系統的に地盤の情報が整理され、災害時に速やかに地盤情報が提供されるシステムが必要です。

(3)私たちの実務家が必要な地盤調査は、地盤専門の研究者が必要とされる難しい調査は必要ではありません。地盤調査の最も基本となる「標準貫入試験結果のN値の測定を伴う調査」で十分です。この調査なら、日本のどの調査会社でも実施可能であり、比較的安価な調査です。この調査から得られる結果から、強度や液状化の有無、概略の沈下の検討も可能です。

(4)地下空間は相当安定した空間です。温度や湿度の変化も少なく、地震に対しても安定した空間です。また埋設管に有利な圧縮応力も働いています。この空間に埋設された上下水道管は長期にわたって、非常に安定した空間に存在していたといえます。従って地下埋設管の寿命が問題となるとき、埋設されている環境も重要ですから、この点を十分考慮する必要があります。

(5)埋設管の寿命と言われている埋設後50年が始まる時期になりました。実際の埋設管の現状を機会あるごとに調べ、その結果が「埋設管の経過時間と挙動」に関する貴重なデータとして蓄積され、埋設管の整備に生かされることを願っています。

水の力 - その優しさと脅威

水は、私たちの身近にある当たり前の存在です。手ですくえば形を変え、喉を潤し、命を育みます。しかし、一度動き出すと、想像を超える力を発揮することをご存じでしょうか。普段は穏やかな水も、状況によっては私たちの生活を脅かす脅威となるのです。
例えば、水の重さは1立方メートルあたり1トンにもなります。これは70kgの大人が1メートル四方に15人乗るのと同じ重さです。普段は意識しませんが、水は横方向にも同じ荷重が架かっています。しかし、水には「浮力」という性質もあります。水の中では、物体は押し上げられる力を受け、実際の重さよりも軽く感じます。例えば、体の一部が水に浸かると、人の体重は水によって支えられ、陸上よりも動きやすくなります。そのため、流れのない静かな水の中では、私たちは比較的安全に感じるのです。
この様に、水は静止しているときは安全なものですが、水が一旦動き出しますとなかなか危険なものに代わり、水の重さと流れの力は、人の動きを容易に封じてしまいます。私は昔、川を遡行していく山登りをしたことがありますが、膝までの深さならなんとか川を渡ることができましたが、腰まで水に浸かると、流れに逆らうことが難しくなりました。流れが速ければ、わずか数十センチの水深でも人を押し流すほどの力を持つのです。
最近よく話題になります津波は、水の流れの最も危険なものだと思います。津波はどの様な状態か、間違っているかもしれませんが、私なりに、例えばプールの水は静止していていると時、不安は感じませんが、もしプールの壁が瞬間的になくなると、今まで水平力を支えていた壁がなくなり、この力が流れる力に変わって襲ってくることになりますので、大変な破壊力になります。この水の高さが10mを超えることを考えますと、想像を絶する破壊力です。
また、水には目に見えない「膜」のような力が存在します。それが表面張力です。蓮の葉の上にできる水滴が美しく丸まるのも、アメンボが水面を歩けるのも、てんとう虫が小さなくぼみを気にせず進めるのも、この力のおかげです。水は分子同士が強く引き合い、表面をできるだけ縮めようとします。そのため、簡単には広がらず、土の隙間にも入りにくくなります。
しかし、一度水が土にしみ込むと、今度は別の力が働きます。それが「毛細管現象」です。これは水が土の細かな隙間を伝い、上や横に移動する現象です。植物が地下から水を吸い上げ、成長していくのは、この現象のお陰です。
このように、水は多様な性質を持ち、状況によってその振る舞いを変えます。時には土を潤し、時には浸透を拒み、そして時には圧倒的な力をもって街を襲います。高潮や津波は、普段は穏やかな海が突如として牙をむいた姿です。その破壊力は、流れるスピードと質量の積(かけ算)によって生み出され、想像を超える力を発揮します。
従って、私たちは水の性質を知り、理解することで、その力を利用し、また災害から身を守ることができます。水は優しくもあり、恐ろしくもあります。その性質を正しく知ることが、私たちが自然と調和し、安全に暮らすための第一歩だと思っています。

水の基本的なことは、このブログでも述べていきたいと思っていますが、今日は最近認可されました、島根原子力発電所の防波堤のうち、1,2号炉北側に設置された多重鋼管杭防潮壁について考えていきたいと思います。

島根原子力発電所2号炉津波による損傷防止の審査会合では、『審査会合における指摘事項に対する回答【No.3】』の中で防波堤の設計方針が説明されている。

【No.3(論点3)防波壁の構造についての設計方針および構造成立性】の中でコメント回答として議論されたもので、その内容は次の通り。

防波堤(多重鋼管杭式擁壁)

施設護岸前出し部(③―③断面)については、1,2号炉北側施設の敷地に制約があるため、施設護岸の北側(海側)に防波堤(多重鋼管杭式擁壁)が配置されている構造となっている。
基礎を支持する岩盤の深さは最深約EL-14.5mである。鋼管杭による杭基礎構造を選定し、「港湾の施設の技術上の基準・同解説、平成19年7月」の自立矢板式護岸に準拠し設計することにした。上部工から伝達される荷重に耐えられる構造とするため、大口径の鋼管杭を多重化した。

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以上が、防波壁の説明の一部であります。

防波壁の設計および施工に関する事項

私は原子力発電所の建設に関する経験がなく、専門外の立場ですが、一技術者として学ばせていただきたく、ご教示いただければ幸いです。防波壁に関して、以下の点についてお尋ねしたいと考えております。

1. 防波壁にかかる荷重について

防波壁の両面には、水圧や土圧などのさまざまな荷重が作用すると思われますが、設計時にはどのような条件を想定し、それらの荷重をどのように評価されているのでしょうか。
EL+8.5m以下の陸側の土圧は、鋼管の剛性が大きいので、受動土圧にはならず、主働土圧に近い値ではないかと考えられます。従って、陸側の水平力はEL+8.5mから主働土圧と地下水位(EL±0.0m?)から作用する水圧と考えられます。

2. 防水対策および多重鋼管杭の根固め施工方法について

通常は、この様な大きな水圧に対して、防水材が使用されることが多いと思いますが、地震国において薬剤によるグラウトのみで十分な止水性能を確保できるのでしょうか。耐久性や施工後の止水効果について、どのように検証されているのかお聞かせください。
また、多重鋼管杭の根固め施工に関して、具体的にどのような方法が採用されているのか、併せて教えていただければと思います。
地中深くで、作業をすることになりますので、考えていた通り施工されているかどうかは、検査項目と基準となる目標を定め、どの様に検査し、確認するか、は必須の条件だと思います。

3. グラウト材の注入で強大な水圧を止水できるかどうかについて

施工方法や使用材料を踏まえた上で、防波壁が強大な水圧に対して、十分に止水性能を発揮できるのか、どのように検証されているのでしょうか。
スリットの幅が30cm、長さが10m以上で相当な数が存在し、10ton/m2程度の大きな水圧をうけます。地震時に一箇所でもクラックが生じますと、水は最も流れやすい方向に流れる性質を持っていますから、水漏れの危険性も考えられます。しっかりとした止水材がなく、どの様に確実性を証明されるか心配です。

4. 鋼管杭の設計基準および埋め込み長さについて

「港湾の施設の技術上の基準・同解説」に準拠し、自立矢板式護岸として設計されているとのことですが、直径2.2mの鋼管杭に対し、埋め込み長さが約5.0mで十分と判断された理由について教えていただけますでしょうか。もし不十分であれば、杭先端に強大な跳ね返しの水平力が働きます。この水平力は岩の剪断応力で対抗しなければなりませんが、岩の強度との関係は如何でしょうか? 岩は水平方向の強度を調べなければなりません。一般的に、岩の様な物質は一旦破壊すると強度がかなり減少しますから、施工後、セメントミルクで補強された現場での岩の強度をどの様に決められたか、疑問に思っています。

