豊洲市場の地下構造が市場として認められる為の改造計画


2016年11月25日、東京都小池知事は豊洲市場の開場を少なくとも1年程度延期する、と表明されました。各方面から種々の意見が寄せられていますが、豊洲市場をより良い条件で開場するために絶好のチャンスと考え、行動を起こすべきではないかと考えます。

そこで、専門委員会で考えられた案からスタートし、現在の状況の問題点を述べ、現状をどのように改良したら専門委員会の案と同等の案になるか、を考えました。

1.専門家委員会で決定された汚染土対策案(図-1参照)

(1) 専門家委員会で決定された案は図-1の通りである。

(2) A.P.+2.0m以下は汚染物質を除去するか、土壌処理基準をクリアーする地盤になる様処理する。

(3) A.P.+4.0m以下A.P.+2.0mまでの土は土壌処理基準以下の処理土で置き換える。

(4) A.P.+4.0mからA.P.+6.5mまでは新たにきれいな良質土で盛土する。

(5) この方法は汚染土対策の一つの有力な方法である「汚染土を地下に閉じ込める」案であると考えている。

fig-1

図-1(*1)

 

2.市場であるので建屋が必要、という条件からを考慮した一般的な対策案(図-2参照)

(1) 豊洲市場は市場であるので建屋が必要である。一般に、この種の大規模な建物では配管スペースが必要であり、地下空間に配管が設置されることが多い。

(2) 普通の建築では、図-2に示された様に、鉄筋コンクリート製の底版を設けて、地下空間を形成している。

(3) 汚染土壌を地下に封じ込める対策として、専門家委員会で決定された汚染土対策案(図-1)と同等の効果があると考えている。

(4) もしこの案で良ければ、旧地盤面(A.P.+4.00m)まで埋め戻された時点で、市場の地下部分を構築し、完成後A.P.+6.5mまで埋め戻すことは普通の方法である。

(5) 盛土がなされていなかったかどうか、という議論は汚染土対策に対しては別に議論されるべき問題で、汚染土対策には関係のない事項である。

fig-2

図-2

 

3.既に建設された市場建屋の地下構造と汚染土対策(図-3参照)

(1) 既に建設された市場建屋の地下構造と汚染土対策は図-3に示されている。

(2) 地下の基礎底面は砕石層上面のA.P.+2.00mまで下げられ、汚染土のモニタリングスペースとして、地下底版は設けられていない。

(3) 地下水位と水質は地下水管理システムによって管理されることになっていた。

(4) 必要に応じて揚水ポンプが稼働し、常時の地下水位は管理水位(A.P.+2.00m)より0.2m低い地下水位を保ち、大雨や集中豪雨時の雨水貯留機能を備えている方法と考えられていた。

(5) しかし、このシステムの前提条件には非常に大きな問題点がある。

(6) この前提条件は、敷地の周辺は遮水壁で、底辺は不透水層でクローズされた空間を形成しなければならないことである。これは次節4.(2)のクローズ空間で述べる様に非常に困難であると考える。

fig-3

図-3(*2)

 

4.東京都豊洲市場技術委員会で議論され決定された地下水管理システム(図-4参照)

