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埼玉県八潮市の道路陥没事故について

■はしがき

2025年1月28日午前10時頃、埼玉県八潮市中央一丁目交差点内で道路が陥没し、走行中のトラックが転落する事故が発生しました。この事故では、運転手の方が車内に閉じ込められ、いまだ救出されておらず、心を痛めるばかりです。一日も早い救出を願っています。
報道によると、今回の陥没は「中川流域下水道の下水管の破損が原因」とされています。私は、八潮市の下水道流下方式が分流式であることを知り、この原因について疑問を抱きました。通常、下水管のひび割れ程度では、これほど大量の土砂が流出するとは考えにくいからです。
国土交通省は2月14日に緊急点検の結果を公表しました。その結果によると、約420kmの下水道管路と約1,700か所のマンホールを調査したところ、3か所で管路の腐食などの異常が確認されました。これらの箇所については、速やかに対策を実施するよう要請されています。一方、路面下の空洞調査(約320km)では、下水道管路に起因する空洞の可能性は確認されなかったと報告されています。

■事故発生当初から考えていたこと

私は事故発生直後から、以下の点について考えていました。

1.救助方法について
砂地盤で陥没部分の周囲が鉛直になっていたため、崩壊しやすく、通常の方法での接近は困難だと考えました。したがって、斜路を作る必要があると感じました。

2.原因究明の必要性
事故の本当の原因を解明するためには、まず空洞ができたメカニズムを明らかにする必要があります。しかし、事故が発生すると、「下水管の老朽化が原因である」といった一般論に話が流れがちです。そのため、事故の原因究明に必要な具体的な資料が十分に報告されていないと感じました。

このような議論の流れに対して、私は「なぜこの場所で、この規模の陥没が発生したのか」を、設計・施工・地盤の観点から冷静に分析することが最も重要だと考えています。

■陥没の原因を考察するためのポイント

1.周辺環境や地盤条件の整理
直径10m、深さ5mにも及ぶ陥没は、土砂の流出によって発生したものです。したがって、地下水の流れや水の移動状況を調べることが重要です。水は最も流れやすい方向に移動するため、水の通り道(水道・みずみち)を特定する必要があります。そのためには、道路の地盤状況や地下埋設施設の相互関係を詳細に調査することが求められます。
特に気になるのは、過去に廃止された農業用水路の影響です。廃止時にどのような処置が施されたのかを調査することが不可欠です。

2.下水道管の寿命と実態
一般的に、下水道管の寿命は50年程度と言われます。そのため、今回の事故も老朽化が原因であるとの見方が広まっています。しかし、50年というのはあくまで一般的なコンクリートの耐用年数であり、現場ごとの実態を検証する必要があります。
1975年以降、日本は高度経済成長期を迎え、品質の良い下水道管が製造・敷設されました。しかし、それらの下水管が系統的に50年経過した状態を詳細に検査した例は少なく、現状を把握することが先決です。
また、下水管は地下に埋設されており、地上に比べて温度や湿度の変化が少なく、また地中の構造物は地震の影響を受けにくいとされていますので、比較的安定した環境にあるといえます。さらに、円形の管は円周方向に圧縮力(フープコンプレッション)が働き、四辺形の管も各辺に均等に力がかかるため、ひび割れやクラックが発生しにくい構造になっています。
もちろん、下水管内では硫化水素(H₂S)が発生し、これが空気に触れることで硫酸(H₂SO₄)に変化し、コンクリートを腐食させる可能性があります。しかし、この要因を考慮しても、下水道管の寿命は一般的に考えられているよりも長い可能性があります。
短期的な強度や最終強度を考慮すると、現在の下水管が寿命を迎えるのは、20~30年先、あるいは50年後という可能性もあります。現状をしっかりと調査し、科学的な根拠に基づいた結論を出すことが重要です。

3.まとめ
今回の事故は、単なる下水管の老朽化問題として片付けるのではなく、「なぜこの場所でこの規模の陥没が発生したのか」を多角的な視点から検証する必要があります。設計・施工・地盤環境の観点から慎重に分析し、適切な対策を講じることが求められます。今後も、事故原因の徹底的な解明を期待するとともに、類似の事故を防ぐための取り組みが進むことを願います。

今回の原稿をまとめるにあたり、生成AIの助けを借りて、下水道についていろいろと調べました。この内容を参考に原稿を作成しましたので、最後にこれらを掲載しておきます。参考にして頂ければ幸です。