技術審査が既に終わって、稼働していることですから、上記の点について、解決済みとは思いますが、その内容について、技術的な観点から最終の結果を教えて頂ければ幸です。

誰も知らない地盤の不思議な現象 ― 地盤災害減少のため、少し地盤のことを知っておこう。

はしがき

日本は、もともと気候学的には、亜熱帯気候帯に属しています。しかし地球温暖化につれて、熱帯地域になったのではないかと思われるような現象がよく見られます。夏の台風期には、今まで経験したことのないような降雨が長期間続き、雨量も急激に増大してきています。このため降雨による地盤災害が増加しています。
この様な地盤被害に対してどのように報道されているでしょうか?雨脚が強くなって長時間降り続くと、「降雨のため地盤が緩んでいます。地盤災害に気をつけて下さい。」と報道されます。一般の住民は「どのような危険性が迫ってきているのか?」理解できる方はいらっしゃるでしょうか? あまり何回もこの報道をききますので、住民は「オオカミ少年の叫びを聞くようなもので、あまり気にしなくなっているのではないでしょうか?
地盤災害の原因は非常に複雑な要因が重なって発生するものと考えていますが、この様な複雑な現象をどのように住民に伝え、できるだけ理解して頂き、災害時に協力して頂くかを日頃から研究し、対処方法を考えておくことは非常に重要だと思っています。
一方、日本は世界でも有数の地震国です。最近、日本の近海で巨大な地震が発生し、その都度大きな震災が起こっています。地震動による被害と共に、液状化など地盤に起因する災害も数多く起こっています。
地震時の報道、特に最近話題になっている津波が発生したときの報道では、先ず、非常に大きい津波の高さが報道されます。そして「津波が発生しました。すぐ高台に逃げて下さい。津波は何回も繰り返します。津波警報が解除されるまで、高台に留まって下さい。」この報道は正しく間違っていないと思いますが、津波の到達時刻は発生源との距離によって決まるものですから、能登地震のように非常に近いところで発生した場合は、逃げる時間的余裕は全くありません。また、実際起こった津波高さは、1/10程度のことがよくあります。報道される津波高さは、津波の性格上最大の高さが報道されているのだろうと理解していても、これほど差の大きい報道がなされますと、あまり報道を信じなくなってしまいます。

地震の予測は、専門家でありませんのでよく分かりませんが、現実的には不可能なように思っています。従って、地震時の災害については、事前に地震発生時の現象がどの程度予測できるかは重要です。
例えば、液状化による被害ですが、最近起こった能登半島沖の地震でも液状化の被害が報告されています。液状化の予測は比較的簡単な情報で、液状化が起こるかどうかの判定ができます。もし液状化の危険性のある地盤上に構造物が建っていない場合は比較的簡単に液状化を防止する工法があります。一方、液状化の危険性がある地盤に既に建物が建っている場合は、対処方が難しく、ケースバイケース(Case by case)で、対策を考え対処しなければなりません
この様に、地震予知が非常に難しいことから、地震が起こったときどのよう現象が起こるのかを考えて、これに対し、具体的にどのように対処するかを考えておくことが重要であります。しかし、道路や河川等日本の重要なインフラには、検討を可能にする地盤や周辺の地形などの情報が不足しているように考えております。日本国土強靱化のためにも、これらのデータの収集が大変重要です。
データの収集では、例えば地盤調査では、地盤の研究用の難しい地盤調査などは必要ありません。土質調査の中で最も一般的で、日本のどの地盤調査会社でも実施できる、「標準貫入試験のN値の測定を伴うボーリング調査」で、必要なデータがえられます。また、周辺の地形のデータは、国土地理院発行の地形図の収集で、必要なデータが得られると考えています。

筆者は、地盤を専門とする学者でも研究者ではありません。従って地盤問題の時によく使われる、弾塑性的な挙動をするため、地盤にかかる荷重とそれに従って起こる変形の関係を複雑な構成式によって表す。このために必要な非常に難しい土質試験(この種の試験は一般の建設工事ではほとんど使われないものですが)と必要な地盤係数の決定等の作業などは全くできません。しかしある程度の地盤工学に関する基礎知識と技術は習得しました。この程度の知識ですが、今まで数多くの土質試験や構造物の設計と施工監理を行ってきた技術者として、台風時や地震時の地盤に安全性について、筆者の経験に基づいて何か提案できないか、と考えて、書物にまとめたいと思っています。しかし、まとめて出版するためには少し時間もかかりますので、ブログから書き始めることにしました。

筆者は一年ほど前に「誰も知らない日建設計土木―その歴史とある土木技術者の奮闘」という回顧録を上梓しました。技術書ではなく一般書として纏めたつもりでしたが、拙書を読んでいただいた方から、いくつかの項目について、「1~2行で良いから説明を加えてくれたら、より理解できたのに!」と言うご意見をいただきました。自分では誰でも知っておられるだろう、と考えていたことが実際は分かりにくかったようです。
そこで、この書では、簡単な用語で、できるだけ説明を加え、読者の方々がよりよく理解していただけるよう、務めることにしました。

本書に含めようと考えている項目

筆者が思いつくままに、まとめようと思っています項目を列挙しますと、次の様なものですが、これらを全てまとめるには少し時間がかかると思っています。一方、最近、水や地盤に関する災害は度々起こっていますので、問題となる災害が報道された時、その都度ブログに投稿していきたいと考えております。

① 水の基本的な性質
② 地盤の起源や地盤の成り立ちと地盤災害に対する強靱性
③ 地盤調査と土質試験
④ 地盤の強さー土の強度判定の難しさ
⑤ 地盤の沈下―沈下の様相と推定方法
⑥ 基礎の形式と設計方法
⑦ 地盤の造成―地盤の伏流水の処理方法
⑧ 地盤災害―自然現象による災害(気候による災害と地震災害)
⑨ 地震時の地盤
⑩ 地盤の経年変化による災害
⑪ 地盤の変形と基礎に及ぼす影響
⑫ 地下鉄や地下街の設計と施工監理
⑬ タンク基礎の設計
⑭ 鉄鋼施設の基礎-原料搬入施設、全ての鉄鋼製品生産施設、製品搬出施設まで
⑮ 海外の鉄鋼施設や石油やガス生産設備基礎の建設と設計施工監理
⑯ 関西国際空港の沈下問題を含む地盤の変形に起因する問題点
⑰ 過去に起こった水と地盤に起因する災害に対する見解
⑱ 原子力発電所の事故、鹿児島、熱海、広島、横浜、松山城等の地盤災害に対する見解
⑲ 福岡の地下鉄工事の事故に対する見解
⑳ 豊洲等の汚染地盤の処理方法に関する見解

以上のように、ブログを基本的なことからまとめようと思っています。

ブログの内容は、基本的には、上記の様な事項に時間をかけて取り扱っていきますが、
最近、河川堤防の決壊や地盤災害など、水と地盤に関する災害問題が話題となりますので、」その時には基本を離れて、災害問題に適宜意見を述べていきたいと考えています。

今年最初に取り上げましたものは、笹子トンネルの問題です。もう12年も前のことで解決されたものと考えていましたが、最近の報道で、犠牲者の遺族の方の中にまだ納得されておられないと言う記事を読みました。そこで、笹子トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会の報告書を見てみました。

笹子トンネルの天井板の落下事故

日本を代表する先生方が参加された委員会において、事故原因の把握のために幅広い視点から調査・試験を実施され、落下メカニズムの推定及び事故発生要因の整理、再発防止策、道路構造物の今後の設計、施工、維持管理等のあり方について十分議論されて結論を出されたことですので、問題は全て解決されていると考えますが、長年、変形を考慮した土木の構造物の設計と施工監理に携わってきた者として、2,3疑問に思うところを述べさせていただきたいと思います。
60年以上前、私が技術者生活のスタートしたとき、国や地方自治体の技術者が技術的な指導者、先生で、設計や施工監理のことをいろいろと教えていただきまた。
設計に関しましては、基本設計が最も重要で、最適な設計条件を考えて、現場の状況を十分反映した境界条件で計算すること、また、現場監理に関しましては、施工業者と完全に一線を画して、厳正中立な立場で、施工上に問題点を考え、検査すべき点洗い出し、検査方法を考えて施工監理を行うことが重要であると教えていただきました。
この教えを守り、長年、変形を考慮した土木の構造物の設計と施工監理に携わってきたものとして、笹子トンネルの設計と施工監理に関し、次の様な点について意見を述ベさせていただきます。

笹子トンネルの事故の概要

平成24年12 月2日午前8時03分頃、中央自動車道上り線笹子トンネルの東京側坑口から約 1,150m 付近において、トンネル換気のために設置されている天井板及び隔壁板等が約 140m にわたり落下した。同区間を走行中の車両3台が天井板の下敷きになるなどにより巻き込まれ、うち 2 台から火災が発生し焼損した。平成 24 年 12 月 4 日消防庁調べによると、この事故による人的被害は死者 9人、負傷者 2人であった。