(1) 東京都豊洲市場技術委員会で議論され決定された地下水管理システムの内、周辺遮水壁と地下の不透水層は図-4に示されている。

(2) 用いられた遮水壁は鋼管杭遮水壁と三層構造遮水壁であり、これら遮水壁は下部の不透水層まで打ちこまれて、クローズされた空間を形成することになっている。

(3) この不透水空間には次の様な疑問点がある。

  • 鋼管杭遮水壁は何れの街区(5、6、及び7街区)も延長が1,000mで、遮水壁の構造は継ぎ手付きの直径80cmの鋼管杭であり、各街区で約1,000本が下部の不透水層まで打設されている。このことは各街区1,000個の継ぎ手があり、各継ぎ手の総延長は少なくとも10,000m以上と推定される。また、継ぎ手には充填剤が流し込まれて、遮水性が確保されることになっている。
  • このことは、相当延長が長い継ぎ手部の全ての箇所で完全な施工がなされていることを前提としているが、地中へ打ち込む工事で、総延長完全な遮水性を確保した工事は不可能であり、また、施工の精度を検査する方法もないと考える。
  • 更に、遮水壁に鋼管矢板が使われていることにも少々疑問が残る。一般に鋼管矢板は非常に深い掘削時に使われる剛性の大きな鋼材であるが、ほとんど力のかからない遮水壁に利用するのが良いのかどうか問題である。鋼管矢板は一般の矢板に比べ非常に高価であるばかりでなく、施工が難しいと考える。
  • 海岸線に沿って設置された三層構造遮水壁は、現場の土とセメントを混ぜ合わせてソイルセメントと呼ばれる強化された土壌を深さ方向に造成し、この中心に鋼製の遮水材を挿入して、「ソイルセメント、遮水材、ソイルセメント」の三層構造の遮水壁を設置し、遮水性が確保されることになっている。遮水壁の延長は5街区400m、6街区と7街区は共に600mである。しかし、この遮水壁にも、種々の問題点がある。
  • まず、ソイルセメントは施工の性質上、均質で同じ厚みを持つ土壌を深さ方向全てに造成するは不可能である。また、この遮水壁の中心に挿入される鋼材は、鋼管矢板と同様に継ぎ手が必要で、その間隔は50cm程度であると考えられる。従って、延長も相当長くなると考えられ、完全不透水の遮水壁を建設することはほとんど不可能と考える。
  • さらに下部の地盤の不透水層であるが、都の説明図では水平な地盤となっている。しかし、豊洲市場の地盤は均質で水平な地層ではなく、不透水層の深さも変化している。また、不透水層までの地盤も種々変化している。
  • 以上の様な条件を考慮すると、クローズされた完全に遮水性の空間を形成することは非常に困難であると考える。

fig-4

図-4(*3)

 

5.豊洲市場の地下構造が市場として認められるための改造方法の提案(図-5参照)

(1) 現在の豊洲市場の建屋礎の底面はA.P.+2.0mに敷設された砕石層上に設置され、地下水が溜まっている状態で、汚染水や汚染された気体が検出されている。

(2) この事実は、揚水ポンプで常時維持する水位をA.P.+1.8m以下に維持するという計画が破綻していることを意味しており、この原因は前述したように、鋼管矢板遮水壁と三層構造遮水壁及び地下の不透水層による完全にクローズされた不透水空間が実現出来ていないことになる。

(3) このクローズされた空間は非常に大きく、将来においても完全不透水空間を形成することは困難であると判断できる。

(4) そこで、現在の地下構造が土壌汚染に対して十分な対策となるよう改造する計画を立てた。その内容は図-5に示されている。

(5) 立案の基本は、土壌汚染対策に対して有力な方法に一つであり、豊洲市場の専門委員会でも考えられた、「汚染土壌を地下に封じ込める」方法である。

(6) すなわち、現状の砕石層の上に良く締め固められた良質土(ソイルセメント、貧配合のコンクリートやアスファルトコンクリート等)を用いて旧地盤のA.P.+4.0mまで盛土する。その上に30cm程度の鉄筋コンクリート版を打設し、既設の地下の壁と共に密閉された地下空間を形成する。

(7) なお、この盛土部分や底版の鉄筋コンクリートの荷重が現在の建屋構造に影響しない埋め立て方法が存在するので、現在の建屋構造への補強は不必要である。

(8) もし何処かのモニタリングポストで基準以上の汚染度が検出された場合は、前に工場のあった東京ガスの操業過程を考慮し、当初予定されたものと同じ様な構造で、小規模な不透水空間を建設し、内部の水位を20cm程度下げて汚染度を内部に閉じ込める。不透水空間の大きさが限定されるので、不透水空間が形成されやすくまた、内部の水位が20cm低いので、応力は常に外側からかかり、内部から汚染水が漏れることはない。

fig-5

図-5

 

以上が当方の考えた対策である。種々のお考えをお聞かせいただければ幸いである。

対策工事が出来るだけ早く実施され、一日も早く豊洲市場が開場されることを望みます。

 

参考文献)

*1)『豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議報告書』平成20年7月,豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議,p.9-7

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/senmonkakaigi/houkokusho/houkokusho_09.pdf

*2)『地下水管理システムに関する説明資料』(第18回 豊洲新市場予定地の土壌汚染対策工事に関する技術会議 資料3)における『②「地下水管理システム」の概要』,

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/pdf/gijutsu/siryo/18-3.pdf

*3)『豊洲新市場 土壌汚染対策工事の概要』パンフレット,東京都中央卸売市場 新市場整備部,p.6

http://www.shijou.metro.tokyo.jp/toyosu/pdf/toyosu/siryou/pdf/siryo1.pdf

 

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