■わたしたちの暮らしを支える下水道

1.下水道ってどんなもの?
わたしたちが毎日使うトイレや台所、お風呂の水は、そのままでは環境に悪影響を及ぼしてしまいます。そこで活躍するのが下水道です。下水道は、生活排水をきれいに処理し、自然に戻すための重要なインフラです。

(1)下水道の流れ方
下水道には、大きく分けて 「分流式」 と 「合流式」 があります。
•分流式:雨水と汚水を別々の管で流す方式(現在の主流)
•合流式:雨水と汚水を同じ管で流す方式(古い市街地などに多い)
現在の日本では、新しく整備される下水道の多くが分流式になっています。

(1-1)分流式下水道
【概要】
汚水(家庭・工場などの排水)と雨水(降雨による水)を別々の管で流す方式。
【メリット】
•雨水が下水処理場に流れ込まないため、処理場の負担が減る。
•雨水はそのまま川や海に放流できるため、処理コストが低い。
•大雨時でも下水があふれにくい(浸水リスクが低い)。
【デメリット】
•下水管を2系統(汚水管・雨水管)整備するため、建設コストが高くなる。
•既存の都市では改修が難しい(特に道路下に埋設する場合)。

(1-2)合流式下水道
【概要】
汚水と雨水を同じ管に流す方式。
【メリット】
•管を1つにまとめるため、建設コストが抑えられる。
•既存の都市で整備しやすい(古い街では多く採用されている)。
【デメリット】
•大雨時に処理しきれない水が未処理のまま河川や海に放流されることがある(環境負荷が高い)。
•大雨による下水道の溢れ(都市型洪水)のリスクがある。
•下水処理場の負担が大きい(雨水も処理対象になる)。

(2)採用割合と主な地域
現在、日本の下水道は 分流式が主流 です。
ただし、古くから発展した都市部では 合流式も一定数存在 します。
•分流式の採用割合: 約80~90%
•合流式の採用割合: 約10~20%

(2-1)合流式が多い地域(主に古い都市部)
•東京23区の一部
•大阪市の中心部
•横浜市の一部
•神戸市の一部 など

(2-2)分流式が多い地域(新しく整備された地域)
•地方都市のほとんど
•新興住宅地
•戦後に発展した都市部の郊外

特に、環境問題や水質保全の観点から、現在は 合流式を分流式に転換する改修が進められています。

2.下水道の形と素材
下水道の管には、さまざまな形や素材がありますが、最も一般的なのは 円形のコンクリート管 です。円形は、外からの圧力に強く、水の流れもスムーズになるため、広く採用されています。
また、大きな水路や地下放水路では 四角形(ボックスカルバート) の構造も見られます。

3.下水管の製造・敷設方法とその歴史
(1)下水管の役割と種類
下水管は、生活排水や雨水を安全に運ぶための重要なインフラです。主に使用される下水管には、ヒューム管(鉄筋コンクリート管)、推進管、PRC管(プレストレスト鉄筋コンクリート管)などがあります。

(2)下水管の製造方法
(2-1)ヒューム管
・鉄筋を型枠内に配置し、コンクリートを流し込み、遠心力を利用して高密度の管を製造します。
・強度が高く、耐久性に優れています。
(2-2)PRC管(プレストレスコンクリート管)
・円周方向にプレストレスを導入し、内部圧力に強い構造。
・主に大口径の下水道や高圧水道管に使用されます。

(3)下水管の敷設方法
•開削工法:道路を掘削し、管を敷設後に埋め戻す方法。比較的施工が容易。
•推進工法:地面を掘削せず、地下で管を押し進める工法。都市部や交通量の多い場所で有効。

(4)日本の下水道の歴史と普及
•戦前:下水道の整備は限定的で、一部の都市でしか利用されていませんでした。
•1950年代~70年代:戦後復興期に入り、都市部を中心に下水道の整備が本格化。
•1970年代以降:高度経済成長に伴い、全国的に普及が進む。
•現在:2021年時点での下水道処理人口普及率は約79%、浄化槽を含めると約92.6%に達しています。

4.下水道内の有毒ガスと耐用年数への影響
(1)下水道で発生する有毒ガスとは?
下水道内は 酸素が少なく、微生物が有機物を分解することで いくつかのガスが発生します。主に次のようなものがあります。