笹子トンネルの構造の概要

事故調査報告書から、基礎の概要は次のとおりです。

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天井板は 6m のCT鋼毎に天井板、隔壁板等を 16本のトンネル天頂部に設置した接着系アンカーボルトと両端の受台で支える設計であった。この天井板の設計も設計要領第三集トンネル(昭和 45 年 日本道路公団)に基づき行われた、とのことでした。
天井板の設計にあたり天頂部のボルトにかかる荷重として、①天井板の自重、②隔壁板の自重、③その他モルタル、CT鋼等の自重、④天井板上における作業員の荷重、⑤送気及び排気により天井板に鉛直にかかる風荷重が考慮された。また。16本のアンカーボルトはCT鋼軸線に対して非対称に配置されていたが、CT鋼にかかる荷重は、CT綱が剛体と考えて、16本の接着系アンカーボルトが均等に分担すると仮定して、設計された、と報告されていました。
笹子トンネルで用いられた接着系アンカーボルトは、コンクリートライナーに予め穿孔した孔に樹脂・硬化剤・骨材からなる接着剤カプセルを装填した上で孔内にボルトを打設することで、ボルトと母材の間を接着剤にて物理的に固着するものとされていました。
以上の構造や施工法で、構造に架かる中央部の荷重の計算では、下記の様に支承が固定として計算されていました。

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(1)ボルトの施工に関する問題点
この問題点の本質は上向きのケミカルアンカーの信頼性の評価ともう一つ重要な点は、全ての荷重をアンカーボルトで支え、その一つが欠けても危険な状態になることです。
すなわち、全てのアンカーボアンカーボルトに完璧な施工が求められることです。
上向きのアンカーボルトを慎重に気を付けて施工しても、充填液の流れ落ちの危険があり、作業員の技量や施工確認の手順などに人為的なミスが介入します。ここで重要なことは、完全に独立した中立の検査機関の必要性です。
報告書を見た限りでは、次に示す詳細な施工記録が欠けているように思います。

① ライニングコンクリートに穿孔されたボルト用の孔の直径や長さ、周囲の状況など、
② ボルト設置の状況で、施工時の樹脂液の様相の説明や現場の写真

私たちのグループでは設備機器の基礎の設計・施工監理を数多く手がけました。特に鉄鋼設備基礎の圧延基礎では、総数20,000本に及ぶものもありますが、すべて直埋ボルトか下向に施工するもので、どうしても必要な場合は埋め金物で処理しました。
また、私たちは非常に多くのタンク基礎の設計の経験がありますが、ほとんどの基礎は
砂杭による地盤改良の基礎です。10万キロリットルのタンク基礎は直径約80mで、締固めた砂杭を1万本近く打設しますが、全て同じ仕様で打設することが要求されます。そのため、打設砂杭の全数を、1mごとに砂の投入量と締固め度を私たちの技術者の監理の下に実施し、検査しました。
この様に、施工監理は非常に重要ですが、笹子トンネルのプロジェクトでは、どの様な設計監理体制が敷かれていたか、十分な説明が必要ではないでしょうか?

(2) 1ブロック6m区間のボルトの配置と接続部を剛結したこと
先ず、大変不思議に思いましたことは、1ブロック6mごとのM16のボルトが非対称に配置されていることでした。そこでこの部分の説明図を新たに作成しました。

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以上の図で、天井板や隔壁板など全ての荷重は下部のCT綱のところに架かり、釣り金具を通してM16ボルトが支持するので、A断面(2本のボルト)、B断面(1本右ボルト、C断面(1本左ボルト)では、支持機構が異なっているように思います。すなわち、CT綱が剛体で16本のボルトに架かる荷重が同じという仮定は成り立たないように思います。
報告書で示された荷重の計算では、下部CT綱が固定支承として計算されていますが、最終的には、釣り金具やCT綱を通じてM16ボルトに荷重が伝達されますので、3次元的な解析で、M16ボルトが受ける荷重を計算されるべきではないでしょうか?

この図の様に全ての荷重は、下部のCT綱に架かり、釣り金具を通して上部CT綱に伝わり、この荷重を、上部CT綱を通じてアンカーボルトが受け持つことになります。この時問題になりますことは、ボルトが2本のところ、1本でCT綱のフランジの左側に接続されたものと右側に接続されたもの、3種類の接続方法が存在します。
一般的に考えて、CT綱は形鋼の中では剛性は小さい方と考えられます。従って、CT綱は剛体で、6m区間のボルトに同じ荷重が架かるという仮定は無理があるように考えますが如何でしょうか?
全ての荷重が下部CT綱に架かり、支点は弾性支承と考えられますから、釣り金具、CT綱およびアンカーボルトを考慮した3次元解析をされたら、ボルトに架かる荷重は、もう少し正確に算定されるのではないでしょうか?

さらに、天井板と下部CT綱がボルトなどで接続されていること、連結板同士が接続されていること等は、元々の設計の方針、天井は単純梁である、また、荷重はCT綱の6mを一つの単位と考える、と言うことと一致しているのでしょうか?

この様な事故で、被害者の方におわかり頂くように説明することは大変難しいことと思いますが、私の素朴な意見も参考にして頂き、被害者の方が十分理解されることを願っています。
以上

松山城周辺で起きた大量の降雨による地盤災害について

皆様

ここしばらくの間、回顧録「誰も知らない日建設計土木―その歴史とある土木技術者の奮闘」を出筆していまして、ブログを休んでいました。しかし、最近異常な降雨による地盤災害が頻発していて、一昨日、四国の松山城周辺で、土石流が発生し、被害が出ました。お亡くなりになった方々に心から哀悼の意を表します。
そこで、ネット上得られる情報や今まで経験したことをもとに、「急斜面の降雨による地盤災害」について、述べます。

2024年7月12日、松山で大量の降雨による地盤災害が起きました。今まで想定されてきた何倍もの雨が降るわけですから、仕方がないと言えばその通りです。しかし、この様な豪雨、これからも毎年、何回も起こると考えられますから、現状の把握と何らかの対策が必要と思います。筆者は今までの経験を踏まえ、考えられる原因と対策について、述べることにしました。
現場も見ていませんし、いろいろな情報と今までの経験からの意見ですので、間違っているところもあるかと思います。ご意見を賜れば幸です。

現状

報道されたニュースや報道等から、谷筋を辷った土石流であると判断できましたので、この谷筋の流域を調べようと、国土地理院の地図やGoogle Map から情報を得ました。
図-1は国土地理院の地図ですが、谷筋は松山城の西斜面の上部に始まり、被害を受けた住宅やマンションに向かっています。
この谷の流域を調べるため、上記の地図やGoogle Map(空中写真ですので木の影響などが入っています)などから、谷の左右の尾根筋を推定し、このMapの上に落としもみました。
図-2はこの流域の平面図および谷筋と尾根筋の概略の断面が示されています。
図-3はこの様相を立体的に、図-4は被害地付近を少し詳細に見たものです。
谷の流域は上部で約200m、中流で150mと推定され、この流域に200mmを超える雨が降ったわけですから、ものすごい水量が流れ込んだと考えられます。

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筆者が考えます土石流の原因

筆者はかなり前になりますが、九州、鹿児島の城山周辺で起こった集中降雨による土砂災害の原因を、当時名古屋大学教授で地盤工学が専門、後に土木学会会長もされた先生と鹿児島大学でシラス(特殊な地盤名)を研究されていた先生と一緒に、相当詳しい調査を行いました。これから得た知見も含め、原因と対策を考えました。
先ず2つのことが見受けられます。辷った後写真から山を形成している地盤は風化岩と考えられる。またこの谷筋から尾根にかけて、樹木がかなり大きく成長しているが根は下部の風化岩の層には入っていない。
先ず、現場の写真から、樹木が大きく育っているので、相当深くまで樹木の根が入り込んでいる、と考えるのが普通ですが、現場のように風化岩からなる地盤(鹿児島では風化岩に代わりシラス)では、樹木を育てていく養分がありません。従って樹木は下部に根を張りません。
では、どのように樹木は育っているのかと考えますと、風化した風化岩の上に長年の間に厚さ1m程度の腐植土層が形成されていて、樹木の根はこの層内で、横方向に伸びていると考えられます。従って、樹木が成長すればするほど、その重量は大きくなり、樹木そのものの安定も悪くなるものと思います。
今回の土石流の原因ですが、地盤工学的な地滑りとは全く異なるものであると考えられます。筆者が考えます原因は谷筋に流れ込んだ大量の降雨がこの腐植土層に入りこんで次第に含水量が増えていき、最後に流動化する土に変化していき、上部の樹木を支えきれなくなって、ついに下部の樹木の根が全く入っていない風化岩からなる層の上面を土石流となって押し流されてものと推定します。
このスベリの特徴は、スベリの規模に比べ土砂の量は少なく、樹木が多く含まれること。
土石流となって流れ込んでくる土は腐植土ですから、色は黒く、細粒の粘性のある土であると考えています。
以上のことから、筆者の考えが正しければ、上部で道路補強用の工事をされていたことは、土石流にはあまり関係のものと考えております。

