皆様
ここしばらくの間、回顧録「誰も知らない日建設計土木―その歴史とある土木技術者の奮闘」を出筆していまして、ブログを休んでいました。しかし、最近異常な降雨による地盤災害が頻発していて、一昨日、四国の松山城周辺で、土石流が発生し、被害が出ました。お亡くなりになった方々に心から哀悼の意を表します。
そこで、ネット上得られる情報や今まで経験したことをもとに、「急斜面の降雨による地盤災害」について、述べます。
2024年7月12日、松山で大量の降雨による地盤災害が起きました。今まで想定されてきた何倍もの雨が降るわけですから、仕方がないと言えばその通りです。しかし、この様な豪雨、これからも毎年、何回も起こると考えられますから、現状の把握と何らかの対策が必要と思います。筆者は今までの経験を踏まえ、考えられる原因と対策について、述べることにしました。
現場も見ていませんし、いろいろな情報と今までの経験からの意見ですので、間違っているところもあるかと思います。ご意見を賜れば幸です。
現状
報道されたニュースや報道等から、谷筋を辷った土石流であると判断できましたので、この谷筋の流域を調べようと、国土地理院の地図やGoogle Map から情報を得ました。
図-1は国土地理院の地図ですが、谷筋は松山城の西斜面の上部に始まり、被害を受けた住宅やマンションに向かっています。
この谷の流域を調べるため、上記の地図やGoogle Map(空中写真ですので木の影響などが入っています)などから、谷の左右の尾根筋を推定し、このMapの上に落としもみました。
図-2はこの流域の平面図および谷筋と尾根筋の概略の断面が示されています。
図-3はこの様相を立体的に、図-4は被害地付近を少し詳細に見たものです。
谷の流域は上部で約200m、中流で150mと推定され、この流域に200mmを超える雨が降ったわけですから、ものすごい水量が流れ込んだと考えられます。
図-1
図-2
図-3
図-4
筆者が考えます土石流の原因
筆者はかなり前になりますが、九州、鹿児島の城山周辺で起こった集中降雨による土砂災害の原因を、当時名古屋大学教授で地盤工学が専門、後に土木学会会長もされた先生と鹿児島大学でシラス(特殊な地盤名)を研究されていた先生と一緒に、相当詳しい調査を行いました。これから得た知見も含め、原因と対策を考えました。
先ず2つのことが見受けられます。辷った後写真から山を形成している地盤は風化岩と考えられる。またこの谷筋から尾根にかけて、樹木がかなり大きく成長しているが根は下部の風化岩の層には入っていない。
先ず、現場の写真から、樹木が大きく育っているので、相当深くまで樹木の根が入り込んでいる、と考えるのが普通ですが、現場のように風化岩からなる地盤(鹿児島では風化岩に代わりシラス)では、樹木を育てていく養分がありません。従って樹木は下部に根を張りません。
では、どのように樹木は育っているのかと考えますと、風化した風化岩の上に長年の間に厚さ1m程度の腐植土層が形成されていて、樹木の根はこの層内で、横方向に伸びていると考えられます。従って、樹木が成長すればするほど、その重量は大きくなり、樹木そのものの安定も悪くなるものと思います。
今回の土石流の原因ですが、地盤工学的な地滑りとは全く異なるものであると考えられます。筆者が考えます原因は谷筋に流れ込んだ大量の降雨がこの腐植土層に入りこんで次第に含水量が増えていき、最後に流動化する土に変化していき、上部の樹木を支えきれなくなって、ついに下部の樹木の根が全く入っていない風化岩からなる層の上面を土石流となって押し流されてものと推定します。
このスベリの特徴は、スベリの規模に比べ土砂の量は少なく、樹木が多く含まれること。
土石流となって流れ込んでくる土は腐植土ですから、色は黒く、細粒の粘性のある土であると考えています。
以上のことから、筆者の考えが正しければ、上部で道路補強用の工事をされていたことは、土石流にはあまり関係のものと考えております。
筆者が考えます土石流に対する対策
「水は最も流れやすい方向に流れる」性質を持っていますので、人工的に流れを変えることは不可能です。また、地盤工学的な災害対策ですが、もう少し平坦な土地であれば、谷筋に有孔の土管等を入れて降雨の伏流水など流す等の対策も考えられますが、現地の状況は非常に急峻な地盤で高低差も100m程度ありますので、非常に難しい工事になります。非常に消極的な対策ですが、次の対策を提案しておきます。
・樹木に対する対策
先述しましたように、樹木の根が深く入りませんので、樹木が大きくなればなるほど不安定になります。鹿児島では「20年経ったら木を切れ」という古くからの教えがあった、と教えていただきました。最近は環境保護の立場から、なかなか樹木に手を加えることができなと聞いていますが、「環境保護とは適度の手を加えて、良好な環境を保つこと」だと思いますので、松山城周辺の樹木に対する保護基準の作成などを作成されることも対策の一つと考えます。
・地盤工学的または構造工学的
地盤および構造工学的対策は、例えば砂防ダムを建設するとか、谷筋に有孔土管を設置する等の対策はありますが、高価で工事も難工事となりますので、ここでは、谷の麓に擁壁を設ける方法も一つの方法だと考えます。
昔から、谷筋の下は危ないと言うことは分かっていたのか、建物を建てる場合、谷の終点からある距離を離して建てていたと聞きます。擁壁を立てるというのはこの離間距離を確保するという観点に立てば、有効と思います。例えば2m程度の擁壁ができれば、数メートルの離間距離を取ったことになります。
以上、全く紙面上の検討ですが、問題と思われるところがあれば指摘下さい。
以上