表1

この中でも 硫化水素(H₂S) は 下水管の劣化を引き起こす最大の原因 です。

(2)硫化水素(H₂S)による下水管の劣化メカニズム
硫化水素は 酸素の少ない環境で硫酸還元菌によって発生 し、空気に触れると酸化して 硫酸(H₂SO₄) になります。この硫酸が コンクリートを溶かし、鉄を腐食させる ため、下水管の寿命を縮める原因となります。

【劣化のプロセス】
①汚水中の有機物が微生物によって分解され、硫化水素(H₂S)が発生
②ガスが下水管の内壁に付着し、空気と反応して硫酸(H₂SO₄)に変化
③コンクリートや鉄が酸で腐食され、下水管がもろくなる
④最悪の場合、穴が開いたり崩壊したりする

(3)硫化水素による寿命の短縮
通常、コンクリート製の下水管の寿命は 50~60年 ですが、硫化水素の影響が強いと 30~40年で著しく劣化することも あります。
一方、 塩化ビニル管(PVC管)やポリエチレン管(PE管) は硫化水素の影響を受けにくいため、劣化の心配が少なくなります。

(4)劣化を防ぐ対策
硫化水素による腐食を防ぐため、以下の対策が取られています。
(4-1)ライニング工法(内面コーティング)
・下水管の内側に 樹脂や炭素繊維の保護層を追加 し、硫酸による腐食を防ぐ
・近年は ポリエチレンライニング や 炭素繊維シート補強 も増加
(4-2)通気・換気設備の設置
・硫化水素が溜まらないように 下水道管内の換気を強化
・ポンプ場やマンホールに 脱臭装置を設置 し、ガスの影響を減らす
(4-3)化学薬品の添加
・硝酸塩や鉄塩を投入 し、硫化水素の発生を抑制
(4-4)定期的な清掃と点検
・高圧洗浄やロボット点検 により、堆積物の除去と腐食チェックを実施

(5)まとめ
・下水道内では硫化水素(H₂S)が発生し、管の劣化を加速させる
・定期的な点検と腐食対策が重要

5.下水道のメンテナンス
下水道が長持ちするためには、定期的な清掃や補修が欠かせません。現在、下水道のメンテナンスには以下のような方法が使われています。
(1)高圧洗浄
強い水流を使って管内の汚れを洗い流す方法。

(2)ロボットによる点検
人が入れない細い管でも、ロボットを使って映像を撮影し、内部の状態を確認することができます。

(3)ライニング工法
腐食が進んだ下水道管の内側に、新しい素材を貼り付けて補強する方法。

6.これからの下水道
(1)現在、日本の下水道は老朽化が進んでおり、耐震化や維持管理の技術が求められています。新たな材料や工法の導入により、安全で持続可能なインフラを維持することが課題となっています。

(2)現在に下水管は、古いものでは敷設後40~50年経過している。よく耐用年数が50年程度と言われているが、実際の現場における下水管の状況はこれから観察されるものであり、機会があるごとに実際の状況をよく観察し、実際の耐用年数の決定に役立てることが重要である。

■まとめ

今から約50年前、新しい空間の利用として、地下空間の利用が非常に活発となりました。筆者も地下鉄、地下通路、地下街、地下駐車場、新しい開発地の上下水道、ガス管の測量設計など、数多くの地下空間の開発に関係してきました。

(1)地下空間が系統的に整然と開発されてきたか、と言うと、どちらかというと系統的ではなく、早いもの勝ちの感があり、一つの系統の元に整理されたとはいえないと考えています。これからは、国土強靱化の観点から、一つの系統の元に整理され、今回のような地下空間の事故に対しては、各企業体が関係する地下埋設管の相互関係など,データが整備されることが重要です。

(2)日本の道路や河川のうな重要なインフラに対して、あまりにも地盤調査結果が不足しているように思います。今回のような事故の他に、地震時や降雨による災害時に地盤の基本的な情報なしに、対策を立てることはできません。系統的に地盤の情報が整理され、災害時に速やかに地盤情報が提供されるシステムが必要です。

(3)私たちの実務家が必要な地盤調査は、地盤専門の研究者が必要とされる難しい調査は必要ではありません。地盤調査の最も基本となる「標準貫入試験結果のN値の測定を伴う調査」で十分です。この調査なら、日本のどの調査会社でも実施可能であり、比較的安価な調査です。この調査から得られる結果から、強度や液状化の有無、概略の沈下の検討も可能です。