筆者が考えます土石流に対する対策

「水は最も流れやすい方向に流れる」性質を持っていますので、人工的に流れを変えることは不可能です。また、地盤工学的な災害対策ですが、もう少し平坦な土地であれば、谷筋に有孔の土管等を入れて降雨の伏流水など流す等の対策も考えられますが、現地の状況は非常に急峻な地盤で高低差も100m程度ありますので、非常に難しい工事になります。非常に消極的な対策ですが、次の対策を提案しておきます。
・樹木に対する対策
先述しましたように、樹木の根が深く入りませんので、樹木が大きくなればなるほど不安定になります。鹿児島では「20年経ったら木を切れ」という古くからの教えがあった、と教えていただきました。最近は環境保護の立場から、なかなか樹木に手を加えることができなと聞いていますが、「環境保護とは適度の手を加えて、良好な環境を保つこと」だと思いますので、松山城周辺の樹木に対する保護基準の作成などを作成されることも対策の一つと考えます。
・地盤工学的または構造工学的
地盤および構造工学的対策は、例えば砂防ダムを建設するとか、谷筋に有孔土管を設置する等の対策はありますが、高価で工事も難工事となりますので、ここでは、谷の麓に擁壁を設ける方法も一つの方法だと考えます。
昔から、谷筋の下は危ないと言うことは分かっていたのか、建物を建てる場合、谷の終点からある距離を離して建てていたと聞きます。擁壁を立てるというのはこの離間距離を確保するという観点に立てば、有効と思います。例えば2m程度の擁壁ができれば、数メートルの離間距離を取ったことになります。

以上、全く紙面上の検討ですが、問題と思われるところがあれば指摘下さい。
以上

熱海の土石流に関して

まず最初に、今回の災害によってお亡くなられた方々のご冥福をお祈りしますと同時に、被害を受けられた方々の一日も早い復興をお祈りするものです。

私は当該地域を訪れたこともなく、又地盤に関する情報を持っているものではありません。
報道されるニュースや写真から判断しているのですが、どのマスメディアも、宅地造成法のような規則に則ってなされた「盛土」と単に谷筋を埋めるために使われた「捨土」とを混同されているのではないかと思っています。

一般に、急峻な谷筋を正規の安全性を確認した造成工事で行う「盛土」は地すべりに対する安全性を高める非常に有効な工法です。この工法では、水が流れていた元の谷筋に、有孔の埋設管が血管の如く配置され、盛土前と同等の水量が下流側に安全に流れるように工夫されています。また、造成すると雨水の流出比が増加するので、一定の表面水を一時的に貯めておく調整池が設置され、安全に水を下流に流すよう計画されます。上記の埋設管や調整池の大きさや配置の位置は現地の地形や流域の大きさ、降雨強度や降雨量から決定されます。
更に下流側の斜面は十分な勾配を取り、表面を十分保護できる対策を立てておけば非常に安全な斜面が形成されると考えられます。

このように、十分な管理のもとで「盛土」が作られていたならば、たとえ今回のような異常な降雨時においても、盛土が根こそぎ押し流されるような災害は起きない、と考えています。

今回放映されている写真などを見ますと、上述しました埋設管などや調整池のようなものは全く見当たりません。災害の原因は、異常な長雨で、全く管理されないで行われた「捨土」の含水量が限度以上に増加し、土の強度が減少して、液状化している土と同じような状態となり、捨土全体が根こそぎ滑っていったのではないかと考えています。

また、報道によりますと、この谷筋が森林法で単に届け出だけで、全く工法も安全性も確認されることなく行われた、となっています。工事の管理も埋め立てた業者任せで実施されてのではないかと危惧します。この報道が正しいのであれば、大変な問題です。このような、届け出だけで行われたものは、早急に調査されるべきだと思います。

しばらくの間、種々の事情でブログを休止していましたが、今回の災害によって、開発の規則に従って埋め立てられた土地が、全く安全性の確認されていない捨土と混同されて報道され、必要以上の規制を受けるのではないかと危惧し、ブログを再開しました。

盛土された土地を見直されるのであれば、専門家による全般的な意見も大切ですが、開発地は各々土地の状況や自然条件が異なりますので、開発地ごとのきめ細かい評価が実施され、今回のような悲惨な土砂災害がなくなることを切に希望するものです。

以上

福岡陥没事故について思うこと

平成29年3月30日に事故原因究明の最終委員会が開かれ道路陥没事故の原因などが示されました。これから工事再開に向けてより安全な方法で行われることを期待するものです。

ここで、私は長年地盤と構造物の相互作用の数値解析に携わってきた技術者として、事故の原因究明の一助になればと考え、円形トンネル掘削後の地中の応力や塑性域の広がり等の技術的な問題と最近の公共事業で良く採用されている専門家による委員会の責任体制等について述べることにします。

1.トンネル周辺の地盤の応力

  • 図-1はトンネル掘削直後から塑性域の形成されていく様相を示している。トンネルの掘削面近傍では、青線(線1)で示した様に、円形に沿った方向と直角方向の応力差から降伏が始まり、塑性域が次第に広がって最終応力(線7、これ以上塑性域が広がらない応力)のところまで広がっていく。塑性域での二つの応力の差は降伏荷重にリンクするものであり、この応力差は弾性域では降伏荷重より小さな値となっている。

20140412_fig_1

図-1

  • トンネルのNATMの原理は不安定な降伏域と弾性域をボルトで結合し、全体として安定した断面を形成するものと考えている。したがって、トンネル上面の硬い層の長さが掘削によって形成される塑性域に比べ十分大きいことがNATMの適応する基本的な条件と考えている。また、ボルトがない都市NATMの場合、支保工のアーチアクションで塑性域を支える。

2.地盤の強度やトンネル断面の大きさと塑性域

  • 図-2は地盤の強度と塑性域の大きさの関係を示している。当然のことながら強度が大きければ塑性域は小さくなり、小さければ塑性域が広がる。

20140412_fig_2

図-2

  • また、トンネル断面が大きくなればそれに従って塑性域も大きくなる。
  • 以上のことから、地盤の強度やトンネル断面の大きさはトンネル掘削の安定性は勿論のことNATM利用の可否を決定する重要な要素である。
  • 以上の解析例は相当昔に行ったもので、今回の問題に対して解析したものではないが、定性的には陥没事故の原因解明には役立つのではないかと考えている。
  • 都市NATMでは高度な数値解析と的確な補助工法をもって、比較的軟弱な地盤に対するリスクに対応していると考えられる。

3.事故原因解明や今後のトンネル掘削の方法を決定に当たり重要と考えられる項目

  • 上述したように、トンネル掘削地盤の強度は最も重要な項目である。特に、非常に交通量の多い市街地での工事であるので、より正確に地盤の強度を求めねばならない。
  • 事故調査委員会が出された強度の値はあまりにもバラツキが多いのではないか?
  • もしこの様なバラツキの多い値しか提供できないなら、強度は平均値ではなく、最も低い値を用いて安全性を論ずるべきと考える。
  • 掘削されるトンネルの頂部から硬い岩盤層がどの程度存在するかも非常に重要である。現地の地盤は上部の柔らかい層から硬い層に変化しているのであるが、ある深さで急激に硬くなる箇所もあれば、柔らかい層から硬い層に徐々に変化していく箇所もあると考えられる。
  • 十分な追加調査を行って、この岩盤層の厚さを決定されるべきと考える。
  • 今回のトンネルで、トンネル頂部からの岩盤の厚さを増やすために部分的にトンネル頂部の高さを下げられているが、これは上記の塑性域を増やすだけで、全く意味のないことである。またアーチアクションも効きにくくなる。
  • 数値解析については報告者案には万能ではないので頼るべきではないと記述されている。しかし、この業務では、全応力に基づいたFEMで解析がおこなわれており、現在の解析レベルから判断すると、解析はpoorである。地盤の解析には有効応力でしっかりした構成式を使用する解析を行うべきである。また、地下水位等自然条件や施工条件も施工時期により異なるので、設計時とは別にリアルタイムで高度な解析を行うシステムを準備して施工を行うべきであったと思う。
  • 薬液注入は障害物があり、止めたとみられるが、これは致命的ではないかと思われる。水みちを塞ぐのにしっかりした薬液注入が必要でなかったか。障害物の位置等は事前に試掘調査等で把握できるので対応可能と思われる。駅前の道路で地下に障害物がない方がおかしい。