(4)地下空間は相当安定した空間です。温度や湿度の変化も少なく、地震に対しても安定した空間です。また埋設管に有利な圧縮応力も働いています。この空間に埋設された上下水道管は長期にわたって、非常に安定した空間に存在していたといえます。従って地下埋設管の寿命が問題となるとき、埋設されている環境も重要ですから、この点を十分考慮する必要があります。

(5)埋設管の寿命と言われている埋設後50年が始まる時期になりました。実際の埋設管の現状を機会あるごとに調べ、その結果が「埋設管の経過時間と挙動」に関する貴重なデータとして蓄積され、埋設管の整備に生かされることを願っています。

福岡陥没事故について思うこと

平成29年3月30日に事故原因究明の最終委員会が開かれ道路陥没事故の原因などが示されました。これから工事再開に向けてより安全な方法で行われることを期待するものです。

ここで、私は長年地盤と構造物の相互作用の数値解析に携わってきた技術者として、事故の原因究明の一助になればと考え、円形トンネル掘削後の地中の応力や塑性域の広がり等の技術的な問題と最近の公共事業で良く採用されている専門家による委員会の責任体制等について述べることにします。

1.トンネル周辺の地盤の応力

  • 図-1はトンネル掘削直後から塑性域の形成されていく様相を示している。トンネルの掘削面近傍では、青線(線1)で示した様に、円形に沿った方向と直角方向の応力差から降伏が始まり、塑性域が次第に広がって最終応力(線7、これ以上塑性域が広がらない応力)のところまで広がっていく。塑性域での二つの応力の差は降伏荷重にリンクするものであり、この応力差は弾性域では降伏荷重より小さな値となっている。

20140412_fig_1

図-1

  • トンネルのNATMの原理は不安定な降伏域と弾性域をボルトで結合し、全体として安定した断面を形成するものと考えている。したがって、トンネル上面の硬い層の長さが掘削によって形成される塑性域に比べ十分大きいことがNATMの適応する基本的な条件と考えている。また、ボルトがない都市NATMの場合、支保工のアーチアクションで塑性域を支える。

2.地盤の強度やトンネル断面の大きさと塑性域

  • 図-2は地盤の強度と塑性域の大きさの関係を示している。当然のことながら強度が大きければ塑性域は小さくなり、小さければ塑性域が広がる。

20140412_fig_2

図-2

  • また、トンネル断面が大きくなればそれに従って塑性域も大きくなる。
  • 以上のことから、地盤の強度やトンネル断面の大きさはトンネル掘削の安定性は勿論のことNATM利用の可否を決定する重要な要素である。
  • 以上の解析例は相当昔に行ったもので、今回の問題に対して解析したものではないが、定性的には陥没事故の原因解明には役立つのではないかと考えている。
  • 都市NATMでは高度な数値解析と的確な補助工法をもって、比較的軟弱な地盤に対するリスクに対応していると考えられる。

3.事故原因解明や今後のトンネル掘削の方法を決定に当たり重要と考えられる項目

  • 上述したように、トンネル掘削地盤の強度は最も重要な項目である。特に、非常に交通量の多い市街地での工事であるので、より正確に地盤の強度を求めねばならない。
  • 事故調査委員会が出された強度の値はあまりにもバラツキが多いのではないか?
  • もしこの様なバラツキの多い値しか提供できないなら、強度は平均値ではなく、最も低い値を用いて安全性を論ずるべきと考える。
  • 掘削されるトンネルの頂部から硬い岩盤層がどの程度存在するかも非常に重要である。現地の地盤は上部の柔らかい層から硬い層に変化しているのであるが、ある深さで急激に硬くなる箇所もあれば、柔らかい層から硬い層に徐々に変化していく箇所もあると考えられる。
  • 十分な追加調査を行って、この岩盤層の厚さを決定されるべきと考える。
  • 今回のトンネルで、トンネル頂部からの岩盤の厚さを増やすために部分的にトンネル頂部の高さを下げられているが、これは上記の塑性域を増やすだけで、全く意味のないことである。またアーチアクションも効きにくくなる。
  • 数値解析については報告者案には万能ではないので頼るべきではないと記述されている。しかし、この業務では、全応力に基づいたFEMで解析がおこなわれており、現在の解析レベルから判断すると、解析はpoorである。地盤の解析には有効応力でしっかりした構成式を使用する解析を行うべきである。また、地下水位等自然条件や施工条件も施工時期により異なるので、設計時とは別にリアルタイムで高度な解析を行うシステムを準備して施工を行うべきであったと思う。
  • 薬液注入は障害物があり、止めたとみられるが、これは致命的ではないかと思われる。水みちを塞ぐのにしっかりした薬液注入が必要でなかったか。障害物の位置等は事前に試掘調査等で把握できるので対応可能と思われる。駅前の道路で地下に障害物がない方がおかしい。

4.責任体制

このトンネル掘削のプロジェクトの責任体制について考える。

  • 今回の様に、行政側の行う土木の工事では、設計監理の作業に含まれる企画・計画、設計、施工管理等の作業の大部分が外注されているにも拘わらず、形の上では、作業は全て行政府側で行われたことになっている。設計図書の著作権の問題も含め、土木コンサルタントは部分的な補助作業を行っているに過ぎない。
  • 行政側の技術者は設計の責任は行政側で取るものであるという認識があるのかどうか?
    土木コンサルタントも行政側や専門委員会の先生方の意見に対し、指示を待つのではなく、しっかりと担当技術者としての意見を述べられたのかどうか?
  • 施工業者はトンネル工事に関しては最も経験があると考えられるので、今回の様な市街地の掘削に対してどのような意見をもっておられたのか?
  • 設計施工分離型の発注であっても施工経験を生かした意見を述べられたのか?
  • リスクを承知で受託した経験豊富で技術力あるとされる施工会社に施工を一任されたように見える。本来なら、行政側技術者、専門委員会のメンバーは毎日の施工記録を点検検討し、日々の施工計画の可否を判断する必要と責任があったと思う。
  • 数値解析等の理論的なサポートもなく、補助工法の適用も制限された施工業者はちっと掘っては落ちなかったら先に進む、という方法では危機管理に非常に問題があったのではないかと思う。このトンネルのような力のつり合いでの安定の場合は、予兆はほとんどなく、崩壊の進行は急激であるのはある意味常識であろう。

5.専門委員会のあり方とオーナーズコンサルタント

  • 行政の技術者は専門的なところは学識経験者で構成する委員会等を活用する場合が多い。問題はこの学識経験者の皆様が自分の責任、すなわち、先生方の意見は絶対的に正しいと世間も行政側も受けとめられていることを十分認識して委員なっていられるかどうか?
  • 委員会の先生方の述べられる意見が現場で完全に実現できるかどうか、も大きな問題である。行政の技術者が学識経験者の意見を十分認識し工事に生かしていくことが出来るかどうかということも考慮されねばならない。
  • 行政の技術者の数が少ないうえに、分野ごとの行政組織の壁があり、分野を超えた経験ができにくいということがあると考えられる。これが今日多くの分野に関係するプロジェクトに問題が発生する原因の一つであるかと思われる。
  • 日本の学識経験者も欧米の先生方の様に、プロジェクトの早い段階から参画され、担当技術者と十分議論され、また自らも設計や解析の作業を担当されて、先生方が持っていられる学者レベルの高い技術力を実際のプロジェクトに生かしていくことが日本全体の技術力の向上に役立つものと考えている。
  • この様な制度を確立するためには、日本においても学者レベルの技術内容が理解でき、且つ、実際の工事についても理解できるオーナーズコンサルタントの制度を育成することだと考えている。
    以上

福岡陥没事故に関する11月26日の沈下報道に関して思うこと

11月26日福岡駅前の陥没事故現場で再び沈下が発生したと報道された。沈下の最大値は7cmであって、福岡市の担当者の報告では、想定内であったと報告されている。

このような沈下は、前のブログで述べた様に、危惧していた通りのものであり、また沈下の起る様相に少し疑問があるので、この件に関し再び意見を述べる。

1.11月26日の沈下に関する報道

① 県警や市によると、8日に陥没事故が起きた市道「はかた駅前通り」の現場で計12カ所、沈下が発生しないか計測していた。今回、沈下が発生したのは陥没現場とほぼ同じ範囲で、路面が最大7センチ沈下している計測結果が出た。けが人はなく、ガス漏れや停電、断水などの情報は入っていないという。