4.責任体制

このトンネル掘削のプロジェクトの責任体制について考える。

  • 今回の様に、行政側の行う土木の工事では、設計監理の作業に含まれる企画・計画、設計、施工管理等の作業の大部分が外注されているにも拘わらず、形の上では、作業は全て行政府側で行われたことになっている。設計図書の著作権の問題も含め、土木コンサルタントは部分的な補助作業を行っているに過ぎない。
  • 行政側の技術者は設計の責任は行政側で取るものであるという認識があるのかどうか?
    土木コンサルタントも行政側や専門委員会の先生方の意見に対し、指示を待つのではなく、しっかりと担当技術者としての意見を述べられたのかどうか?
  • 施工業者はトンネル工事に関しては最も経験があると考えられるので、今回の様な市街地の掘削に対してどのような意見をもっておられたのか?
  • 設計施工分離型の発注であっても施工経験を生かした意見を述べられたのか?
  • リスクを承知で受託した経験豊富で技術力あるとされる施工会社に施工を一任されたように見える。本来なら、行政側技術者、専門委員会のメンバーは毎日の施工記録を点検検討し、日々の施工計画の可否を判断する必要と責任があったと思う。
  • 数値解析等の理論的なサポートもなく、補助工法の適用も制限された施工業者はちっと掘っては落ちなかったら先に進む、という方法では危機管理に非常に問題があったのではないかと思う。このトンネルのような力のつり合いでの安定の場合は、予兆はほとんどなく、崩壊の進行は急激であるのはある意味常識であろう。

5.専門委員会のあり方とオーナーズコンサルタント

  • 行政の技術者は専門的なところは学識経験者で構成する委員会等を活用する場合が多い。問題はこの学識経験者の皆様が自分の責任、すなわち、先生方の意見は絶対的に正しいと世間も行政側も受けとめられていることを十分認識して委員なっていられるかどうか?
  • 委員会の先生方の述べられる意見が現場で完全に実現できるかどうか、も大きな問題である。行政の技術者が学識経験者の意見を十分認識し工事に生かしていくことが出来るかどうかということも考慮されねばならない。
  • 行政の技術者の数が少ないうえに、分野ごとの行政組織の壁があり、分野を超えた経験ができにくいということがあると考えられる。これが今日多くの分野に関係するプロジェクトに問題が発生する原因の一つであるかと思われる。
  • 日本の学識経験者も欧米の先生方の様に、プロジェクトの早い段階から参画され、担当技術者と十分議論され、また自らも設計や解析の作業を担当されて、先生方が持っていられる学者レベルの高い技術力を実際のプロジェクトに生かしていくことが日本全体の技術力の向上に役立つものと考えている。
  • この様な制度を確立するためには、日本においても学者レベルの技術内容が理解でき、且つ、実際の工事についても理解できるオーナーズコンサルタントの制度を育成することだと考えている。
    以上

建設工事におけるオーナーズコンサルタントの必要性

1. オーナーズコンサルタントの必要性

近年、建築土木工事に関して、国内において他の分野と共同で行う巨大なプロジェクトも増加し、また、我が国の技術者が外国のプロジェクトに参画する機会も多くなってきている。一方、最近国内では、施設の建設プロジェクトで種々問題が発生し、世間を騒がせていることが多くなってきている。この原因として、最近のプロジェクトは技術分野が多岐にわたり、単一の技術では解決できないにも拘わらず、建設の重要事項の決定に他の技術との連携を十分取らずに解決しようとした為ではないかと考えている。
この解決法の一つとして、プロジェクトの最初から最後まで建設期間を通して、経験豊かな技術者または技術集団が種々の問題を解決していく、オーナーズコンサルタント制度の採用が必要ではないかと考えている。諸外国では非常に一般的なものであるが、日本においては十分活用がされていない。しかし、この制度が日本においても採用されることが望ましいと考えており、また、この為、オーナーズコンサルタントになり得る人材の育成が必要ではないかと考えている。
幸、私はアメリカの恩師のご指導のお陰もあって、ニュージーランド、インドネシア、マレーシア、台湾等のプロジェクトに参画し、外国におけるオーナーズコンサルタントの業務内容やプロジェクトの進め方を学んできた。また、国内の建設プロジェクトにおいても、計画・企画の段階から設計、施工管理や工事後維持管理に至るまで、関係することが出来るプロジェクトに数多く参画してきた。そこで、今回は日本の事情も考慮したオーナーズコンサルタント制度について述べることにした。

なお、最初に断わっておくが、ここで述べるオーナーズコンサルタント制度は施設の実際の建設工事を伴うプロジェクトに関するもので、国土の企画・計画等、実際の建設工事を伴わないプロジェクトについては論じるに十分な経験もないので、含んでいない。

2. 工業製品と土木建築工事の生産方法の違い

土木建築工事においてオーナーズコンサルタントの必要性を説明するために、初めに工業製品と土木建築工事の生産方法の違いについて述べる。

(1) 設計の進め方

  • 工業製品では、設計と製造の関係は前工程と後工程という直線的な関係で、設計図と仕様書は設計段階で綿密に検討され、製造段階で疑義の余地のないものになっている。
  • 土木建築工事では、設計過程は直線的でなく、行きつ戻りつ、試行錯誤を繰り返しながら進められる。また、建設の過程に入っても設計方針や条件が変わることもある。

(2) 製造工程

  • 工業製品では、設計と並行して準備が整えられ、用意された製造方法によって一気に生産されていく。
  • 土木建築工事では、一品生産に対応し、その都度異なる生産設備が運び込まれ、生産組織も常設組織でなく一回限りのものである。また、生産設備や生産組織は予め用意することはできず、生産に着手してから必要な組織や設備を整え、生産が進められる。

(3) 品質管理

  • 工業製品では、予め製造ラインに組み込まれた品質管理の手法によって製品の品質が管理され、品質は一定幅の中にあることが保証される。
  • 土木建築工事では、製造工程に品質管理の仕組みを組み込むことは可能であるが、作りだされたものが一定の品質を備えているかどうかは工業製品の様には期待できない。従って、工程の区切りごとに品質を確認し次の工程に進む、ということが積み重ねられる。

(4) 品質保証

  • 工業製品では、発注者は製品を動かして、要求に合致していることを確認でき、万一不良品があった場合は、修理または交換が要求でき、場合によっては返品も出来る。
  • 土木建築工事では、発注者は設計者や施工会社に対する信頼だけを頼りに工事請負契約を結び、巨額の工事金の支払いを約束する。製品に不都合があった場合、瑕疵担保責任により修理や保障は求められるが、受け取りを拒否することは出来ない仕組みになっている。

(5) オーナーズコンサルタント的役割の必要性

以上の様に、土木建築工事が工業製品の製造とは異なることを説明したので、土木建築工事においてオーナーコンサルタントの必要性が理解して頂いたと思う。
オーナーコンサルタントの主な役割を示すと次の様なものである。

  • 何を作るかを決める。
  • どのように作るかを決める。
  • 決められたものが決められた方法で作られたことを確かめる。
  • 工事中は事業主、設計監理者、施工業者間の会議を主催し、工事の安全、工程、施工方法など、工事中に起る種々の問題の解決に努める。
  • 工事中、関係官庁や近隣の方々に対し必要な技術情報を説明し、理解を得る。
  • 工事中に建設工事の諸条件が変わることがあるので、工事の方法や数量が変化することがある。この場合、最も公平に最終工事費の調整などを行う。
  • 施設の完成後、将来に必要となるメインテナンスの時期や方法を提案する。

3. オーナーズコンサルタントになるための要件

オーナーズコンサルタントのなるためには次の様な資質が求められる。

(1) 技術的資質

  • 経験をすることが大事で、自ら幾つかのプロジェクトの設計・施工管理を経験していること。
  • 関係法規なども良く理解し、関係官庁の承認取得方法などを理解し、取得の折衝等行った経験を有していること。
  • 大きなプロジェクトの総括責任者として、種々の分野の異なる技術者を指導し、プロジェクトを纏める経験をしていること。
  • 必要な領域に対し、新しい技術革新に適応した最新の技術を研鑽し、どのような要求にも応じられる技術集団を組織できること。
  • さらに進んだ専門的知識が必要な場合、種々の分野の専門家から意見を聴取し、これを集約してプロジェクトに生かせる能力を有すること。

(2) 倫理的資質

  • 施工業者からは勿論、関係するメーカーや関係業界から完全に独立していて、中立性と自主性を保つこと。
  • 施設の設計は、作る側の便宜からでなく、まず使う側の利便性を考えること。
  • 工事管理では、外部からの影響を受けることなく、厳正中立の立場でおこなうこと。
  • 最終的な建設工事費の調整においては、厳正中立な立場で査定ができること。

4. 建設工事の進め方

施設の建設工事の進め方として、計画・設計と施工を分離して発注する場合と設計と施工を分離せず一括して発注するケースがある。この二つのケースの利害得失について述べる。

(1)  設計と施工を分離した場合

  • 設計が完全に独立して実施され、用意された設計図書(設計図や仕様書等)を用いて数社の施工業者が参加して競争入札が行われ、最も適した業者が選ばれ、事業主が最適額で契約してから発注されるケースである。
  • 発注額の内容も明らかで、将来工事中に発生するかもしれない変更に対して、発注設計図書に従って発注額の変更が行われるので、疑問の入る余地がない。
  • 施工中の施工管理は事業主、設計者と管理者が協力して行われるので、必要な時期に必要な場所でチェックすることが可能である。
  • 工事中の運営は発注者と設計者が中心となって運営されるので、協議内容や工事の進捗度等がオープンで理解しやすい。

(2) 設計施工で行われる場合

  • 設計と施工を一括して発注する方法である。
  • 宣伝文句として、設計の手間が省けるとか設計料が安くなる(極端にはただである)と言われるが、見かけ上はともかく実際には全くあり得ないことである。
  • 最も問題になるのは、事業主の利益が守られにくいことである。下記の様な問題に対して対処方法を考えておく必要がある。
    □ 巨額の投資にも拘わらず、契約金と内訳の査定はどのようにするのか?
    □ 品質はどの様に管理するのか?
    □ 約束通りのものが出来ているのか?
    □ 工事進行の運営や判断し難い事項の処理はどうするか?