② 午前1時半ごろ、通行止めの基準となる2.4cmの沈下を計測したため、県警に通報し、交通規制を実施。午前3時ごろまで徐々に沈下が続いたが、その後、沈下は確認されず、地割れなどの危険性がないとして通行を再開した。

③ 再開後に記者会見した施工業者の大成建設JV(共同企業体)は、沈下の原因について「埋め戻した部分の下の土砂の緩んだ部分が重みで圧縮された可能性がある」と説明。「これ以上の大幅な沈下についてはないと考えている」と述べた。ただ、大成JVと市ともに「再度の通行止めは想定していなかった」という。引き続き、24時間態勢で沈下の計測を続ける。

2.沈下の原因の究明

① 福岡市や施工業者の説明によると「埋め戻した部分の下の土砂の緩んだ部分が重みで圧縮された可能性がある」と説明。また、「これ以上の大幅な沈下についてはないと考えている」と説明されている。これはどの様な根拠に基づいているのか?

② 11月8日の陥没現場の写真によると、現場は泥水が溜まっており、その下に、所謂、「ヘドロ」と呼ばれる非常に弱い土が堆積していたと想定される。この上に流動土が流し込まれたのであるが、ヘドロの性質や堆積している量が分からないと沈下の推定は出来ない。どの様な地盤を想定されて沈下の予測をされたのか?

また、報告された沈下量の増加の様相が少しおかしいのではないか?

③ 堆積しているヘドロはある程度粘性土の性質をもっていると考えられるが、沈下は復旧から15日程度では発生しないで、かなり時間をかけて発生してくるものと考えられる。

④ この他にも、流動土の上で、埋め立てに使われた土砂の性質も非常に重要である。また、締め固め土砂の最適含水比と施工時の含水比等は非常に重要なデータであり、今後起るかもしれない沈下量の推定に必要である。

⑤ 既に事故究明のために必要な十分なデータを収集されていれば良いのだが、この件に関しあまり報道されないので、念の為、これから必要なことを書きとめる。

3.これから復旧工事に向けて必要と考えること。

駅前の陥没事故に対し、あまりにも見事に、速やかに復旧工事が行われ、事故の大きさに比べ、犠牲者や付随した事故がなかったものであるから、見落とされがちだが、今回の事故は、平面的に30mx30m、深さ15m、流出土量10,000mという、市街地ではあってはならない大事故です。予測出来ない不可抗力ということでは済まされません。

更に、事故の後に計画通りの地下鉄を構築するという難しい大工事を完成しなければならない訳だから、原因究明や付近の調査など今やらねばならないことが数多く有ると思っている。そこで、自分なら、今やっておきたい事項を記しておく。

① 事故前の付近の種々のデータの収集と分析

  • 崩落事故前の岩盤表面コンター図の作成と岩盤層強度や地下水位の調査
  • 陥落現場付近には幾つかのビルが建設されており、各ビルの建設には地盤調査がなされていたと思う。これらのデータと地下鉄の地盤調査結果を合わせれば、所謂、岩盤と言われている層の崩落事故前の表面コンター図は得られると思う。
  • 岩盤と言われている層の性質と強度
  • これと岩盤層の強度や地下水の位置が分かれば、崩落事故前の地下鉄の掘削に必要なデータが得られる。

② 十分な地盤調査の実施

  • 崩落事故後、現場で地盤調査が実施されているようには見えない。
  • 事故現場の原因の究明のためにも、これからの地下鉄工事を安全に進めるためにも、現場で十分な地盤調査を実施する必要がある。

③ ビルを含む現場の変形図の作成と計測の継続

  • 崩落現場とビルの間には、ビルの建設時に使われたと思われる地中壁が存在していて、ビル側の崩落を防いでいた。しかしこの壁はビルの地下部分を掘削するために使われたもので、この壁にかかる力の方向は今回の崩落事故時に発生した力の方向と全く逆と考えられる。すなわち、ビルからの土圧が支保工の存在しない方向へ働き、幾分水平変形を起こしたかもしれない。
  • 10m以上直立した地中壁がビル側から崩落側に押された場合を考えると、壁が倒壊しなかったことは非常に幸運なことであったとも考えられる。
  • 以上のことから、ビルやインフラ等が事故前に比べると水平変形をしていないか、地下鉄工事再開前に調べておく必要がある。