5. オーナーズコンサルタント制度の現状、必要性と育成

オーナーズコンサルタント制度の現状、必要性と育成について述べる。

(1) オーナーズコンサルタントの制度の日本における現状

  • 40年以上前になると思うが、土木学会誌でこれからのコンサルタントの役割という論説で、コンサルタントは行政の技術者のサポートから、本稿で述べたようなオーナーズコンサルタントの役割になっていく、ということが書かれていたと記憶する。
  •  しかし、現在の土木コンサルタントの技術力は上がったとはいえ、オーナーズコンサルタントができる域に達していない。
  • 建築の工事では、施主側に専門技術者がほとんどいなく、建築工事を全面的に任される素晴らしいオーナーズコンサルタントのグループが存在すると考えている。事業主からも信頼され、社会的な地位も高く、パートナーとしての地位を獲得している。
  • 一方、土木の工事では、行政の施主が多く、設計図書の著作権の問題も含め、土木では部分的は補助作業になっている。行政の技術者は専門的なところは学識経験者で構成する委員会等を活用する場合が多い。問題は行政の技術者が本稿でのオーナーズコンサルタントになり得るかという問題である。
  • 行政の技術者の数が少ないうえに、分野ごとの行政組織の壁があり、分野を超えた経験ができにくいということがあると考えられる。これが今日多くの分野に関係するプロジェクトに問題が発生する原因の一つであるかと思われる。

(2) 公共工事の遂行体制とオーナーズコンサルタントの必要性

  • 行政が直轄工事を行っていた時と違って、建設工事に含まれる企画・計画、設計、施工管理等の作業の大部分が外注されているにも拘わらず、形の上では、作業は全て行政府側で行われたことになっている。この為、工事は一応設計施工を分離した方法を取って、中立性が保たれている形になっているが、実際は施工業者が提出するプロポーザルを正確に検討し、評価する技術力が不足してきたように考えている。
  • 最近では、施工業者が次第に力を持ってきて、JV (ジョイントベンチャー) 工事と称して、工事費の入札時の競争力をなくし、かなり高価な公共工事が行われている様に考えている。
  • 国内工事で、現在の様に外国の建設業者が工事に参画しないことが何時までも続くとは考えられない。外国の建設業者が参入してきた場合、公平を期するためプロポーザル方式が取られると考えるが、建設業者から出てきた技術提案書を的確に評価し、公表しなければならない。現在の様に、敗者に対して「貴方の提案より優れた提案があった。」という一行程度の理由書では通用しない。
  • 一方、日本の設計業者や建設業者が経済成長を続けている外国で、準国内的なプロジェクトと考えられるJICAのプロジェクト以外の仕事で活躍するためにも、オーナーズコンサルタントを中心としたプロジェクトの進め方を熟知する必要があると考える。

(3) オーナーズコンサルタントの育成

  • これからの土木工事においてオーナーズコンサルタント制度を育成するには、現状の土木コンサルタントに権限を委譲し、役所情報の守秘義務等の制度を整えて、時間をかけて現状の土木コンサルタントを育成してゆくか、オーナーズコンサルタントという職種を作り、その資格ある技術者を集めた会社に役所が業務発注する仕組みを創設することが考えられる。
  • この組織は公共だけでなく、民間土木でも活用され、海外で多い、オーナーズコンサルタント+設計(+)施工体制でのプロジェクトの進め方も日本で採用できる。
  • 既得権益を守るのは人間本来の姿であるかもしれないが、現在の日本でも既得権益を守って生きようとする守りの姿勢の人が多い。上述の変更は行政の技術者の既得権益を捨てるということ、すなわち、管理技術者の役割を少なくすることであり、時間がかかるだろう。 何十年経っても、土木コンサルタントの地位が十分向上しない大きな要因かと思っている。
  • 一方、土木コンサルタント側もオーナーズコンサルタントの制度を十分研究し、行政からの指示を待つという姿勢から、常に厳正中立な立場で積極的に議論に加わり、事業主への助言が出来るよう努めねばならない。

以上

豊洲市場の汚染水の問題について(追加)

前回のブログで書き忘れたことを追加します。

最近の報道を見ていますと、地下水の測定結果だけが報道されていますが、地下水の採取深度についてはほとんど報道されていません。そこで、当初専門家会議で議論され、決定された汚染土対策と地下水の採取深さを正確に述べたいと思います。

1.専門家会議で決定された汚染土対策案と地中に汚染土が残留している可能性

(1)専門家会議で決定された汚染土対策案は、何回も繰り返すことになるが、図-1に示されている通りである。旧地盤面(A.P.+4.0m)から2mの深さ(A.P.+2m)までは土壌を全て掘削し、土壌汚染基準以下に処理された土で埋め戻す。

fig-1

図-1

(2)さらに、A.P.+4mから上部に2.5mを新たに良質土で盛土し地盤高をA.P.+6.5mとする。
(3)問題はA.P.+2.0m以深の土であるが、詳細調査及び引き続き行われた絞込み調査により出来る限りの処理がなされ、ほとんどの土壌が土壌基準以下に処理されている。
(4)残念ながら、このA.P.+2.0m以深の部分は全て掘削して調べたものでなく、ある間隔のメッシュ状に上から調べたものであるので、若干ではあるが、汚染土が残されている可能性がある。

2.地下水の採取深度

(1)地下水のモリタリングようの観測井の構造はA.P.+2.0m以下にストレーナーが切られていて(有孔管となっていて)、採取された地下水はA.P.+2.0m以下のものである。
(2)上述したように、この部分に汚染土が含まれている可能性は零(0)ではない。
(3)今、「水質基準の79倍」ということだけが報道されているが、この値は広い市場の1点にすぎず、また、この値は地表面から4.5m下の深さの値である。
(4)専門家会議で決められた対策案の原案では、A.P.+2.0mより上に4.5m(2.5m+2.0m)が良質土で盛土されていて、例えA.P.+2.0mの深さで汚染源が発見されても、地表面に影響を与えるものではないと考えられる。

3.市場建屋部の考え方

(1)残念ながら、市場の建屋部(建築物の下部)は空間となっていて、盛土部分がないため、A.P.+2.0mの深さで測定された汚染は直接地下空間に影響を及ぼすことになる。従って、何らかの対策が必要である。
(2)技術会議で提案された地下水管理システムで汚染水対策を行うことは次の理由により問題があると考える。
市場は非常に長期に使用されるので、地下水管理システムが全く故障もなく稼働するとは考えにくい。
現在排水に使われている砕石層も長年の間に目詰まりし、排水が有効でなくなる恐れがある。
前にも指摘したが、周辺の擁壁や下部の不透水層で遮水性の空間を作ることになっているが、これには種々の問題がある。
さらに、長期の間には、巨大な地震の発生も考慮しなければならない。どのような自然現象にも耐えうるものでなければならないが、これをギャランティすることは難しいと考える。
地下水管理システムを働かせるために、長期にわたってランニングコストがかかる。

4.現実的な解決案

(1)これも繰り返しになるが、解決策を再掲すると図-2に示すとおりである。

fig-5
図-2

(2)解決策の前提条件は「専門家会議で提案された解決策(図-1)が有効である。」ということである。
(3)建家部は盛土がないので、4.5mの盛土と同じ効果を持つよう、建家に必要な設備空間を残してコンクリートと良質土で埋め立てる。
(4)コンクリートと良質土の厚さは2.0m程度と考えられるので、コンクリートの厚さは4.5mの土の持つ遮塀性と同じになるように決める。
(5)地下水は出来るだけ動かさないことが重要だと考えるので、水管理システムによる揚水は休止する。
(6)現場で存在する観測井、揚水井、旧ボーリング孔等、A.P.+2.0m以深から地表面まで貫通している孔は全てコンクリートモルタル等を詰めて閉鎖する。
(7)新たに地表面近くで、汚染土に起因する変化を観測する。
(8)建家周りの排水方法を再度調べ、どの様な豪雨に対しても地表面付近で処理できるよう検討する。

以上ですが、ご批判を頂ければ幸いです。

豊洲市場の汚染水の問題について

1月14日9回目の汚染地下水のモニタリング結果が発表され、多くの方々が驚くような数値となりました。何か対策を立てる必要があるとは思いますが、マスコミの方々の報道は、結果の内容を十分理解されずに報道合戦を繰り広げていられる様に思います。
ここで理解して頂きたいのは、東京都の取られた汚染土対策はこの種の対策としては最高のものであり、少なくとも地表面から4.5m(2.5m+2.0m)までの汚染土はすべて取り除かれ存在していません。さらに、地表面から4.5m(A.P.+2.0m)以深の土も出来る限り土壌汚染基準以下に処理されています。市場の安全性を考え十分な対策が取られてきたと考えます。
しかし、残念ながら1月14日に示された値は基準をオーバーしていました。この原因として、地下水位の検査結果に疑問を持っていられる方もおられ、再検査などが提案されておりますが、豊洲市場の土壌汚染対策で、最も重要なのは地下水の管理システムであると考えています。そこで、前回のブログにも書きましたが、土壌汚染対策に対する問題点をもう一度述べ、対策を考えたいと思います。

1. 専門家会議で決定され、実施された土壌汚染対策

(1) 専門家会議で決定された土壌汚染対策案を再掲すると図-1の通りである。
(2) A.P.+2.0m以下は汚染物質を除去するか、土壌処理基準をクリアーする地盤になる様処理する。
(3) A.P.+4.0m以下A.P.+2.0mまでの土は土壌処理基準以下の処理土で置き換える。
(4) A.P.+4.0mからA.P.+6.5mまでは新たにきれいな良質土で盛土する。
(5) この方法は汚染土対策の一つの有力な方法で、例え汚染土が地中深い所に残留していても、移動させないで地下に閉じ込める案であると考えている。

fig-1
図-1

2. 技術会議で決定された地下水管理システム

(1) 技術会議で提案された地下水管理システムの概要は図-2に示すとおりである。
(2) 集中豪雨や台風時においても、A.P.+2.0mで地下水の管理が出来るよう、日常的に維持水位をA.P.+1.8mとし、地中に貯水機能を確保する。
(3) 水位上昇時に自動的に揚水ポンプが稼働する総合的な自動監視システムである。
(4) このシステムを可能にするためには、周辺並びに下面からの地下水の流入を防ぎ、完全に外部から遮断された独立空間を作らねばならない。
(5) この為、道路側には鋼管矢板遮水壁を、護岸側には三層構造遮水壁を地盤下部に存在する不透水層まで打ち込まれた。

20170121_fig.2
図-2(*1)

3. 地下水管理システムに対する疑問点について

(1) 地下水管理システムは土壌汚染対策の基本となるもので、最も重要なものである。
(2) このシステムを成立させるために必要な条件が一つでも満たされなければ、土壌汚染対策の基本が成り立たなくなる。
(3) このシステムに対して疑問を抱いた理由は、発表されている地下水位の測定結果である。(地下水の揚水が10月初めに開始され、10月3日より測定結果が公表されている。)
(4) 当初の地下水位は東京湾の標準水位から推定される地下水位(A.P.+1.0mからA.P.+3.0m程度)に比べ非常に高く、A.P.+5.0mを超えているものもある。これは真の地下水位ではなく、盛土施工中生じた遊水の水位と考えられる。
(5) 地下水位が非常に高かった時期から実際の地下水位として妥当と考えられるA.P.+3.0m程度になるまでは比較的早く、10月末ごろには全ての観測点でA.P.+4.0を下回っている。
(6) この時点から地下水位の低下が鈍くなっている地点もあり、一様でない。特に、護岸側の測定地点で水位低下が鈍くなっている地点が見受けられる。
(7) もし完全に外部から遮断された空間が成立していれば、揚水により地下水は表面から水平に流れ地下水位は低下していくが、もし外部から水が供給されると、地中に水平及び鉛直方向の水流が起ることになり、揚水の一部は外部からの地下水で供給されることになる。

4. 地下水管理システムに対する問題点

(1) この管理システムで最も問題になるのは外部から完全に遮断された空間が、非常に長期間(50年とか100年といった期間)保てるかどうか、である。
(2) 各空間の平面積は100,000m2 以上、空間の体積は1,000,000m3 にも達する大空間である。
(3) 各街区で、外部と遮断するための遮水壁は2,000個程度の継ぎ手を持っており、その総延長は20,000m以上になる。地中まで完全に充填剤を挿入出来たのかどうか、どのように検査されたのか?
(4) 遮水壁の内、鋼管矢板はスパイラル鋼管に継ぎ手を溶接したものであり、非常に高価で普通矢板の数倍はする遮水壁であるが、鋼管と継ぎ手部の鋼材の特性の違いもあって、遮水壁としては扱いにくいものと考えられる。また、三層構造遮水壁はソイルセメントの中に鋼製の遮水材を挿入していく、と説明されているが、施工方法や施工検査方法など十分説明される必要があると考えられる。
(5) 外部と遮断するためにさらに重要なのは地下に存在する不透水層である。広大な面積(各街区 100,000m2 以上)に全く切れ目なく存在するかどうか、どの様な調査をされて遮水壁の深さを決められたのか?
(6) A.P.+2.0m付近に設置された砕石層、もし排水層として設置されたのであれば、将来間隙が詰まらない対策として、有孔ヒューム管を挿入する必要があると考えるが、どの様な対策を立てられたのか?
(7) 液状化対策として締め固め杭が施工されているが、各街区の中に施工されたのかどうか? もし施工されたのであれば、締め固め砂杭は鉛直方向の透水係数を確実に増加させるので砂杭の先端深さと不透水層の関係等を明確にする必要がある。
(8) 以上の様に、非常に重要な空間で、且つ施工が難しい工事と考えられるが、施工を担当された業者の方々は長期にわたって完全に遮断された空間をギャランティされたのか?

5. 今後考えられる原因究明に必要な調査

(1) 1月14日に開かれた専門家会議では、地下水の検査結果に疑問を抱かれ、地下水採取孔の増加や地下水の再検査などの緊急対策が提案されました。
(2) 以上の対策の他に、地下水管理システムを維持するために最も重要な事項―外部から遮断された空間形成の条件の再検査が必要と考える。
(3) 先ず、地盤の連続した不透水層の存在の確認。各街区の平面積は非常に大きく、100,000m2 を超えている。遮水壁近くだけでなく、建家の中央部の地盤調査結果を検討され、連続した不透水層の確認が必要。
(4) 建家は杭基礎で杭の先端は下部の強固な支持層まで届いている。これら数多くの杭は不透水層を抜いていると考えられるので、建築工事の施工記録を調査する。
(5) 地盤改良工事で多くの砂杭やコンクリート杭が使用されているが全ての杭について施工記録の再検査をする。
(6) 各街区内には数多くの地盤調査ボーリング孔、地下水モニタリング孔、地下水管理システム観測井戸、揚水井戸等々、全てについて深度について再調査する。
(7) 遮水壁の施工結果の再検査。各壁の先端の深度と地盤の不透水層の関係、継ぎ手部の充填材の施工記録、三層構造遮水壁の継ぎ手部の施工記録など。
(8) 残念ながら汚染地下水のモニタリング結果が想定外であったので、遮断された空間の外からの地下水の供給の有無を調べるため、着色材を使った調査が可能かどうか検討する。

6. 地下水管理システムに頼らない汚染土対策

(1) 種々の調査の結果、もし外部から遮断された空間の形成に問題が発見された場合には、地下水の移動を起こさせる作業は中止する。すなわち、地下水管理システムの揚水を休止し、出来るだけ地下水の移動を起こさせない。
(2) 最初に専門家会議で考えられた対策案、すなわち図-1に示されたように上部の4.5mは盛土か完全に処理された土で覆い、この下の層も可能な限り土壌処理基準以下の土にする。この案を元に対策案を考える。
(3) 現在の状態から出来るだけ原案に近い改造案として、既に前回のブログで提案したものを図-3に再掲する。この案では、建家の下は設備用の空間が必要なので、2.5m程度の空間を設けそれ以下の空間は良質土と鉄筋コンクリートで埋め戻す。
(4) 専門家会議で、この案について議論して頂き、4.5mをすべて土で覆った原案と同等に、地表面に汚染土や汚染水の影響が及ばないかどうか判断して頂く。
(5) もし、何かを追加すれば合格するのであれば、指摘して頂く。

fig-5
図-3
以上、豊洲の汚染土対策で第三者が意見を申し上げるのは良くないかもしれないが、もし長年の経験がお役に立てばと考えブログに書きました。
汚染土対策としては非常に広範囲で困難な工事について、担当の方々は非常によく研究され、もうあと一歩のところまで来ていると考えております。種々の問題が解決し一日も早く豊洲市場が開場することを願っています。