④ ビルの地下内部調査

  • 前述した地下壁は全面同じ強度を持ったものではないと思う。水平的に強いところと弱いところがあって、全体として建設時に支保工の力を借りて、ビルの内部掘削に耐えた壁である。今回の崩落現場で、ビル側から若干土砂や水が流れ出ているところがみられた。
  • 10,000m3もの土砂が流れ出た時、ビル側からは全く出ていないというのも不自然のように思えるので、部分的に流出したかどうか、調査が必要である。

4.これからのトンネル工事の調査、設計、施工、設計監理について

① 今回の様な市街密集地の事故は絶対再び起こしてはならない。今回の事故で以前にも増して難工事になった地下鉄工事の為に、各方面の技術を結集して当たられることが望まれる。

② 10,000mに及ぶ土砂がトンネル内にどのように流れ込んだのか、現在地下水の流入が有るのか調査し、必要なら調査を継続する必要がある。

③ 土は一度破壊されると以前とは全く異なった弱い物質に変化する。従って、必要な地盤調査は全て一からやり直す覚悟が必要である。

④ 以上の様な十分な現場のデータを反映し、解析によってトンネル掘削時の地盤の応力変化を求める。最近の解析技術の発展を考慮すれば現実的な結果は得られるものと考える。

⑤ いろいろなトンネルの施工方法も考えられるが、十分に安全な施工方法を用いることが肝要である。この際、費用や施工時間より安全性が最も重要である。

⑥ 更に安全を期するために、計測施工法の導入も必要である。

⑦ 独立した施工管理のチーム作り、計測や施工に携わる技術者と良く相談しながら安全性を確認してトンネルが無事完成することを望む。

⑧ トンネルの施工中に、専門委員会の先生方にも適宜相談して頂くよう、お願いしておく必要がある。

以上

福岡博多駅陥没事故に思うこと

2016年11月8日に発生した福岡博多駅前陥没事故では、福岡地方の建設関係の方々が総力を結集されて復旧工事が行われ、埋め戻しやインフラを復旧させて13日に地表面まで埋め戻され、14日にはほぼ復旧の運びとなりました。工事関係者が力を結集されて、こんなに早く工事を完成されたことは本当に日本の建設業の実力を示され、素晴らしいことだったと思っています。しかし、今、道路が陥没していく映像や陥没した地盤が非常に早く復旧していくことに目を奪われているが、これからが問題で、非常に重要なことが残されています。

小職は、個人としては十分な資料を集めることはできませんが、マスコミで報道されていることに少し疑問があり、この様な事故が起きた時に一般的に問題となる事項を記しておきたいと思います。

 

1.地盤内にトンネルを構築した場合、地中の応力とトンネル外側に生じる塑性域

① 応力を持つ地盤内に円形状の断面を持つトンネルを掘削すると、円周方向と円周直角方向の応力差から掘削の内面から塑性域(簡単には地盤が軟らかくなり、変形が進行する領域)が生じる。この塑性域の厚みは地盤の強度によって異なり、強度が大きければ塑性域が小さく、強度が小さければ大きくなる。

② 強度にバラツキが有れば塑性域の厚みもバラツキ、時間依存性のある弾塑性体では時間と共に塑性域が広がっていくこともある。

③ この為、トンネルを構築する周辺地盤の強度や変形特性は非常に重要である。また、地盤内の応力が決定されるトンネルの深さ、硬い地盤の表面の深さやトンネル上面までの厚さも非常に重要である。

2.陥没事故現場の地盤

① 新聞やテレビ等のマスコミの報道によりますと、トンネルを掘削している地盤は岩盤となっているが、土丹と呼ばれるものではないでしょうか?

② 岩盤層の表面はトンネル掘削方向に対して同じ深さが続いているのでしょうか?

③ 以上の点はトンネル構築上非常に重要である。

3.土丹層の性質

① 土丹は粘土が非常に長い年月で固結され、非常に硬い岩盤状になったものだと考えている。土丹層の深いところでは非常に強固なもので、周辺のビルのような基礎杭を支持するに十分な強度を持っていると考えられる。

② しかし、土丹層の表面近くでは、長年の間に地下水や応力の変化等の影響で性質が変化して強度が弱くなり、また、弱くなる程度は土丹の性質によって変化する、と考えられる。従って、強固な土丹層の表面は微妙に変化するものと考えられる。