参考文献)

*1)『豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要』パンフレット,東京都中央卸売市場 新市場整備部,p.14

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/siryo1.pdf

豊洲市場の地下構造が市場として認められる為の改造計画

2016年11月25日、東京都小池知事は豊洲市場の開場を少なくとも1年程度延期する、と表明されました。各方面から種々の意見が寄せられていますが、豊洲市場をより良い条件で開場するために絶好のチャンスと考え、行動を起こすべきではないかと考えます。

そこで、専門委員会で考えられた案からスタートし、現在の状況の問題点を述べ、現状をどのように改良したら専門委員会の案と同等の案になるか、を考えました。

1.専門家委員会で決定された汚染土対策案(図-1参照)

(1) 専門家委員会で決定された案は図-1の通りである。

(2) A.P.+2.0m以下は汚染物質を除去するか、土壌処理基準をクリアーする地盤になる様処理する。

(3) A.P.+4.0m以下A.P.+2.0mまでの土は土壌処理基準以下の処理土で置き換える。

(4) A.P.+4.0mからA.P.+6.5mまでは新たにきれいな良質土で盛土する。

(5) この方法は汚染土対策の一つの有力な方法である「汚染土を地下に閉じ込める」案であると考えている。

fig-1

図-1(*1)

 

2.市場であるので建屋が必要、という条件からを考慮した一般的な対策案(図-2参照)

(1) 豊洲市場は市場であるので建屋が必要である。一般に、この種の大規模な建物では配管スペースが必要であり、地下空間に配管が設置されることが多い。

(2) 普通の建築では、図-2に示された様に、鉄筋コンクリート製の底版を設けて、地下空間を形成している。

(3) 汚染土壌を地下に封じ込める対策として、専門家委員会で決定された汚染土対策案(図-1)と同等の効果があると考えている。

(4) もしこの案で良ければ、旧地盤面(A.P.+4.00m)まで埋め戻された時点で、市場の地下部分を構築し、完成後A.P.+6.5mまで埋め戻すことは普通の方法である。

(5) 盛土がなされていなかったかどうか、という議論は汚染土対策に対しては別に議論されるべき問題で、汚染土対策には関係のない事項である。

fig-2

図-2

 

3.既に建設された市場建屋の地下構造と汚染土対策(図-3参照)

(1) 既に建設された市場建屋の地下構造と汚染土対策は図-3に示されている。

(2) 地下の基礎底面は砕石層上面のA.P.+2.00mまで下げられ、汚染土のモニタリングスペースとして、地下底版は設けられていない。

(3) 地下水位と水質は地下水管理システムによって管理されることになっていた。

(4) 必要に応じて揚水ポンプが稼働し、常時の地下水位は管理水位(A.P.+2.00m)より0.2m低い地下水位を保ち、大雨や集中豪雨時の雨水貯留機能を備えている方法と考えられていた。

(5) しかし、このシステムの前提条件には非常に大きな問題点がある。

(6) この前提条件は、敷地の周辺は遮水壁で、底辺は不透水層でクローズされた空間を形成しなければならないことである。これは次節4.(2)のクローズ空間で述べる様に非常に困難であると考える。

fig-3

図-3(*2)

 

4.東京都豊洲市場技術委員会で議論され決定された地下水管理システム(図-4参照)

(1) 東京都豊洲市場技術委員会で議論され決定された地下水管理システムの内、周辺遮水壁と地下の不透水層は図-4に示されている。

(2) 用いられた遮水壁は鋼管杭遮水壁と三層構造遮水壁であり、これら遮水壁は下部の不透水層まで打ちこまれて、クローズされた空間を形成することになっている。

(3) この不透水空間には次の様な疑問点がある。

  • 鋼管杭遮水壁は何れの街区(5、6、及び7街区)も延長が1,000mで、遮水壁の構造は継ぎ手付きの直径80cmの鋼管杭であり、各街区で約1,000本が下部の不透水層まで打設されている。このことは各街区1,000個の継ぎ手があり、各継ぎ手の総延長は少なくとも10,000m以上と推定される。また、継ぎ手には充填剤が流し込まれて、遮水性が確保されることになっている。
  • このことは、相当延長が長い継ぎ手部の全ての箇所で完全な施工がなされていることを前提としているが、地中へ打ち込む工事で、総延長完全な遮水性を確保した工事は不可能であり、また、施工の精度を検査する方法もないと考える。
  • 更に、遮水壁に鋼管矢板が使われていることにも少々疑問が残る。一般に鋼管矢板は非常に深い掘削時に使われる剛性の大きな鋼材であるが、ほとんど力のかからない遮水壁に利用するのが良いのかどうか問題である。鋼管矢板は一般の矢板に比べ非常に高価であるばかりでなく、施工が難しいと考える。
  • 海岸線に沿って設置された三層構造遮水壁は、現場の土とセメントを混ぜ合わせてソイルセメントと呼ばれる強化された土壌を深さ方向に造成し、この中心に鋼製の遮水材を挿入して、「ソイルセメント、遮水材、ソイルセメント」の三層構造の遮水壁を設置し、遮水性が確保されることになっている。遮水壁の延長は5街区400m、6街区と7街区は共に600mである。しかし、この遮水壁にも、種々の問題点がある。
  • まず、ソイルセメントは施工の性質上、均質で同じ厚みを持つ土壌を深さ方向全てに造成するは不可能である。また、この遮水壁の中心に挿入される鋼材は、鋼管矢板と同様に継ぎ手が必要で、その間隔は50cm程度であると考えられる。従って、延長も相当長くなると考えられ、完全不透水の遮水壁を建設することはほとんど不可能と考える。
  • さらに下部の地盤の不透水層であるが、都の説明図では水平な地盤となっている。しかし、豊洲市場の地盤は均質で水平な地層ではなく、不透水層の深さも変化している。また、不透水層までの地盤も種々変化している。
  • 以上の様な条件を考慮すると、クローズされた完全に遮水性の空間を形成することは非常に困難であると考える。

fig-4

図-4(*3)

 

5.豊洲市場の地下構造が市場として認められるための改造方法の提案(図-5参照)

(1) 現在の豊洲市場の建屋礎の底面はA.P.+2.0mに敷設された砕石層上に設置され、地下水が溜まっている状態で、汚染水や汚染された気体が検出されている。

(2) この事実は、揚水ポンプで常時維持する水位をA.P.+1.8m以下に維持するという計画が破綻していることを意味しており、この原因は前述したように、鋼管矢板遮水壁と三層構造遮水壁及び地下の不透水層による完全にクローズされた不透水空間が実現出来ていないことになる。

(3) このクローズされた空間は非常に大きく、将来においても完全不透水空間を形成することは困難であると判断できる。

(4) そこで、現在の地下構造が土壌汚染に対して十分な対策となるよう改造する計画を立てた。その内容は図-5に示されている。

(5) 立案の基本は、土壌汚染対策に対して有力な方法に一つであり、豊洲市場の専門委員会でも考えられた、「汚染土壌を地下に封じ込める」方法である。

(6) すなわち、現状の砕石層の上に良く締め固められた良質土(ソイルセメント、貧配合のコンクリートやアスファルトコンクリート等)を用いて旧地盤のA.P.+4.0mまで盛土する。その上に30cm程度の鉄筋コンクリート版を打設し、既設の地下の壁と共に密閉された地下空間を形成する。

(7) なお、この盛土部分や底版の鉄筋コンクリートの荷重が現在の建屋構造に影響しない埋め立て方法が存在するので、現在の建屋構造への補強は不必要である。

(8) もし何処かのモニタリングポストで基準以上の汚染度が検出された場合は、前に工場のあった東京ガスの操業過程を考慮し、当初予定されたものと同じ様な構造で、小規模な不透水空間を建設し、内部の水位を20cm程度下げて汚染度を内部に閉じ込める。不透水空間の大きさが限定されるので、不透水空間が形成されやすくまた、内部の水位が20cm低いので、応力は常に外側からかかり、内部から汚染水が漏れることはない。

fig-5

図-5

 

以上が当方の考えた対策である。種々のお考えをお聞かせいただければ幸いである。

対策工事が出来るだけ早く実施され、一日も早く豊洲市場が開場されることを望みます。

 

参考文献)

*1)『豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議報告書』平成20年7月,豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議,p.9-7

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/houkokusho/houkokusho_09.pdf

*2)『地下水管理システムに関する説明資料』(第18回 豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議 資料3)における『②「地下水管理システム」の概要』,

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/18-3.pdf

*3)『豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要』パンフレット,東京都中央卸売市場 新市場整備部,p.6

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/siryo1.pdf