③ 更に、土丹層で、今までかかっていた応力が解放される場合や掘削表面が空気に晒されると土丹層の強度が弱くなることも考えられる。

4.地盤調査について

① 地盤調査法で最もポプラーな方法は標準貫入試験と言われるもので、質量63.5kgの重りを76cmの高さから自由落下させてサンプラーを30cm貫入するに要する打撃回数(N値)を求めるものである。

② この試験では、砂の性質を比較的正確に求めることが出来るが、粘土の強度や沈下性状は正確に求めることは出来ない。しかし、非常に早く、安価に実施できることから一般的に良く使われている。

③ このように非常に早く安価な試験にも拘わらず、一般的にプロジェクトの全体の費用に比べ、調査に使われる費用は非常に小さい傾向がある。

④ 特に、道路やトンネルのように延長が長いプロジェクトではボーリングの数が限られてくることが多い。

⑤ 一方、陥没現場付近は多くのビルが建設されており、地盤調査結果も多数存在していると考えられるので、これらの調査結果を収集すれば地盤の概要は十分得られるものとかんがえられる。

⑥ 以上、新しく得られたデータと既往のデータからかなり正確に付近の地盤の概要が把握できると考えられる。

⑦ 当該の工事は都市部の地下鉄工事で、特に、硬い地盤の上部でトンネルとの厚みが少ない場合であり、出来るだけ多くの資料の収集や精密な調査が必要と思われるが、十分なされたのでしょうか?

5.NATM工法の原理と当該のトンネルへの適用性

① 掘削した部分を素早く吹き付けコンクリートで固め、ロックボルトを内部の安定した岩盤層まで打ち込むことにより、すなわち、幾分不安定になるトンネル内面付近と安定している地山とを結びつけて全体として安定した地山を構築し、地山自体の保持力を利用してトンネルを安全に掘削する工法と考えている。

② 今回の報道によると、トンネルの上面からわずか2メートルのところに岩盤と言われる層の上面があり、トンネルの上半分を掘削中で、半径は数メーター、また、掘削工法はNATMが使われていたと報道されている。

③ この場合、先ず疑問に思うことは、トンネル上部の硬い層の層厚が2メートルで、数メートルの幅のトンネルを掘削する時、NATMの掘削理論が使えるのだろうか?

④ NATMでは、単にロックボルトを内部に打ちこむだけでなく、真の目的は安定した地山自体の保持力が発揮できる状態にすることである。

⑤ NATM工法は経済的な(安い)工法である。トンネルは基本的には完成時は施工法によらず安定であり、安全であればコストをかけず施工するのがよいが、この場合費用は主に市民国民の税金であろう。担当者は予算に縛られたかもしれないが、正しい施工や力学理論の適用により、コストを削減しながらも適正な調査や施工にコストをかける必要があると思う。発注担当者、施工者が前もって分かっている陥没のリスクの程度をどこまでとるかの判断の妥当性も問題であろう。

6.陥没部の復旧前後の現場の状態

① 報道された映像から判断すると、陥没現場のビル側は10m程度直立している。

② 土、特に砂質土は直立することが出来ないので、ビルの工事中に残されたものか?土留め壁が存在していたと考えられる。

③ この様な状態であれば、この壁はビル側から陥没現場側に一時的ではあるが土圧受けることになる。

④ 陥没現場の道路に面したビルで、基礎形式は不明であるが、鉛直方向は杭で支持されているはずなので、沈下などの影響は少ないと考えられるが、水平方向は土中の応力が減少して土の強度も弱くなり、また、地下水圧も変化するので、何らかの影響が出ると考えられる。

⑤ このような事故が起った時、事故発生後復旧工事が終わるまで、例えば、土留め壁、ビルや地盤等の変形を測定すれば原因究明に役立つものである。

⑥ 今回の復旧工事で、陥没の底面には濁水で満たされていて底面の状況が分からないまま、流動土を流し込まれ復旧を急がれました。現場が主要な道路上であった事を考えると、一つの立派な対策であったと考えられる。

⑦ しかし、濁水の底面に溜まっていたであろうと推定されるヘドロの厚さ、流動土が入っていかない空間の存在、上部の土砂の締め固め方法など、これから長期にわたる変形等が生じる可能性もある。

⑧ 今後は、「降雨や地下水の回復が長期的に付近のビルや地盤にどのように影響を及ぼすか」について、付近の十分な計測がなされ、事故原因の究明に役立たせることが望まれる。